痩せる遺伝子ALK

世の中には、たくさん食べても一向に太らず、健康的な人達がいるけれども……

それは、なぜ?

 

カナダ・Brithish Columbia大学 ライフサイエンス研究所のPenningerらの研究グループは、ここに疑問をもち、

エストニアに住む20ー40歳、47,000人の健常な「痩せている人達」のデータを集め、遺伝子解析を行った。

痩せる遺伝子

GWAS解析の結果、それまで報告されていたFTOMC4R以外に、ALK (anaplastic lymphoma kinase) が、強力な「痩せ遺伝子」の候補として浮上した。

GWAS結果

DrosophilaのAlkをノックダウンしたところ、中性脂肪 (triglyceride, TG) のレベルが減少していた。

マウスのAlkを調べたところ、AlkのmRNAは、食事により、中枢神経の視床下部の傍室核 (paraventricular nucleus, PVN) で発現が増加していた。

Alk欠損マウスを作製すると、過食やレプチン変異による肥満が抑制された。

マウス

Alk欠損マウスでは、血漿中のPVN由来ホルモン(コルチコステロン、甲状腺刺激ホルモン (thyroid-stimulating hormone, TSH)、オキシトシン)は正常だったが、

ノルエピネフフィンが上昇し、脂肪組織の脂肪分解が促進していた。

 

以上の結果から、PVNで発現するALKは、白色脂肪組織の脂肪分解や交感神経緊張を介して、エネルギー消費を調節している可能性が考えられた。

My View

太りやすさの研究 (Thaker, Aldlesc Med State Art Rev, 2018) は多いと思いますが、今回のは "痩せやすさ遺伝子" の解析。

エストニアのバイオバンクに登録している47,000人の健常人を対象に解析し、ALK遺伝子のSNPを同定しました。

この人達は、いくら食べても太らないそう。

ALK遺伝子といえば、非小細胞癌や白血病のイメージですが、このSNPを持つ人達の癌の発症率ってどうなっているのでしょう?

ちょっと気になります。

 

バイオバンクといえばイギリスのUKBBが有名ですが、日本でも色々な施設でバイオバンクを持っているよう。

欧米では23&Meのデータを使った研究も続々出ているので、日本でも遺伝子解析サービスがもっと広まれば、健常人のデータを解析した研究の幅ももっと広がりそうな気がしますが、どうでしょうか……

References

  1. Michael Orthofer et al., Identification of ALK in Thinness. Cell, 2020; doi: 10.1016/j.cell.2020.04.034
  2. Choquet H, Meyre D. Genetics of Obesity: What have we Learned?. Curr Genomics. 2011;12(3):169‐179. doi: 10.2174/138920211795677895
  3. Thaker VV. GENETIC AND EPIGENETIC CAUSES OF OBESITY. Adolesc Med State Art Rev. 2017;28(2):379‐405.
  4. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療研究支援HP <https://www.biobank.amed.go.jp/index.html>
  5. 株式会社ジーンクエストHP <https://genequest.jp/>