pocky

帰国後の人事について悶々としている間も、今ラボの仕事は毎日鬼のように降ってきて、休む暇はありません。

マウス部屋のQuarantineは継続中で、私は何度もスタッフと交渉をしながら毎回許可を取り付け、毎週3日ほどは手術部屋に籠もっています。

現在、私が執刀する類の手術は終わり、今は2人の術者のアシスタントに精を出す日々。

その術者の一人が、いつも私の子供達にテニスを教えてくれているKです。

彼とは術前後に手術室で二人きりになる事も多く、その度に

「今日の気分はどう?」

と聞いてきます。

私はその時々の心境を話し、彼はまっすぐ私の目を見ながら話を聞いてくれていました。

 



 

そんなある日の事、いつものように話を聞いてくれていたKから、突然

「mochiってよく食べる?」

と聞かれました。

「mochi? 食べるけど、お正月の時だけかなー。」

「どんなフレーバーのmochiを食べるの?中にはタロイモとか入っているの?」

私は、餅といえば正月に食べる鏡餅くらいで、普段は和菓子なども食べないのでまったく答えられませんでした。

 

「へー、mochiは日本の食べ物だと思っていたけど、ここで売られているmochiとはだいぶ種類が違うんだね。じゃあ、好きなキャンディーとかある?」

私はこれも答えにつまりました。

というのも、私は子供の頃から甘いお菓子が苦手で、キャンディーはよく近所のおばちゃんからもらっては対応に困る食べ物だったからです。

「キャンディーはあんまり好きじゃなくて、生まれてから今までで数回しか食べた事ないと思う。」

と答えると、Kは、

「えー!キャンディーが嫌いな子供がいるんだー。」

と変なところで感心されました。

「じゃあ、チョコは?好きなチョコレートある?」

「チョコもあんま食べないけど……あ、でもプレッチェルと一緒だったら美味しいと思う。ポッキーとか。ポッキーって知ってる?」

「ああ、それ知ってるよ。色々な種類があるでしょ?なんのフレーバーが好きなの?」

「断然 original だね。イチゴとかバナナとかフレーバーがついていたら、もう食べられないw」

そんな他愛のない会話で盛り上がり、私は自分に笑顔を戻してくれた彼に感謝しました。

 



 

そして次の日……この日も手術です。

私は朝早くからラボにやってきて手術室の準備を整え、しばらくして術者二人がやってきました。

一通り準備が終わり、ほっと一息ついて自分のバッグを移動させようとした時、私はバッグの中に見慣れない赤い箱が入っているのに気づきました。

―― 何だこれ?

バッグを広げてよく見ると、それはプレーンポッキーの箱でした。

―― ポッキーだ!

私は前日のKとの会話を思い出しました。

あの時彼は、何か私が喜ぶ物がないか、会話の中で探っていたようです。

 

手術と手術の合間に、私はKのそばに移動して、そっと話しかけてみました。

「なんか、私のバッグの中に、very special thing 的な物が入っていたんだけど。」

するとKはニヤッとして、

「さあ……何の話をしているのかわからないなぁ。」

と答えました。

「おかしいなー。神様がこっそり贈り物でもしてくれたのかな?」

「きっとそうじゃない?」

 

全ての手術が終わって二人で後片付けをしている時、私はもう一度Kに聞いてみました。

「あのポッキー、どこで買ったの?」

私の知る限り、ポッキーはそこらへんのコンビニやスーパーでは売っておらず、アジア系スーパーなどでのみ見かけていたシロモノだったからです。

Kはまたニヤリと笑いました。

「さあ……何の事を言ってるのかわからないなぁ。」

 

片付けが終わると、術後管理をしている私に向かって、Kが

「じゃあ、また後でね。」

と声をかけ、手術室のドアノブに手をかけました。

「ありがとう、私の神様。」

と私が声をかけると、Kはちょっと立ち止まって振り返り、

「Yup!」

と笑顔を見せて、そのまま出ていきました。

 

 

マウスの術後管理をしながら、私はバッグの中の赤い箱を何度も見遣り、その度に心のバッテリーがチャージされていくのを感じました。

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