アルツハイマー病

「アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) のタウやパーキンソン病 (Parkinson's disease, PD) のα-シヌクレイン (α-synuclein, α-syn)が、プリオンのように脳内を伝播する」

とわかった時、多くの人達は、

「じゃあ、ADもPDも、狂牛病のように伝染しちゃうんじゃないの?」

と考えました。

けれども、下垂体ホルモンや硬膜移植、輸血等を受けた患者さんが、その後ADを発症したというエビデンスはなかなか得られず [1, 2] 、しばらくの間、

「ADはプリオンのようには伝染しない」

と主張されてきました。

 

ところが2015年に、特定のロットのヒト由来の成長ホルモン(c-hGH)投与により、医原性の脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy, CAA)を発症したという報告がでて [3]、さらにそれがマウスでも再現され [4]

「Aβはプリオンのようにヒトからヒトへも伝播するかもしれない」

という考えが再燃しました。

 

そして今回、前回医原性CAAを報告した、英国・国際プリオンクリニックの Dr. Collinge らの研究グループは、

「c-hGH を投与されて医原性ADを発症した可能性のある症例」

を報告しました [5]

ヒトからヒトへ、アルツハイマー病が感染!?

彼らは、以前の医原性CAAの症例から、

「硬膜移植やc-hGHにクロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt‐Jakob disease, CJD)を発症しなかった患者さん達は、その何十年後かにCAAやADを発症するのではないか。」

と考えました。

そこで、彼らの病院で以前c-hGHを投与されていた症例を8例を調べました。

彼らは、4歳くらいから10代までの子供の頃に、特定の方法で精製されたc-hGH(HWP)を投与されており、その30-40年後くらいに若年性認知症を発症し、バイオマーカーや(死亡症例の)剖検の結果から、ADの診断を満たしました。

APOE4を持つのは1例のみで、その他、SORL1やTREM2などの遺伝子変異もありませんでした。

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これらの症例が、c-hGH投与により発症したと、直接的に証明する事はできませんが、

  • ほとんどの症例で幼少時には認知機能は正常だったこと
  • 若年性ADを発症する遺伝子変異は(1例のAPOE4症例を除き)調べ得る限りではなかったこと
  • 元々の疾患(成長ホルモン不足)が原因とは考えにくいこと

などから、医原性ADの可能性が高いのではないかと考察しています。

My View

今回、死後脳から特定の方法で精製したc-hGHを投与後、何十年後かにADを発症した可能性について報告されました。

CJDとは違い、CAAやADはc-hGH投与からCAA/AD発症までだいぶ時間が経っているので、直接因果関係を示すのは難しそうですが、彼らの発症年齢が40-50代とかなり若い事から、単なる自然経過のADとはちょっと違いそうだという印象はあります。

CJDのリスクが明らかになった1985年以降、この治療法は行われていませんが、他の施設で投与されていた症例をもっとたくさん調べたらもう少し色々とわかってくるかもしれません。

References

  1. Irwin DJ, Abrams JY, Schonberger LB, Leschek EW, Mills JL, Lee VM, Trojanowski JQ. Evaluation of potential infectivity of Alzheimer and Parkinson disease proteins in recipients of cadaver-derived human growth hormone. JAMA Neurol. 2013 Apr;70(4):462-8. doi: 10.1001/jamaneurol.2013.1933. PMID: 23380910; PMCID: PMC3678373.
  2. O'Meara ES, Kukull WA, Schellenberg GD, Bowen JD, McCormick WC, Teri L, Pfanschmidt M, Thompson JD, Larson EB. Alzheimer's disease and history of blood transfusion by apolipoprotein-E genotype. Neuroepidemiology. 1997;16(2):86-93. doi: 10.1159/000109675. PMID: 9057170.
  3. Jaunmuktane Z, Mead S, Ellis M, Wadsworth JD, Nicoll AJ, Kenny J, Launchbury F, Linehan J, Richard-Loendt A, Walker AS, Rudge P, Collinge J, Brandner S. Evidence for human transmission of amyloid-β pathology and cerebral amyloid angiopathy. Nature. 2015 Sep 10;525(7568):247-50. doi: 10.1038/nature15369. Erratum in: Nature. 2015 Oct 22;526(7574):595. PMID: 26354483.
  4. Purro SA, Farrow MA, Linehan J, Nazari T, Thomas DX, Chen Z, Mengel D, Saito T, Saido T, Rudge P, Brandner S, Walsh DM, Collinge J. Transmission of amyloid-β protein pathology from cadaveric pituitary growth hormone. Nature. 2018 Dec;564(7736):415-419. doi: 10.1038/s41586-018-0790-y. Epub 2018 Dec 13. PMID: 30546139; PMCID: PMC6708408.
  5. Banerjee G, Farmer SF, Hyare H, Jaunmuktane Z, Mead S, Ryan NS, Schott JM, Werring DJ, Rudge P, Collinge J. Iatrogenic Alzheimer's disease in recipients of cadaveric pituitary-derived growth hormone. Nat Med. 2024 Jan 29. doi: 10.1038/s41591-023-02729-2. Epub ahead of print. PMID: 38287166.
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