striatal dopamine eyecatch

幻聴・幻視などの幻覚、とくに幻聴は統合失調症の患者さんに多くみられる症状ですが、

パーキンソン病 (Parkinson's disease, PD) などでドパミンアゴニストなどを内服している患者さんにもよく起こります。

それらの症例の共通点としてドパミンバランスの異常があるので、幻覚はドパミンバランスの異常が関係していると考えられてきました。

ただ、それを実験系で証明するのはちょっと難しいと思われてきました。

だって、ネズミさんに「あなたは幻聴が聞こえましたか?幻視は見えましたか?」って尋ねる事はできないですし、何を持って「幻覚」と評価するのか、という高い壁がありました。

 

今回、アメリカ・コールドスプリングハーバー研究所のDr. Schmack、Dr. Kepecsらの研究グループは、試行錯誤してマウスの「幻聴」を評価し、

線条体のドパミンが幻聴を介在している、という内容を報告しました[1]

striatal dopamine title

マウスの幻聴を評価する実験系を確立

彼らはまず、マウスの幻聴を評価する系を確立し、幻聴を起こしやすいヒトでも同様の結果が出る事を確認しました。

 

マウスには、まず40dBのバックグラウンドノイズの中に、トーンシグナルを聞かせるようにしました。

このトーンシグナルのボリュームを変化させながら、

「音が聞こえたらコッチ」「音が聞こえなかったらコッチ」

というように、違うポートを突くようにトレーニングし、

正解だったら報酬として95%の確率で水がもらえるようにしました。

 

もし、アラームが鳴っていないのにマウスが自信を持って「音が聞こえたポート」を突いていたら、それは幻聴が聞こえている、という判断です。

striatal dopamine img1

このマウスに、幻覚を誘発するケタミンを投与したところ、「偽アラーム」に反応した時間や回数等が明らかに増え、このマウス達は「幻聴」が聞こえているという可能性を示唆しました。

ヒトでも検証

この現象が本当かどうか確認するため、幻聴を起こしやすい人達にも実験に参加してもらいました。

彼らには、日頃どれくらい幻覚を起こしやすいかアンケートをとり、その頻度と、「偽アラーム」への反応率を調べました。

結果、日頃の幻聴の頻度と、「偽アラーム」への反応率、自信の程、等に相関があり、この系はヒトでも機能することを確認しました。

striatal dopamine img2

幻聴が起こる前に、腹側線条体と線条体尾部のドパミン量が増加する

幻聴を評価するしっかりした系が確立できたので、彼らはこの系を使って、線条体のドパミン量と幻聴に関連があるかを調べました。

まず彼らは、腹側線条体と線条体尾部のドパミン量をGRABDAドパミンセンサーをAAVにのせて感染させ、

リアルタイムでドパミン量を定量できるようにしました。

その結果、同部位のドパミン量が高いと幻聴を起こしやすくなっていました。

striatal dopamine img-3

また逆に、オプトジェネシスで線条体尾部のドパミン刺激を行うと、幻聴症状が増加しました。

 

以上の結果は、「線条体のドパミン量が増えると幻聴を起こしやすくなる」ことを示唆しており、

臨床的に「ドパミン量の増加が幻覚を誘発する」と考えられていたことの一部を、マウスの実験で証明することができました。

Reference

  1. Schmack K, Bosc M, Ott T, Sturgill JF, Kepecs A. Striatal dopamine mediates hallucination-like perception in mice. Science. 2021 Apr 2;372(6537):eabf4740. doi: 10.1126/science.abf4740. PMID: 33795430.
にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ