
オンラインミーティングがあった日の翌日、私はいつものようにラボに向かいました。
この日は、マウスの手術に行く前に、約束していた人がいました。
その人はブレインバンクの構成員のTで、「最近手が空いてきたから、ブロックの薄切とか手伝ってあげる」とメールがあり、お願いする内容の打ち合わせのために時間をとってくれていました。
お願いしたい内容の他、自分の今後の予定や、最近マウス部屋に籠りっきりで薄切などに時間がとれないことなどを説明すると、彼女は言いました。
「大変すぎるわね。あなた、気が休めないでしょう。」
私は頷きました。
自分の手術とアシスタントで週のほとんどが埋まってしまいますが、共同研究先は別のデータを待っています。
また、このような状況で準備しても、解析まで半年、1年と待つ必要があり、時期毎にラボの他のメンバーにサンプルを送って貰わなければなりません。
どれか一つの工程でもコケてしまうと、全部が台無しになってしまう……そんなプレッシャーを毎日抱えていました。
「それに、私はあなたの体の事が心配なのよ。あなた、最近どんどん痩せてきているでしょう。」
予想外の彼女の言葉に、私は一瞬戸惑いました。
自分でも痩せてきたかもと思い、先日久しぶりに体重計に乗ってみたら、この数ヶ月で3kg弱体重が減っていました。
最近、朝・昼の食事をとる時間が惜しくて、だいたいミルク入りコーヒーでお腹を膨らませて過ごしていたので、まあ当たり前の結果なのですが。
「今までキツめだった服がキツくなくなってラッキー」
くらいにしか思っていませんでしたが、彼女の言葉を受けて、
―― ああ、そうか。私は無理をしていたのか。
と気づきました。
「そうなの!6ポンドくらい痩せて……」
と言いかけ、私はそのまま言葉に詰まりました。
「自分はかなり無理をしていた」という気づきと、
「自分を労ってくれる人がいる」という思いが交錯して、涙が止まらなくなりました。
彼女は私を別室まで連れて行くと、強く抱きしめてくれました。
「あなたは本当によく頑張っているわ。
この間も言ったけど、最初ビクビクしていたあなたがあんなに堂々と発表している姿をみて、私は本当に感動したし、あなたの事を誇りに思っている。
私の娘が外国で頑張っていると考えたら、それだけでもいたたまれなくて、たくさんのハグを送りたくなるわ。
あなたのお母さんも同じ気持ちだと思う。」
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私はしばらくの間、彼女の腕の中で子供になりました。