overcome

Chair と1時間程話をして、少し気持ちが落ち着いたと思っていましたが……ある日、Chairから再びメールが届きました。

「いい足りない事があったので、再度ミーティングをしてもらえませんか?」

 

……メールを読んで、私の心はちょっと沈みました。

このようなメールで話の内容が良かったという事はありません。

翌日の夕方にオンラインミーティングを設定しましたが、その日は一日鬱々としており、考え仕事は無理だと思って、ずっと手を動かしていました。

オンラインミーティング再開

そうして始まったオンラインミーティング。

Chairは穏やかな口調で話し始めました。

 

再度ミーティングを依頼してまで私に言いたかった事は、「新しく上司となる人が喜ぶ事をしてください。」という事でした。

もっといろいろネガティブなことを考えていたのでホッとしましたが、これまでの私と直ラボPI双方の話から、私達の間に若干のスタンスのズレがあると思った様子。

Chairからは、今後の私のキャリアのためにも、新たに上司となる人に気に入られる働き方をするよう念を押されました。

また、アメリカの今ラボPIは世界的に評判が悪く信用出来ないこと、彼女は私を自分のいいように働かせて、直ラボPIにはお金だけ払わせて蔑ろにしているように感じると言われました。

 

上司のために働く、というのは勿論Chairの言う通りです。

ただ、共同研究プロジェクトの大枠や、今ラボPIの私へのサポートに裏があるかどうか、などには誤解があるように感じ、私は考える時間をもらったあとに少しずつ話し始めました。

共同研究プロジェクトについて

  • 私の発案を今ラボPIとCo-PIが承認し、全面的にサポートしてくれていたこと。
  • その中で、別の大型ラボとのコラボレーションが始まったこと。
  • 研究が軌道にのる中である実験が必要になったが、私の帰国まで期限が迫ってきていた事などもあり、帰国後に戻る予定だった大学という理由で直ラボPIを誘ったこと。
  • こちらは良かれと思ってミーティングにも参加してもらったが、直ラボPIの想定外の言動に対して対応が難しい事があった事。

直ラボに対する思いについて

  • 直ラボPIからは、始めの頃は私への歓迎の気持ちを感じており、私の持って帰るプロジェクトも、直ラボの研究内容と合致している、と言われたこと。
  • けれども前回の話では、このプロジェクトはラボが取り組むべき研究内容とは直接的には合致せず、そのように関係のない私をわざわざ雇ってもらうという立場になっていたこと。
  • 仕事として、直ラボのために働きたいとは思っていたが、あまり歓迎されていないようならば、早めにどこか他のポジションを探そうと思っていること。

今ラボPIについて

  • 今ラボPIは、数年後に退職すると宣言していて、今更自分のために私のような部下を操るメリットはないこと。
  • 今すぐに退職しない理由は、今のラボにいるポスドクや若手PIが立派に独り立ちできるようになるまで、全力でサポートしているからだということ。
  • 彼女の academic children と呼ばれる私達は、彼女からの全面的なサポートを受け、それぞれ資金確保に全力で取り組んでいること。

Chairからの言葉

Chairは私の話をじっくりと聞いた後、口を開きました。

「やっぱり先生ともう一度話をしてよかった。」

 

私は、前回のミーティングではあまり自分から余計な事を話さないよう心がけていましたが、今回はかなり本音に近い事を話してしまいました。

2回目のミーティングという事もありますが、一番の理由は、心が疲れていたからです。

そのお陰で、Chairからは、私が今後この社会を生き抜く為の具体的な方法を、いくつも示唆していただきました。

 

私がこれから学ばなければならない事の一つは、「戦略的思考」を身につけること。

感情を排除し、cool headで、

  • どこまでの要求なら相手は受けてくれるだろうか
  • どのような内容なら相手は喜んで協力してくれるだろうか
  • 相手が不信感を抱くのはどのような時だろうか

など、相手の心のうちを考えながら発言、要求していく……。

Chairは常にこの「戦略的思考」を心がけながら色々な人と仕事をしてきたという事です。

 

Chairの政治力は並外れており、「戦略的思考」で動いてきたという言葉がぴったりの仕事をされてきました。

今回Chairから受けたアドバイスの数々は全てその通りだと思いましたし、私も今後日本で研究を続けていくのであれば、直ラボPIから信用を得、良好な関係を築く事が唯一の道であると思っています。

ここで関係が崩れてしまえば、その噂は業界内に広まり、それは身分が下の私に対する悪評として返ってくるはずです。

 

「先生はPIになるべき人だ。

今、大学では女性のスタッフが少ない事が大きな問題になっていて、数字上だけでも女性スタッフの割合を増やそうと必死になっている。

そういう意味で、先生には追い風が吹いているはず。」

頭ではわかっているけれど……

気がつけば、ミーティングが始まって1時間が経過していました。

Chairの話はとても実践的で、書物では得られないような、私のシチュエーションに沿った具体的な戦略をたくさん指導していただきました。

私は現時点で自分で資金を得られておらず、今後直ラボPIに雇ってもらう事になるのですから、私はこれから直ラボPIが求める事に力を注がなければなりません。

 

多くの女性がそうであるように、私は元来「戦略的思考」が苦手な人間です。

人が何を考えているのか、人がどう思っているのか、私はかなり敏感に感じ取り、それはいい方向としては「配慮」という行動に繋がります。

けれどもその相手から受ける印象がネガティブだった場合、その受容体と感情を冷静に切り離して「戦略的」に行動する事が、時に難しく感じる事があります。

感情を切り離し cool head で対処する、この「戦略的思考」は、これからどんな人とも円滑に仕事を進めるために、私が必ず習得すべき能力だと思います。

 

 

ただ頭ではわかっているつもりなのですが、感情を切り離すという作業は、そんなすぐに習得できるものではないようです。

オンラインミーティングが終わり、一人でぼーっと考えている間、私はだんだんと悲しくなってきました。

 

私は今まで、人に対しても研究に対しても、誠実に仕事をしてきました。

帰国がなければ、直ラボPIに頼み事をする必要はなかったし、独り立ちできるよう、アメリカの今ラボPIから多くのサポートを受けられていたはずです。

けれども現時点では、帰国後しばらくは厄介者という立場で、私はこれからラボのメンバーに許しを請い、自分のしたい研究ではなく、相手の望む事にできるだけ力を注がなければならない……

誰も悪くない、誰からも意地悪をされているわけではない、とは思っていても、自分の置かれている状況に理不尽さを感じてしまいました。

 



 

せっかくChairから「戦略的思考」について手厚い指導を受けたのですが、色々と考えているうちに、逆に余計な感情にとらわれてしまいました。

……まだまだ修行が足りないようです。

 

実践!あらゆる悩みに「反応しない」生活。人間関係、失敗、病気、心配事……あらゆるツライことを「上手に消す」心の習慣があります。それは、「これも修行のうち」と捉えてみること。
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