運動と精神状態

運動が、身体だけでなく、脳機能や精神の健康維持にも欠かせないのは周知の事実ですが、実際、どれくらいの運動で効果があるのでしょうか?

ドイツ・ハイゼンベルグ大学のDr. Meyer-Lindenbergらの研究グループは、毎日の歩行や階段昇降など、ちょっとした身体的活動だけで、精神状態がよくなる事を、報告しました [1]

Science Advance 2020 運動と精神状態

毎日のちょっとした身体的活動で心が健康になる

著者らは、18–28歳の参加者(全体では120人強)に、サッカーなどの運動ではない、非運動的な身体活動と心の健康を調べた。

参加者は、最初にアンケート等いくつかのバッテリーでで心の健康を自己評価してもらった。

その後、加速度計を装着してもらい、1週間の身体的活動を記録した。

それらの記録と、参加者自身の毎日の記録を照合し、非運動的な身体活動を算出した。

また、MRI検査を施行し、非運動性身体活動の程度と脳の構造に何らかの相関があるか調べた。

 

結果、

参加者らの1週間の平均運動時間は、約1時間強(73.55分)で、67人中43人は全く運動をしていなかった。

日頃運動をしていない人達は、非運動性身体活動(歩行、階段昇降 etc.)後に、feeling of energyが高い傾向にあった。

非運動性身体活動の程度と、脳の前帯状皮質膝下部(subgenual part of the anterior cingulate cortex, sgACC)の灰白質のボリュームには有意な相関があった。

sgACCは気分のコントロールに重要な役割を果たすことが知られており、双極性障害や鬱病の患者さんではsgACCのボリュームが小さくなっている [2, 3

社会的背景や経済状況など、心の健康には色々なファクターがあるが、少なくともある一定レベルの安定した状況下では、日常のちょっとした身体活動が心の健康に良いということができるだろう。

References

  1. Reichert M, Braun U, Gan G, Reinhard I, Giurgiu M, Ma R, Zang Z, Hennig O, Koch ED, Wieland L, Schweiger J, Inta D, Hoell A, Akdeniz C, Zipf A, Ebner-Priemer UW, Tost H, Meyer-Lindenberg A. A neural mechanism for affective well-being: Subgenual cingulate cortex mediates real-life effects of nonexercise activity on energy. Sci Adv. 2020 Nov 6;6(45):eaaz8934. doi: 10.1126/sciadv.aaz8934. PMID:33158875; PMCID: PMC7673710.
  2. Drevets, W., Price, J., Simpson, J. et al. Subgenual prefrontal cortex abnormalities in mood disorders. Nature 386, 824–827 (1997). https://doi.org/10.1038/386824a0
  3. Scharinger C, Rabl U, Pezawas L, Kasper S. The genetic blueprint of major depressive disorder: contributions of imaging genetics studies. World J Biol Psychiatry. 2011 Oct;12(7):474-88. doi: 10.3109/15622975.2011.596220. Epub 2011 Aug 11. PMID:21830992.