words of wisdom

少し前にラボのみんながお別れ会を開いてくれましたが、それ以外にも多くの方々から、個別に食事に誘ってもらったり、時間をとってミーティングをしてもらったり、手紙をもらったりしました。

それらの中で、特に今後の成長の糧になりそうだと感じた言葉やアドバイスを書き残しておきたいと思います。

Words of Wisdom:by 創薬部門PI

「君達の出国までにはもう少し時間があるから、それまでに時間をとって、直接別れの挨拶ができたらいいな。」

そうメールをくれたのは、ラボの創薬グループ教授でした。

彼は15年ほど前までは複数の製薬会社の副社長兼技術部門トップとして活躍していましたが、このラボで治療薬を開発する目的でPI/Co-PIからヘッドハンティングされ、以降、今ラボの創薬ラボPIとして治療法の開発を指揮しており、

ミーティング中も適切かつ鋭いコメントでラボ全体を活性化させていました。

私個人としては、彼は今ラボ内で最も頭のキレる人物だと思っていて、実験の内容だけでなく、論文やグラントの原稿も必ず彼に見せてアドバイスを求めていました。

そんな彼との最後の挨拶は絶対に逃したくありません。

私は引越し準備でバタバタしながらもなんとか時間を作り、彼のオフィスを訪れました。

優しい笑顔で迎えられ

「おー、忙しい時によくきたね。座って。」

突然の訪問にもかかわらず、彼はいつものように、余裕のある優しい笑顔で迎えてくれました。

 

「出発する前にどうしても直接御礼を言いたかったので、今日会えてよかった。」

私は、

  • 今までミーティングで彼の発言にいつも助けられていた事
  • 彼はどんな専門外の話でも瞬時に内容を理解して適切な質問をしていた事
  • 論文やグラントの原稿を送ると、いつも2,3時間で帰ってきて、しかも添削内容がとても素晴らしかった事

などを話し、いつも尊敬していた事を伝えました。

彼はちょっとはにかんで言いました。

「まあ、僕は論理的に考えて話す事が好きなんだ。

あと、できるだけニュートラルな気持ちでみんなに接するように心がけている。

人を怒鳴っても何もいい事はないからね。」

常に "Even Keel" を心がける

彼の言葉に、私は少し驚きました。

とゆーのも、このラボにはミーティングの度に怒鳴り声を上げてポスドク達を震え上がらせている大物が約1名いて、その人の事を言っているのだとすぐに理解できたからです。

彼はミーティング中に彼女が怒鳴りだすと、彼女の言葉を別の優しい言葉に置き換えて柔らかく説明し、ミーティングの雰囲気を和やかモードに軌道修正してくれていました。

ただ、サイエンスの視点から彼女と対峙する事はほとんどなく、二人の意見は大体一致していて、彼女の鋭い意見を、ポスドク達が理解できる言葉に彼が変換していっている、というような印象でした。

そんな彼から「人を怒鳴ってたらダメ」というストレートな意見を聞いて、「え、そんな事言っていいの?」と驚いたのでした。

 

「えっとー、you know、私達って、ミーティング中、誰かが怒鳴っている声をいつも聞いているよね…」

とちょっと含みを持たせて聞いてみると、彼はニヤっとして言いました。

「そうだね。僕自身はそれは良くない事だと思っているよ。人を怒鳴っても、相手の心の中には入っていかないよ。

僕は、基本的に人を怒らないようにしている。

もちろん、叱ることもたまには必要だ。

でも、『ん?』と思う前に、まず考えるんだ。

例えば相手が失敗した時、意図せず間違えて失敗したのか、それともある程度わかってて失敗したけど反省していないのか。

前者だったら絶対に怒っちゃダメ。どの部分でミスしてどの部分の考え方を修正すれば次回うまくいくのかを考えて、相手にとって有益なアドバイスとなるように考えて発言するんだ。

後者だったら、ちょっとは叱った方がいい。物事をナメてかかっていると人はいつまでたっても成長できないからね。」

 

私は彼の言いたい事がよくわかりました。

 

「僕がいつも心がけていることは、"Even Keel"

ボスがその日の気分で興奮したり、怒ったり、落ち込んだり、気持ちに波があったら部下がみんな困るでしょ。

だから気持ちは常にバランスを保って、部下からのインプットに対して常に安定したアウトプットができるよう心がけているんだ。

私にとっては特に大事

彼の言葉は、私にとって特に重要な事だと思いました。

一般的に、男性は理論的、女性は感情的と言われますが、

私自身は、世の女性達と同じく、感情のブレが強いタイプの人間だと思います。

気分が乗っている時はどんどんパフォーマンスが上がる一方で、何かがトリガーになって気分が落ち込むと途端にパフォーマンスが下がる傾向にあります。

けれども、どんな事が起こっても、気持ちは "Even Keel"。

目の前の相手が自分の機嫌を伺う必要なく、安心して話ができるよう、常に安定したアウトプットを心がけなければなりません。

 

今ラボPIは特に感情の起伏が激しい人物ですが、故Co-PIや彼のように緩衝材となってくれる人物が周りにいたお陰で、あれだけ人を怒鳴ってもラボが崩壊せず、高パフォーマンスを引き出せてきたわけです。

私の場合、そんな奇特な人達が集まるほど特別な人間ではないので、自分自身でバランスを保っていかなければなりません。

 

私は彼に

「今日の話は特に私のような人間が心がけておくべき内容だと思う。本当に感謝している。」

と御礼の言葉を述べました。

彼からは、

「これからも deeply に関係を続けていこう。原稿のチェックとかしてほしかったらいつでも送ってきていいからね。」

と温かい言葉をもらい、私は彼の言葉に大変感謝しながら、オフィスを後にしました。

 

Words of Wisdom
人を怒鳴っても相手の心には入っていかない。
人がミスをしたら、どの部分がミスの原因になったのかを考え、相手を責めるのではなく、その人が確実に乗り越えられるようなアドバイスを送るべき。
気持ちは常に "Even Keel" 。部下が安心して話しかける事ができるよう、常に安定したアウトプットを心がける。
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