シヌクレインとPARP1

パーキンソン病(PD)の病態において、α-シヌクレイン(α-Syn)のモノマーが凝集し、最終的に細胞死を誘導する。病的α-Synは細胞から細胞へ伝播し、パータナトス(Parthanatos)による細胞死に関与する。

今回、Kimらは、このメカニズムにポリ(ADPリボース))(PAR)が関与する事を明らかにした。

シヌクレインとPARP1

ポリ(ADPリボース)はパーキンソン病におけるα-シヌクレイン病理を誘導する

シヌクレインとPARP1-1

リコンビナントのα-Syn前凝集体(α-Syn pre-formed fibrils: PPFs)を初期培養神経細胞に処置すると、

一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase: NOS)が活性化し、

DNAダメージとポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ1(poly(adenosine 5"-diphosphate-ribose) polymerase-1: PARP-1)の活性化が起こり、パータナトスを介した細胞死が誘導された。

この現象にネクローシスやオートファジーの阻害薬は効果がなく、

カスパーゼ阻害薬では中等度の阻害効果を示した。

 

細胞ー細胞間の病的α-Synの伝播は、P

ARP1阻害薬や、AAV-single-guide RNAのトランスダクションで完全に抑えられた。

 

シヌクレインとPARP1-2

PARP-1によって活性化したPARはα-Synと結合し、α-Synの凝集体形成を促進した。

この凝集体は、よりミスフォールドしたstrainとなり、PARなしで凝集したα-Synの25倍の毒性を示した。

PAR-α-Syn凝集体をマウス脳内に接種すると、中脳黒質緻密部のドパミン神経細胞脱落がより顕著であった。

 

さらに、健常人とPD患者の脳脊髄液を調べたところ、PD患者でPARのレベルが上昇しており、PD患者の病態にパータナトスが関与している事を示唆した。

 

My View

ジョーンズホプキンス大学の、Dawson & Dawson夫妻のラボから出た論文で、今回は奥さんがラストオーサーになっています。

α-synが凝集し、細胞死が起こるまでのメカニズムを知る事は大変重要だと思います。

α-synが溜まっても、最終的に細胞を元気に保つ事ができれば、それも治療につながる可能性があるからです。

今回、

「α-syn凝集体→PARP1→PAR→パータナトスを介した細胞死」

が起こっている可能性を綺麗に示しているなと思いました。

ただ、個人的にはパータナトス以外の細胞死の関与もあるとは思います。

 

また、PARと結合したα-syn凝集体がさらに細胞間を伝播し、より毒性を発揮するというストーリーは、興味深いですが、

やや出来過ぎのような気も‥‥

そんな一連の流れの全てにPARが絡んでいるのでしょうか?

実際にヒトの体の中でも起こっているのでしょうか?

‥‥続報を待ちたいと思います。

Glossary

ポリ(ADP-リボシル)化について

ポリ(ADP-リボシル)化は、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)を基質としてタンパク質にADP-リボースを連鎖付加する反応であり、翻訳後修飾の一つである。

この反応を触媒するPARP酵素ファミリーは17種類のメンバー遺伝子によって構成され、うち少なくとも10種類は酵素活性を持つことが確認されている。(新学術領域、修飾シグナル病HPより)

”ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ:PARP”について

PARPは、核DNAに生じた一本鎖切断端を認識してDNAに結合する。核DNAに結合したPARPは活性化され、NDA+を基質としてPARP自身やDNA修復関連タンパク質にADP-リボースを付加し、ポリ-ADP-リボシル化を引き起こす。

通常、ポリ-ADP-リボシル化はDNA修復反応を活性化するが、過度のPARPの活性化はNAD+とATPの枯渇、さらにミトコンドリアに局在するアポトーシス誘導因子(AIF)の切断を誘導する。

切断されて細胞質に放出されたAIFはミトコンドリアに局在していたエンドヌクレアーゼGとともに核に移行し、核DNAの断片化(~50kb)を引き起こし、細胞死を誘導する。(実験医学onlineより)

PARとAIFの結合と、PARP1依存性細胞死(パータナトス)について

Wangらは、AIFがPARの結合蛋白であることを明らかにした。

AIFは、そのDNAへの結合部位とは異なる部位でPARに結合し、この相互作用はミトコンドリア外膜のサイトゾル側からのAIF放出を誘導した。

AIF内のPAR結合部位を変異させると、AIFはPARP1活性後にもミトコンドリアから放出されず、核内へ移行せず、細胞死を触媒しなかった。

これらの結果は、PARP1がAIFを介して細胞死を誘導することを示唆している。

PARとAIFの相互作用、すなわちPARシグナル伝達を妨げる事で、PARP1活性化後の細胞死を防げるかもしれない。(Wang Y et.al., Sci. Signal, 2011

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