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先日、TMEM106Bに関する驚きの論文がCellに1報、Natureに2報掲載されました。

Cellの論文は、アメリカ・コロンビア大学のDr.Fitzpatric、カナダ・英コロンビア大学のDr.Mackenzieらの研究グループからで、FTLD-TDP, PSP, DLBの患者さんの脳内でTMEM106Bの凝集体があることをcryo-EMとMSの解析から明らかになった、というもの [1]

Natureの1報は、イギリス・MRC研究所のDr. Goedert、Dr. Scheresらの研究グループからで、色々な神経変性疾患の他、健常高齢者の脳内でもTMEM106Bの凝集体が観察された、というcryo-EMでの解析 [2]

もう1報は、アメリカ・UCLAのDr. Eisenbergらの研究グループからで、同じくcryo-EMでFTLD-TDPの脳内にTMEM106Bの凝集体が観察され、FTLD-TDPのアミロイドフィブリルの構成タンパクはTDP-43じゃないくてほとんどTMEM106Bだった、という内容の論文 [2]

全て注目度MAXの内容でしたが、特にUCLAからの報告はタイトルを見た瞬間に「え!?どーゆーこと!?」と思わず口走ってしまいました。

 

TMEM106Bは、274aaのII型膜貫通型蛋白で、生理状態下では神経・グリア・内皮細胞・ペリサイトなどのリソソームとエンドソームの膜に存在しています。

変性疾患との関係については私も何度かこのブログで取り上げましたが、

今までは、FTD/ALS、LATE、Hippocampal sclerosisなど、TDP-43プロテイノパチーのリスク遺伝子で、疾患のモジュレーターとして考えられていたと思います。

それが今回の3報では、TEME106B自体が人の脳内で凝集体を形成して沈着していることがわかり、今後もしその重要性が明らかになってくれば、「TMEM106Bプロテイノパチー」のような概念が生まれる可能性も出てきたわけです。

しかもUCLAからの論文に関しては、TDP-43よりも重要っぽい事を言っていてかなり挑発的なので、この研究をしている人達の間では色々と物議を醸しているんじゃないかと思います。

 

とゆーことで、3報続けて読んだのですが、今回はまずCellの論文から。

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TMEM06B凝集体が、FTLD-TDP, PSP, DLB脳内で観察

剖検脳から、不溶性蛋白分画を抽出

彼らは、色々な剖検脳の不要性蛋白分画を抽出し、cryo-EMで観察しました。

すると、下記症例で同じような凝集体が観察されました。

  • FTLD-TDP
    • TypeA
      • GRN変異: 4例
      • 孤発性: 1例
    • TypeB: 2例
    • TypeC: 2例
  • PSP: 2例
  • DLB: 1例

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凝集体の種類は2種類あり、それぞれ下記のように命名しました。

  • 広く2つに折りたたまれた左右対称のリボン状のフィブリルで、"doublet" fibrils と命名
  • 狭くねじれた桿状のフィブリルで、"singlet" fibrils と命名

質量分析でTMEM106Bと断定

これらのフィブリルを質量分析法 (mass spectrometry, MS)にかけて、600種類の候補の中から、cryoIDやfindMySequenceなどのソフトウェアを使って解析した結果、フィブリルの招待はTMEM106Bの120-254aa部分であることが判明しました。

doubletフィブリルは、2つのTMEM(120-254)がそれぞれK178とR180の側鎖部分で対になっており、接合部は蛋白ではない陰性荷電のコファクターでつながっているようでした。

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このTEME106B(120-254)のプロトフィラメントコアは、TMEM106Bの内腔ドメインで、細胞質ドメインのN-terminal部分は切断されている事になります。

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全部で19のβシート構造があり、ショートループを形成していました。

TMEM106Bの翻訳後修飾がフィブリルの構造に及ぼす影響

彼らは以前にも翻訳後修飾(post-translational modification, PTM)がフィラメントの構造に及ぼす影響について報告していましたが [4]

今回も、PTMがこのTMEM106Bアミロイドフィブリルの構造に及ぼす影響について考えました。

ネイティブのTMEM106Bは6つのN-glycosylation siteがあり、全て内腔ドメインに存在しています。

彼らはそのうち

  • N183
  • N164
  • N151
  • 1N145

でN-glycosylationが保たれていることを確認しました。

 

TMEM106B(182-185)の構造は、疾患多型のT185Sとも関係しているので非常に興味深く、

T185のリン酸化はN183のグリコシル化を決めると報告されており [5] 、この部分は複数の糖鎖が負荷されているようでした。

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TMTM106B(120-254)フィブリルは、リスク多型のT185、プロテクティブ多型のS185ハプロタイプに関係なく存在しているようでした。

TMEM106B抗体で検証

この論文が出た時点では、世の中にTMEM106Bフィブリルの良い抗体がなかったのですが、著者らは頑張って、TMEM106BのC末抗体(204-253)でウェスタンブロット(WB)をしてみました。

  • 健常人5人(68-73yo)
  • FTLD-TDP TypeA
  • FTLD-TDP TypeB
  • FTLD-TDP TypeC
  • シヌクレイノパチー5人

の脳をTMEM106BのC末抗体でWBしたところ、

  • TMEM106Bモノマー(~16kDa)
  • グリコシル化TMEM106B(~25kDa)
  • TMEM106Bオリゴマー(110kDa, 135kDa, 190kDa)

と思われるバンドが確認され、高分子バンドは神経変性疾患脳でより多く認められました。

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以上の結果から

「TDP-43プロテイノパチー、タウオパチー、シヌクレイノパチーなど、様々な変性疾患でTMEM106Bの凝集体が存在している」

という事が明らかとなりました。

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TMEM106Bはもともとリソソームの膜蛋白なので、リソソーム内でC末が切れてリソソーム膜を障害し、リソソーム内や細胞質でsinglet fibrilsとして蓄積したり、doublet fibrilsとして凝集したりする可能性が考えられました。

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References

  1. Chang A, Xiang X, Wang J, Lee C, Arakhamia T, Simjanoska M, Wang C, Carlomagno Y, Zhang G, Dhingra S, Thierry M, Perneel J, Heeman B, Forgrave LM, DeTure M, DeMarco ML, Cook CN, Rademakers R, Dickson DW, Petrucelli L, Stowell MHB, Mackenzie IRA, Fitzpatrick AWP. Homotypic fibrillization of TMEM106B across diverse neurodegenerative diseases. Cell. 2022 Mar 1:S0092-8674(22)00259-8. doi: 10.1016/j.cell.2022.02.026. Epub ahead of print. PMID: 35247328.
  2. Schweighauser M, Arseni D, Bacioglu M, Huang M, Lövestam S, Shi Y, Yang Y, Zhang W, Kotecha A, Garringer HJ, Vidal R, Hallinan GI, Newell KL, Tarutani A, Murayama S, Miyazaki M, Saito Y, Yoshida M, Hasegawa K, Lashley T, Revesz T, Kovacs GG, van Swieten J, Takao M, Hasegawa M, Ghetti B, Spillantini MG, Ryskeldi-Falcon B, Murzin AG, Goedert M, Scheres SHW. Age-dependent formation of TMEM106B amyloid filaments in human brains. Nature. 2022 Mar 28. doi: 10.1038/s41586-022-04650-z. Epub ahead of print. PMID: 35344985.
  3. Jiang YX, Cao Q, Sawaya MR, Abskharon R, Ge P, DeTure M, Dickson DW, Fu JY, Ogorzalek Loo RR, Loo JA, Eisenberg DS. Amyloid fibrils in disease FTLD-TDP are composed of TMEM106B not TDP-43. Nature. 2022 Mar 28. doi: 10.1038/s41586-022-04670-9. Epub ahead of print. PMID: 35344984.
  4. Arakhamia T, Lee CE, Carlomagno Y, Duong DM, Kundinger SR, Wang K, Williams D, DeTure M, Dickson DW, Cook CN, Seyfried NT, Petrucelli L, Fitzpatrick AWP. Posttranslational Modifications Mediate the Structural Diversity of Tauopathy Strains. Cell. 2020 Feb 20;180(4):633-644.e12. doi: 10.1016/j.cell.2020.01.027. Epub 2020 Feb 6. Erratum in: Cell. 2021 Dec 9;184(25):6207-6210. PMID: 32032505; PMCID: PMC7491959.
  5. Nicholson AM, Finch NA, Wojtas A, Baker MC, Perkerson RB 3rd, Castanedes-Casey M, Rousseau L, Benussi L, Binetti G, Ghidoni R, Hsiung GY, Mackenzie IR, Finger E, Boeve BF, Ertekin-Taner N, Graff-Radford NR, Dickson DW, Rademakers R. TMEM106B p.T185S regulates TMEM106B protein levels: implications for frontotemporal dementia. J Neurochem. 2013 Sep;126(6):781-91. doi: 10.1111/jnc.12329. Epub 2013 Jul 1. PMID: 23742080; PMCID: PMC3766501.
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