SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-5

ビタミンB群が神経保護的に働く事は時々聞きますが、その中の1つであるナイアシンは、ビタミンB3に該当し、ニコチン酸(nicotinic acid)とニコチンアミド(nicotinamide)の総称になります。

ニコチン酸は小腸から吸収されると、肝臓で酸化型のNAD+ (Nicotinamide adenine dinucleotide) に代謝され、還元型の NADH の間で電子のやり取りをすることで,さまざまな酸化還元反応を媒介しています。

NAD+はATP産生、ミトコンドリアの恒常維持、ストレス反応など、色々と重要な機能を有しており、10年ほど前にアルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)業界で一世を風靡した sirtuin もNAD+ 依存性アセチル化酵素です [1]

NAD-function
▲ Wang et al., Front Cell Develop Biol より

NAD+ 投与で 3xTg マウスのDNA障害、神経炎症、シナプス障害、認知機能障害などが改善したという報告もあり [2]、ナイアシン/NAD+ は、AD の予防・治療法の1つとして注目されています。

 

でも、ナイアシンのAD病理改善のメカニズムはそれだけではないようです。

今回、アメリカ・インディアナ大学の Dr. Landreth らの研究グループは、

「ナイアシンがミクログリアの HCAR2 のリガンドで、この受容体がミクログリアのAβプラークお掃除機能に重要な役割を持つ」

という事を報告しました [3]

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-title

ナイアシン受容体のHCAR2がミクログリアを活性化し、ADに保護的に働く

ADマウスモデルとAD患者脳内では HCAR2 の発現が上がっている

以前からナイアシンは、Gi-linked heterotrimeric guanine nucleotide-binding protein-coupled receptor (GPCR) の1つである hydroxycarboxylic acid receptor 2 (HCAR2) (別名: GPR105A) のリガンドであることが報告されていました [4]

ナイアシンはAD病理に対して保護的に働く事が知られていた事から、彼らは、この HCAR2 がミクログリアのフェノタイプに重要であるという仮説をたてました。

マウスとヒトで HACR2 の発現を調べると、Hcar2 mRNA は 5xFAD マウスのミクログリアで年齢依存的に発現が上昇しており、PLX5622 でミクログリアを欠失させると、HCAR2 の発現量も下がりました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-1

また、ヒト剖検脳で検証した結果、AD脳内ではコントロールとくらべて、ミクログリアでの HCAR2 の発現量が上がっていました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-2

Hcar2 を欠失するとミクログリアのAβプラーク貪食機能が落ち、ADの病態が増悪する。

Hcar2 の機能を調べる為、著者らは 5xFAD マウスと Hcar2 ノックアウトマウスを交配しました。

すると、Hcar2 欠失により、ミクログリアの免疫プロセスや貪食機能などが低下しており、Spp, Cst7, Cd68, Trem2, Tyrobp, Axl など、ミクログリアの活性マーカーが軒並み低下しました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-3

Hcar2欠失により、5XFADマウスのAβプラーク量は増え、

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-4

プラーク周囲のミクログリアも減っていました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-5

さらに 5xFAD;Hcar2-/- マウスでは神経障害が加速し、

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-7

認知機能低下も増悪していました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-6

ナイアシンの経口投与でAD病理が改善する

Hcar2 がミクログリアの活性化に関与し、AD病理の軽減に重要であることがわかったので、今度はそのリガンドであるナイアシン摂取がAD病理に影響するかどうか調べました。

5ヶ月齢の 5xFAD マウスに FDA で承認されているナイアシン製剤 "Niaspan" を経口摂取 (100mg/kg) させると、

認知機能、神経障害、Aβプラークの数が改善しました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-8
SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-9

また、プラークあたりのミクログリアの面積も増えており、活性化ミクログリアのマーカーが軒並み上昇していました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-10

このような変化は 5xFAD;Hcar2-/- ではみられず、ナイアシンの効果は Hcar2 を介していると考えられました。

SciTranslMed-022-niacin-HCAR2-AD-11

以上の結果から、

ナイアシン
  ↓
Hcar2
  ↓
ミクログリアの貪食能↑
  ↓
Aβプラーク減少、
神経障害および認知機能改善

というメカニズムが考えられました。

References

  1. Wang X, He HJ, Xiong X, Zhou S, Wang WW, Feng L, Han R, Xie CL. NAD+ in Alzheimer's Disease: Molecular Mechanisms and Systematic Therapeutic Evidence Obtained in vivo. Front Cell Dev Biol. 2021 Aug 3;9:668491. doi: 10.3389/fcell.2021.668491. PMID: 34414179; PMCID: PMC8369418.
  2. Hou Y, Lautrup S, Cordonnier S, Wang Y, Croteau DL, Zavala E, Zhang Y, Moritoh K, O'Connell JF, Baptiste BA, Stevnsner TV, Mattson MP, Bohr VA. NAD+ supplementation normalizes key Alzheimer's features and DNA damage responses in a new AD mouse model with introduced DNA repair deficiency. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Feb 20;115(8):E1876-E1885. doi: 10.1073/pnas.1718819115. Epub 2018 Feb 5. PMID: 29432159; PMCID: PMC5828618.
  3. Moutinho M, Puntambekar SS, Tsai AP, Coronel I, Lin PB, Casali BT, Martinez P, Oblak AL, Lasagna-Reeves CA, Lamb BT, Landreth GE. The niacin receptor HCAR2 modulates microglial response and limits disease progression in a mouse model of Alzheimer's disease. Sci Transl Med. 2022 Mar 23;14(637):eabl7634. doi: 10.1126/scitranslmed.abl7634. Epub 2022 Mar 23. PMID: 35320002.
  4. Wise A, Foord SM, Fraser NJ, Barnes AA, Elshourbagy N, Eilert M, Ignar DM, Murdock PR, Steplewski K, Green A, Brown AJ, Dowell SJ, Szekeres PG, Hassall DG, Marshall FH, Wilson S, Pike NB. Molecular identification of high and low affinity receptors for nicotinic acid. J Biol Chem. 2003 Mar 14;278(11):9869-74. doi: 10.1074/jbc.M210695200. Epub 2003 Jan 9. PMID: 12522134.
にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ