海馬のリップル波は血糖値を調節する?

睡眠時、海馬で観察される脳波の一つにリップル波(sharp wave ripple)があり、学習直後の睡眠時に一過性に上昇して記憶の定着に関与することが知られています [1]

また一方で、海馬は視床下部とのコネクションも強く、ホルモン調節にも関与しているのではないかと言われているそうです [2]

今回、アメリカ・ニューヨーク大学の Dr. Tingley, Dr. Buzsáki らの研究グループは、海馬のリップル波が血糖値を調節しているかも……という研究内容を報告しました [3]

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海馬のリップル波は血糖値を調節する?

血糖値の変動とリップル波の変動には相関がある

著者らは、ラットの血糖値とCA1のリップル波を自由行動下で測定できるようにポータブル装置を取り付けました。

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血糖値は食事以外の要素でも常に変動しており、概日リズム(circadian rhythm)、縮日リズム(ultradian rhythm)と言えるような一定の変動リズムがありました。

この血糖値の変動と負の相関を示すように CA1 のリップルも変動しており、両者に何らかの関係がある可能性が考えられました。

オプトジェネティックスでリップル波を誘導

海馬のリップル波と血糖値が本当に関連しているのかどうか調べるため、著者らは AAV-CamKII-ChR2-EYFP を両側の背側海馬に注入し、光で海馬のリップル波を誘導できるようにしました。

すると、リップル波の誘導後にラットの血糖値が下がる傾向にあり、海馬のリップル波が何らの機序で血糖値を現象させている可能性が考えられました。

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海馬ー視床下部の回路が関係

上記のリップル波と血糖値変動の機序として、

  1. 腹側海馬からの直接投射
  2. 海馬-外側中隔-視床下部回路

の2つの経路が考えられました。

1の検証のため、著者らは腹側海馬でリップル波を誘導してみましたが、あまり血糖値変動との相関はありませんでした。

そこで2の検証のため、著者らは誘導リップル波と外側中隔の神経活動の変化を調べ、両者に相関があることを確認しました。

また、外側中隔に デザイナードラッグ(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs, DREADD)のhM4Di を注入し、リップル波ー血糖値の変動を観察しました。

hM4Di 注入ラットでは、海馬のリップル波を誘導しても血糖値の変動は僅かでしたが、コントロールのクロザピン N-オキシド (Clozapine N-oxide, CNO) 注入群では、海馬のリップル波と呼応して血糖値が下がり、

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海馬のリップル波
  ↓
外側中隔
  ↓
視床下部
  ↓
血糖低下

の経路が存在する可能性が示唆されました。

References

  1. Norimoto H, Makino K, Gao M, Shikano Y, Okamoto K, Ishikawa T, Sasaki T, Hioki H, Fujisawa S, Ikegaya Y. Hippocampal ripples down-regulate synapses. Science. 2018 Mar 30;359(6383):1524-1527. doi: 10.1126/science.aao0702. Epub 2018 Feb 8. PMID: 29439023.
  2. Hsu TM, Hahn JD, Konanur VR, Noble EE, Suarez AN, Thai J, Nakamoto EM, Kanoski SE. Hippocampus ghrelin signaling mediates appetite through lateral hypothalamic orexin pathways. Elife. 2015 Dec 15;4:e11190. doi:10.7554/eLife.11190. PMID: 26745307; PMCID: PMC4695382.
  3. Tingley D, McClain K, Kaya E, Carpenter J, Buzsáki G. A metabolic function of the hippocampal sharp wave-ripple. Nature. 2021 Aug 11. doi: 10.1038/s41586-021-03811-w. Epub ahead of print. PMID: 34381214.