患者さん家族から

半年間の臨床業務が終わりました。

アメリカから帰国後、すぐに急性期病院での半年間勤務が始まり、久しぶりの臨床業務にあたふたしていましたが、同僚や病棟の皆さんのお陰で、なんとか最後までやりきることができました。

短い期間の勤務だったにも関わらず、皆さんからたくさんのサプライズプレゼントを受け取り、「頑張ってきて良かったなー。」と思いました。

ミーティング後のプチお疲れ会

この科では週に1回入院・外来患者の相談を行うミーティングがありますが、先日最後のミーティングの後に、部長先生からお言葉がありました。

「COVIDじゃなければ、普段は皆で外で食事をしながらお疲れ会を開くんだけど、今はまだできないから、ここで簡単なお疲れ会をさせてもらいます。

この病院は、今、県全体の救急の殆どを請け負っているようなものだから、ここで皆でコロナに罹って共倒れになると、大変な事になるから……ちゃんとしたお疲れ会を開けないくて、ごめんね。」

 

そう言って、3月で退職する先生たち全員にお言葉をもらい、花束と贈り物を頂きました。

同僚の先生たちから

「先生達もこれから色々な事があると思います。

この数十年間、医療も研究も大きく変わって、ついていくだけでもみんな大変だったし、これからも大変な事が多いでしょう。

けれども、今までの先生たちを見てきて、

『ちゃんと地に足をつけて、自分のするべきことをしっかりと考えてやってきた先生達は、過酷な環境の中でも生き延びている』

と感じます。

これから不安な事も多いかもしれませんが、その事を忘れなければ、大丈夫です。」

 

部長先生の言葉は、その場にいる医師全員に向けた言葉ではありましたが、まさに今、どう進むべきか迷っている私にとっては、あたかも自分に向けられた言葉のように感じ、胸に刺さりました。

 

「自分を見失わず、私は私にできることを、精一杯コツコツやっていこう。」

と思いました。

病棟から

勤務最終日、看護師さん達から、昼過ぎに病棟に来るよう言われました。

COVIDのための外でお別れ会ができないので、病棟でプレゼントを渡してくれるとのこと。

約束の時間に行くと、病棟で働いていた看護師さん達が手を止めて集まり、皆で挨拶をしてくれました。

病棟の看護師さん達から

頂いたのはお菓子のセットでした。

慣れない病棟業務で皆さんには色々と迷惑をかけた事も多かったんんじゃないかと思いますが、色々な方からとてもあたたかい言葉を頂き、本当にありがたく思いました。

最後は全員で写真を撮り、LINEの交換をしました。

 

「コロナが明けたら、是非皆で食事に行きましょう。」

……近いうちに実現できるといいな、と思いました。

お守りの指輪

病棟との約束の1時間ほど前、院内PHSにコールがかかってきました。

「先生、今、忙しい?」

それは、病棟の看護師さんの一人でした。

彼女はこれまでも仕事中によく話しかけてくれていて、他愛のない話からちょっと真面目な話まで、色々な話をしました。

 

その時私は、患者さんの引き継ぎを終え、院内の図書館でこっそり研究費のグラントを書いていました。

若干気まずい思いをしながら、

「今は、図書館に隠れて別の事やってる。」

と返事をすると、

「ほんと?じゃあ、今忙しくないんだね。そっち行ってもいい?」

と言って、医局の上にある図書館までやってきてくれました。

 

 

彼女はスクラブを着ていました。

いつもと違う姿に驚くと、

「私、今、持ち回りのコロナ病棟にあたってて、1ヶ月間コロナ病棟で働いてたんだ。だから先生にも会えなかったでしょう?」

……確かに、最近顔を見ないなーとはおもっていましたが、看護師さん達は3交代制なので、たまたま時間が合わないだけかと思っていました。

 私達医師も持ち回りでコロナ入院が当たりますが、

――あのコロナ病棟で働いていた看護師さん達は、本来はみんな別の病棟で働いていて、1ヶ月毎に交代してたのか。

と、病棟勤務最終日になって初めて知りました。

 

「先生、今日が最後の日だから、プレゼントを渡したかったの。」

そう言って小さな紙袋をくれました。

中に入っていたのは、綺麗な箱に入った指輪でした。

指輪のプレゼント

「この指輪、温度で色が変わるんだって。頑張ったら、色が変わって、その人の願いが叶うんだって。」

右手の薬指につけると、緑色だった指輪は青紫色に変わりました。

「これ、先生にお守り。大変な事も多いと思うけど、頑張ってる先生の願いが叶いますように。」

 

私は普段、結婚指輪以外ほとんどアクセサリーをつけないのですが、

――この指輪はこれからもずっとつけていよう。

と思いました。

患者さん家族から

病棟最終日の翌日、LINE交換した看護師さんの一人からメッセージが届きました。

「この間まで入院していた○○さんのご家族の方が病棟に訪ねてきて、先生に花束とプレゼントを持ってきてくれました。最期まで病院で先生に診てもらえて良かったとお伝えくださいと言われました。」

写真には、きれいなフラワーアレンジメントとお菓子の包みが写っていました。

患者さん家族から

――あーそうだった。前、今日まで病院にいるって言っちゃってたかも。

直前になって有給をとり、予定より一日早く退職しましたが、ご家族は勤務最終日と思って、本来の退職日だった日にお花を持ってきてくれたようです。

ご家族が切に願っていた「患者さんが元気になって退院」の希望を叶える事はできませんでしたが、それでもたくさんの感謝の言葉を頂き、大変ありがたく思いました。

これから

私は元々臨床の仕事が好きで、性格的にもかなり向いている職業だと思います。

ただ、患者さん達やその家族と接しながら、「自分は病気についてもっと深く知る必要がある」と考え、大学院に入りました。

そして研究生活が始まったわけですが、勉強すればするほど、わからないことが増えてきて、なんだかんだと10年以上研究を続けてきました。

 

今回半年間ガッツリ臨床をしてきて、

――以前と比べると、私は病気の事がずっとわかるようになっているみたいだな。

と感じました。

また、この10年強の間に、治療できる疾患やより効果的な治療法は格段に増えていました。

以前は「今の医学ではどうしようもない」と説明する事が多くて辛かったですが、それが少し緩和されたように感じます。

 

ただ、やはりまだわからない事は多く、満足できる治療法がない疾患も多く、患者さんの生活が「罹患前の状態まで戻る」という事は殆どありません。

 



 

私が研究をしていても、私が生きている間に患者さん達の病気を治せるようにはならないでしょう。

また、私が研究をしなくても、すでに他の誰かがやっているかもしれないし、これからやる人もいくらでも出てくるだろうし、私の行動に関係なく、数十年後には解決できている事も多いでしょう。

 

でも、今の私にできる事も、まだある程度残されてはいるようなので、

――とりあえずもうしばらくは研究の世界で頑張ってみよう。

――で、思い残すことがなくなったら臨床に戻って患者さんのために働こう。

と思いました。

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