
Tの腕の中でしばらく泣いたあと、私は自分の部屋に戻りました。
コアラボChair、直ラボPI、主人と私のオンラインミーティングがあった日の翌日、私はいつものようにラボに向かいました。 この日は、マウスの手術に行く前に、約束していた人がいました。 その人はブレインバンクの構成員のTで …
部屋には私以外誰もいなかったので、
―― もうちょっと泣いときたいな。
と思い、一人で声を上げて泣きました。
去年、「帰国までは泣かない」と勝手に目標を決めていましたが、
ある日の朝、コーヒーを飲もうとラボの給湯室に行くと、先客がいて部屋には美味しそうなコーヒーの匂いが漂っていました。 彼女は、このラボが立ち上がったときに最初に雇われた5人の従業員のうちの一人で、30年以上ブレインバンクの …
―― やっぱり無理だったな。
と思いました。
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しばらく泣いていると、部屋にKが入って来ました。
彼は、私のプロジェクトの2種類の手術のうちの一つを担当してくれていて、プライベートでも、毎週末、子供たちにテニスを教えてくれています。
去年の夏休みにテニスのサマーキャンプを利用し、テニス好きになった子供たち。 施設では学期中もテニススクールを開催してくれているのですが、私達両親は仕事をしているので、なかなか平日に通わせるのは難しい…… 「せっかくテニス …
彼は私の姿に一瞬戸惑った様子を見せましたが、
「今日、何時から手術するか確認しようと思って。僕は何時でもいいから。
でも、もし今日無理そうだったら、明日でも構わないよ。」
と言ってくれました。
私は、その場では1時間後に始めようと答えましたが、
―― こんな状態だったら手術も上手くできないかも。
と思い、結局、日程を翌日に延ばしてもらいました。
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翌朝、マウスの手術室で、私が二人分の手術の準備をしていると、Kがやってきました。
「おはよう。気分はどう?」
「おはよう。昨日よりだいぶいいよ。」
当たり障りのない挨拶を交わした後、Kが言いました。
「昨日の事、僕で良かったら話してみて。何も役に立たないかもしれないけど。
研究の事で困ってるの?Hも最近、研究者を辞めたいって言ってるし。
君たちの仕事って、ほんと大変そうだから。」
私は、
―― そうだよね。あれだけの失態を見せておいて、何でもないは……ないよね。
と思いながら、言葉を探しました。
私「まあ、端的に言うと、『みんな、私の事を嫌っている』って言われたんだ。」
K「What !?!?!?!?」
私は、これまでの出来事を順を追って話しました。
以前、「狭い世界では対人関係に歪みができるけれど、視野を広げれば対人問題を避けて生きていく事ができる」という話をしましたが、
先日、次男(6歳)が学校でポピュラーになった、と話している出来事について書きましたが、 我が家ではもう一人、ポピュラー云々……を時々口にする子がいます。 ……中学生の長男(11歳)です。 長男「僕は一番ポピュラーなグルー …
―― 自分はその狭い世界に、これから入っていくんだな。
と思いました。
Kはしばらく私の話を聞いたあと、ゆっくりと口を開きました。
「なんというか、僕的にはめっちゃクレイジーな話に聞こえるんだけど、日本ではこんな事って普通に起こるものなの?」
私は、
「いや、日本でもクレイジーな話だと思うよ。まあでも、今の人達が悪いわけじゃないから、仕方がないよね。
私だって噂だけ聞いたら、そんなトラブルメーカー的な印象の人とは関わりたくないって思うもん。
今日明日にでも、『教えてくれてありがとうございます。これからは言動に気をつけます。』ってメールで伝えようと思ってる。」
Kはしばらく考えた後、言いました。
「少なくとも、『みんなが君の事を嫌っている』というのは間違いだ。
だって、君の子供たちは、あんなに君を慕っているじゃないか。
僕は君が大好きだ。
子供たちも君が大好きだ。
Nも君が大好きだ。
Hも君が大好きだ。
Sも君が大好きだ。
Aも君が大好きだ。
Cも君が大好きだ。
Lも君が大好きだ。
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・」
彼は、私と関わる人達の名前を次々と挙げていきました。
私はそれを聞きながら、涙が止まりませんでした。
泣きながら、
―― ああ、これは感情の問題なんだ。
と思いました。
コアラボChairと直ラボPIから話を聞いた後、私は、
- これから帰国までの間に行うべき事
- 帰国後にまず行うべき事
- 事態が改善した後から始めるべき事
など、一つ一つの課題をリストアップして考え、その都度の短期目標を設定していきました。
現時点で他にできることはありません。
泣いたところで事態は何も改善しないのです。
それでも泣きたくなるのは、ただ単純に、
「人から快く思われていない」という事が悲しいのだと思いました。
「ありがとう。Kがいてくれて良かった。」
と私が言うと、
「僕も君がいてくれてよかった。」
と返され、また涙が出てきました。
少し休憩してマスクを変えると、二人でそれぞれの手術を開始しました。
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予定の手術を終え、Kはラボに帰っていきました。
手術部屋に一人残った私は、マウスの術後管理を行いながら、
「しばらくの間はまた泣いちゃうかもだけど、とりあえず毎日するべき事をちゃんとして、他に影響が出ないように気をつけよう。」
と心に誓いました。