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ゴーシェ病の原因遺伝子 GBA1

GBA1 はリソソーム脂質加水分解酵素グルコセレブロシダーゼ(Glucocerebrosidase, GCase)をコードする遺伝子で、GBA1のホモ変異でGCaseの活性が低下し、基質のグルコセレブロシドが肝脾、骨髄、脳内などに蓄積し重篤な症状をきたします。

この変異をヘテロで持つキャリアの人達は、ゴーシェ病への罹患は免れますが、晩年パーキンソン病(Parkinson's disease, PD)やレヴィ小体型認知症(Dementia with Lewy bodies, DLB)などのレヴィ小体病(Lewy body disease, LBD)に罹患しやすいことが以前から知られていました [1]

そして2011年にGCaseとα-シヌクレイン(α-synuclein, α-syn)の相互作用が報告され [2]

さらにGBA1変異がない孤発性PDでもGCase活性が下がっている事が報告されました [3]

現在は、Ambroxol など、GCase活性を上げる薬剤のPD治療への臨床試験が進められています。[4, 5, 6, 7]

では、GBA1変異がないのにGCaseが下がってPD病理をきたす患者さん達には何が起こっているのでしょうか?

今回、アメリカ・ジョーンズホプキンス大学の Dr. Ko、Dr. Kim、Dr. Dawsonらの研究グループは、「GCaseはTRIP12の基質で、TRIP12→GCase→α-Synの病理メカニズムが存在する」という事を報告しました。

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TRIP12によるGcaseのユビキチン化がPD病理を促進する

GCaseに結合するタンパクとしてTRIP12が浮上

まず彼らは、GCaseと相互作用するタンパクをみるため、tandem affinity purification (TAP) でタグ付けしたGCaseをSH-SY5Y細胞に発現させて、TAPと結合するタンパクを抽出し、Nano-LC-ESI-(CID/EDT)-MS/MS で確認しました(TAPスクリーニング)。

結果、54のタンパクが同定されましたが、その中でも特にTRIP12, Clnexin, GRP94の相互作用が多く、免疫沈降(Immunoprecipitation, IP)でも確認できました。

特に彼らが注目したのがTRIP12で、これは脳内では皮質や海馬で多く発現しますが、線条体、脳幹(incl. 中脳)、小脳などでも発現が見られます。

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そこで彼らはヒトの脳皮質からTRIP12とGCaseをCo-IPして、2つが実際のヒトの脳内でも相互作用していることを確認しました。

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MYCでタグ付けしたGCase(MYC-GCase)と、FLAGでタグ付けしたTRIP12(FLAG-TRIP12)をSH-SY5Y細胞に入れて細胞内局在を見ると、それらはほとんど小胞体(endoplasmic reticulum, ER)で相互作用しているようでした。

GCaseはTRIP12の基質

TRIP12はE3リガーゼで、TRIP12のHECTドメインが基質をユビキチン化することが知られています [8]

著者らは、GCaseもTRIP12の基質なのかどうか調べました。

FLAG-TRIP12とMYC-GCaseあり/なしでSH-SY5Y細胞で確認すると、FLAG-TRIP12とMYC-GCaseを両方発現させた場合のみでMYC-GCaseのポリユビキチン化が起こっており、この現象はTRIP-12のC1959A変異で起こらなくなりました。

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まず、TRIP12をノックアウトすると、GCaseはユビキチン化されませんでした。

続いて、TRIP12はK48とK63のどちらでGCaseをポリユビキチン化しているのか調べると、K63ではなくK48のユビキチン鎖を作っており、TRIP12はGCaseをK42ポリユビキチン化してプロテアソーム依存タンパク分解経路に導いていると考えられました。

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プロテアソーム阻害剤のG132下で、TRIP12を欠失(TRIP12-/-)させたり過剰発現(TRIP12 OE)させたりして確認すると、著者らの予想どおり、GCaseのK42ポリユビキチン化は、TRIP12-/-で無くなり、TRIP12 OEで増加しました。

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また著者らは近接ライゲーションアッセイ(proximity ligation assay, PLA)でも同様に確認し、さらにGCaseのK293Rではこの作用が起こらない事も示しました。

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以上の結果から、

「TRIP12はGCaseのK293Kをユビキチン化し、K48ポリユビキチン鎖を作る」

という事が考えられました。

TRIP12はGCaseのタンパクレベルを調節することでα-Synの発現も変化させる

TRIP12がGCaseをK48ポリユビキチン化することが判明したので、次に彼らはそれによってGCaseがプロテアソーム系で分解される事を確かめました。

色々な変異を入れたGCaseにMYCタグをつけて、FLAG-TRIP12とともにSH-SY5Y細胞に発現させ、経時的な変化を追うと、

  • MYC-GCase WT
  • MYC-GCase K155R
  • MYC-GCase K157R
  • MYC-GCase K198R
  • MYC-GCase K408R

では時間依存的にMYC-GCaseの量が減っていくのに対して、

  • MYC-GCase K293R

ではGCaseの発現量に変化がなかった事から、やはりTRIP12はGCaseのK293に結合してGCaseの分解に寄与していると考えられました。

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さらにTet offシステムでFLAG-TRIP12の発現を調節するSH-SY5Y細胞を作製し、MG132あり/なしの状態でTRIP12の発現でGCaseのポリユビキチン化およびその後の分解がどう変化するか調べると、

MG132あり&DOXなし(TRIP12+)ではK48ユビキチン鎖とMYC-GCaseの発現量が上がり、

MG132なし&DOXなし(TRIP12+)では、プロテアソーム分解機能によってMYC-GCaseの発現量が経時的に下がっていきました。

そして彼らの予想どおり、GCaseK293R変異でこの現象は起こりませんでした。

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TRIP12は孤発性PD患者さんとPDマウスモデルでも蓄積している

色々確からしいことがわかった上で、次に彼らは、上記の結果が実際のPD患者さんの脳内で起こっているのか確認しました。

PD患者さんの黒質(Substantia Nigra, SN)を調べると、TRIP12はコントロール群と比べて5倍以上増加しており、GCaseは半分以下になっていました。

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さらに、α-Syn PFF を脳内接種したマウスの中脳腹側(6 mpi)や、A53T α-Syn 変異マウス(9-10mo)の脳幹でも同様の現象を確認しました。

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ERストレスが転写因子ATF6を介してTRIP12の発現を上げる

次に彼らが調べたのはPDの病理メカニズムの一つとして注目されているERストレスです。

SH-SY5Y細胞にいくつかの薬剤を処置して調べると、ERストレスを上げる薬剤のtunicamycin(TM)とthapsigargin(TG)を処置した時、TRIP12 mRNA量が増加しました。

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この現象に何のファクターが関わっているのか調べるため、彼らは transcription factor array を行ったところ、Activating Transcription Factor 6(ATF6)が候補として浮上しました。

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以上の結果から、

「ERストレスによってATF6が上がり、それによってTRIP12の発現量が上がってPD患者さんやモデルマウスのSN細胞内に蓄積する」

という可能性が考えられました。

TRIP12をノックダウンすると、ミトコンドリア機能異常およびα-Syn病理が改善する

次に彼ら、TRIP12の増加を抑える事で、PD病理が改善するかどうか調べました。

SH-SY5Y細胞にTRIP12を過剰発現させると、ミトコンドリアの形態異常、酸化ストレスの増加、酸素消費速度(Oxygen Consumption Rate, OCR)の低下 etc. が観察されましたが、GCaseも一緒に過剰発現するとそれが元の状態まで戻りました。

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また、FLAG-TRIP12の過剰発現ではα-Syn-GFPの凝集形成が見られましたが、こちらもGCaseの共過剰発現で改善しました。

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逆に、ニューロンにα-Syn PFFを処置した系でTRIP12をノックダウン(TRIP12 shRNA)すると、

  • α-Syn PFFによる神経毒性
  • 酸化ストレス
  • ミトコンドリア機能異常
  • OCR低下
  • α-Syn凝集体(preformed fibrils, PFFs)形成

などが軒並み改善しました。

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さらに著者らは、3つのチャンバーが連結したmicrosluidic chamberの各Chamberにニューロンを撒いて、Chamber1にα-Syn PFFを処置し、α-Synの細胞間伝播を調べました。

結果、TRIP12 shRNAの系ではChamber2やChamber3でのα-Syn凝集体形成が抑えられ、

「TRIP12をノックダウンすると、α-Synの細胞間伝播も抑えられる」

事が示唆されました。

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TRIP12ノックダウンはヒト由来のDA細胞、ヒトiPS細胞由来のDA細胞でのα-Syn凝集体形成も抑制する

TRIP12ノックダウンの影響をもっとヒトに近い状態で観察するため、彼らは

  • ヒトES細胞から分化させたドパミン神経細胞(DA細胞)
  • 健常人とGBA1変異のPD患者さんのiPS細胞から分化させたDA細胞

に、TRIP12ノックダウンあり/なしの状態でα-Syn PFFを処置して、α-Syn凝集体形成に違いがでるかどうか確認しました。

結果、ES-DA細胞でもiPS-DA細胞でも、TRIP12ノックダウンで

  • GCase活性があがり、
  • α-Syn凝集体形成が抑えられ、
  • 神経毒性が改善し、
  • チロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase, TH)の量が改善

しました。

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▲ ES細胞から分化させたDA細胞

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▲ iPS細胞から分化させたDA細胞

TRIP12ノックダウンでα-Syn PFF脳内接種マウスの神経変性も改善する

彼らは最後に、α-Syn PFF線条体接種マウスの黒質でのα-Syn凝集体形成および神経変性がTRIP12ノックダウンで改善するかどうか調べました。

結果は予想通りで、TRIP12 shRNA でTRIP12をノックダウンしていたマウスでは、

  • GCase量↑
  • 黒質のα-Syn凝集体形成↓
  • 黒質のTH細胞の神経変性↓
  • 運動機能↑

という、いいことづくめの結果が得られました。

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以上、vitrovivo の結果から、

孤発性PDでERストレス↑
  ↓
ATF6によるTRIP12の転写↑
  ↓
GCaseのK293にK48ポリユビキチン鎖を付加
  ↓
プロテアソーム系によるGCaseの分解、減少
  ↓
α-Synの凝集体形成↑
ミトコンドリア機能↓
  ↓
黒質の神経変性およびPD症状発症

というメカニズムが考えられました。

My View

今回は、孤発性PD患者さんでGCaseが低下し、α-Synが蓄積する背景に、ERストレスによるTRIP12の発現上昇があり、それによってGCaseが分解されてα-Synが蓄積する、というお話でした。

いつもながらこのグループのデータは綺麗だし、膨大な実験量です。

ただ、いつも本当に綺麗すぎるので、どうやっているのかなーと不思議になります。

例えば患者さんのデータがどれも R2=0.7-0.9 なんですが、こんな事、どうやったら起こり得るんでしょうか……

 

データが全部信用できないというわけではないんですが……

同じ実験系でも他からの報告とは全く違った(凄く良い)結果が得られたり、

独自に見出したPD関連分子なども追試する人いなくて、彼らからの発表だけで留まっている事が多いので……

今回の結果も綺麗だし説得力のある内容なんですが、他の人達が追試してみてどれだけ再現性があるのか気になります。

……誰かやってくれないかな。

References

    1. Do J, McKinney C, Sharma P, Sidransky E. Glucocerebrosidase and its relevance to Parkinson disease. Mol Neurodegener. 2019 Aug 29;14(1):36. doi: 10.1186/s13024-019-0336-2. PMID: 31464647; PMCID: PMC6716912.
    2. Mazzulli JR, Xu YH, Sun Y, Knight AL, McLean PJ, Caldwell GA, Sidransky E, Grabowski GA, Krainc D. Gaucher disease glucocerebrosidase and α-synuclein form a bidirectional pathogenic loop in synucleinopathies. Cell. 2011 Jul 8;146(1):37-52. doi: 10.1016/j.cell.2011.06.001. Epub 2011 Jun 23. PMID: 21700325; PMCID:PMC3132082.
    3. Gegg ME, Burke D, Heales SJ, Cooper JM, Hardy J, Wood NW, Schapira AH. Glucocerebrosidase deficiency in substantia nigra of parkinson disease brains. Ann Neurol. 2012 Sep;72(3):455-63. doi: 10.1002/ana.23614. PMID:23034917; PMCID:PMC3638323.
    4. ClinicalTrials.gov, Ambroxol in Disease Modification in Parkinson Disease (AiM-PD)
    5. Mullin S, Smith L, Lee K, D'Souza G, Woodgate P, Elflein J, Hällqvist J, Toffoli M, Streeter A, Hosking J, Heywood WE, Khengar R, Campbell P, Hehir J, Cable S, Mills K, Zetterberg H, Limousin P, Libri V, Foltynie T, Schapira AHV. Ambroxol for the Treatment of Patients With Parkinson Disease With and Without Glucocerebrosidase Gene Mutations: A Nonrandomized, Noncontrolled Trial. JAMA Neurol. 2020 Apr 1;77(4):427-434. doi:10.1001/jamaneurol.2019.4611. PMID:31930374; PMCID: PMC6990847.
    6. ClinicalTrials.gov, Ambroxol as a Treatment for Parkinson's Disease Dementia
    7. Silveira CRA, MacKinley J, Coleman K, Li Z, Finger E, Bartha R, Morrow SA, Wells J, Borrie M, Tirona RG, Rupar CA, Zou G, Hegele RA, Mahuran D, MacDonald P, Jenkins ME, Jog M, Pasternak SH. Ambroxol as a novel disease-modifying treatment for Parkinson's disease dementia: protocol for a single-centre, randomized, double-blind, placebo-controlled trial. BMC Neurol. 2019 Feb 9;19(1):20. doi: 10.1186/s12883-019-1252-3. PMID: 30738426; PMCID: PMC6368728.
    8. Park Y, Yoon SK, Yoon JB. The HECT domain of TRIP12 ubiquitinates substrates of the ubiquitin fusion degradation pathway. J Biol Chem. 2009 Jan 16;284(3):1540-9. doi: 10.1074/jbc.M807554200. Epub 2008 Nov 21. PMID: 19028681.
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