血管障害

APOE4は、孤発性アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) の最大のリスク多型ですが、

動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞を起こすリスクも高く、血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)など、血管障害のメカニズムについても研究が進んでいます。

 

アメリカ・カリフォルニア大学の Dr. Zlokovic らの研究グループは、以前、

  • アストロサイト由来の APOE4 が、ペリサイトの CypA↑ を介して MMP9↑ による BBB 障害を起こす [1]
  • APOE4 を持つ人達は、Aβやタウと独立してBBB障害や認知機能低下を起こす [2]

など、AD や加齢における APOE4 の血管障害機序について多く報告してきましたが、

今回は、AD マウスモデルと APOE4 ノックインマウスモデルを使って、APOE4 は AD マウスモデルの病態を悪くすること、そして血管障害を増悪させる事を報告しました [3]

APOE4は進行期ADでCypAを介して血管障害を起こすが、そのメカニズムはAβ非依存的

APOE4;5XFAD マウスでは BBB 障害と血流低下が強い

AD における APOE4 の血管障害への関与について調べる為、著者らは、5XFAD と APOE3、5XFAD と APOE4 を交配し、老齢 (18-24 mo) での BBB の状態を調べました。

結果、

APOE4;5XFAD > APOE3;5XFAD ≈ APOE4 > APOE3

の順で最も BBB 障害が強く、Aβ 存在下で APOE4 による BBB 障害が増悪することを示していました。

血管障害

また、脳血流 (cerebral blood flow, CBF) も

APOE4;5XFAD < APOE3;5XFAD ≈ APOE4 < APOE3

の順で下がっていました。

脳血流量

APOE4;5XFAD マウスでは、CypA, MMP9 の発現が上がっている

著者らは以前、「APOE4 → CypA↑ → MMP9↑ → BBB障害」のメカニズムを報告していたので、APOE4;5XFAD マウス達の血管障害に CypA と MMP9 の関与がないかどうか調べました。

免疫染色で CD13 (ペリサイトのマーカー) と共局在する CypA と MMP9 の面積を測定したところ、

APOE4;5XFAD > APOE3;5XFAD ≈ APOE4 > APOE3

の順で CypA と MMP9 の発現が上がっており、

APOE4 → ペリサイトの CypA と MMP9 の発現上昇が 血管障害に関与している可能性が示唆されました。

ペリサイトのCYPAとMMP9

Aβ 病理は、血管障害の程度と相関しない

APOE多型の影響が 5XFAD の Aβ 病理に影響するかどうか調べたところ、Aβ の量と血管障害や CBF 低下の程度には相関がなく、

5XFAD;APOE4 の BBB 障害は、Aβ 病理とは無関係と考えられました。

Aβ

神経変性は、血管障害の程度と相関するが、Aβ とは相関しない

彼らは神経変性の程度も確認し、神経変性の程度は

APOE4;5XFAD > APOE3;5XFAD ≈ APOE4 > APOE3

の順で悪くなっていました。

神経障害の程度

この神経障害の程度は、血管障害の程度とは相関しましたが、Aβ 量とは相関しませんでした。

血管障害やAβとの相関

行動異常も、血管障害の程度と相関するが、Aβ とは相関しない

彼らは最後にマウスの Nesting score と血管障害の程度、Aβ 量等との相関をみましたが、

神経障害のデータと同じように、Nesting score の低下と血管障害の程度は相関し、Aβ 量とは相関しませんでした。



以上の結果から、

考察
  • 5XFAD マウスに APOE4 KI マウスをかけあわせると、血管障害が強くなる
  • この現象は、ペリサイトの CyPA → MMP9 の機序が関与している
  • 5XFAD の Aβ 量は、APOE3, APOE4 であまり変化がなく、血管障害とも相関がない
  • APOE4;5XFAD の神経変性や行動異常は、血管障害とは相関があるが、Aβ とは相関がない

 

という可能性が示唆されました。

My View

5XFAD と APOE4 をかけあわせたら、Aβ病理も血管障害も悪くなるだろーなー、と思って読んでいましたが、

この論文では、

「APOE4の血管障害効果は 5XFAD との掛け合わせで悪くなるけど、5XFAD の Aβ 病理は APOE4 で悪くならない。
そして神経障害も行動異常も、血管障害の増悪とは関係あるけど、Aβとは無関係」

という感じの結論になっていました。

 

他の研究室からの今までの報告を鑑みると、「Aβ非依存的」というのは俄には受け入れがたいですが、

ここの研究室は、今まで、

「AD患者さんの脳内では、Aβやタウ病理が生じるまでに血管障害が起こっているし、
早期AD患者さんの血管障害は、Aβ量に非依存的に認知機能障害を起こしている」

という趣旨の論文を出してきているので、

そのような論説に沿った内容にはなっていると思います。

 

今所属している研究室では、ポスドク達が出すデータが今までラボで報告してきた研究内容と矛盾していると、真実の有無は別として、

「同じ研究室で矛盾したデータは出せない!ラボ内で趣旨が一貫していないとダメ!あなたの手技が悪いか、やり方が違ったか。どちらにしてもやり直しなさい。」

といって認められないのですが、

そう考えると、ビッグラボと呼ばれるラボからの論文は、確かにデータや論調が一貫していて、

「他のラボからでる論文とは矛盾していても、過去自分たちが出してきた論文とは矛盾していない内容の論文が多いなー。」

と思いました。

 

……個人的な感想です……

References

  1. Montagne A, Nation DA, Sagare AP, Barisano G, Sweeney MD, Chakhoyan A, Pachicano M, Joe E, Nelson AR, D'Orazio LM, Buennagel DP, Harrington MG, Benzinger TLS, Fagan AM, Ringman JM, Schneider LS, Morris JC, Reiman EM, Caselli RJ, Chui HC, Tcw J, Chen Y, Pa J, Conti PS, Law M, Toga AW, Zlokovic BV. APOE4 leads to blood-brain barrier dysfunction predicting cognitive decline. Nature. 2020 May;581(7806):71-76. doi: 10.1038/s41586-020-2247-3. Epub 2020 Apr 29. PMID:32376954; PMCID: PMC7250000.
  2. Bell RD, Winkler EA, Singh I, Sagare AP, Deane R, Wu Z, Holtzman DM, Betsholtz C, Armulik A, Sallstrom J, Berk BC, Zlokovic BV. Apolipoprotein E controls cerebrovascular integrity via cyclophilin A. Nature. 2012 May 16;485(7399):512-6. doi: 10.1038/nature11087. PMID: 22622580; PMCID: PMC4047116.
  3. Montagne, A., Nikolakopoulou, A.M., Huuskonen, M.T. et al. APOE4 accelerates advanced-stage vascular and neurodegenerative disorder in old Alzheimer’s mice via cyclophilin A independently of amyloid-β. Nat Aging 1, 506–520 (2021). https://doi.org/10.1038/s43587-021-00073-z
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