タウフィラメントの構造でタウオパチーを分類する

クライオ電子顕微鏡法(cryo-electron microscopy, cryo-EM)でのフィラメント構造解析については、このブログでも何回かとりあげました。

 

主に、イギリス・MRC分子生物学研究所の Dr. Goedert、Dr. Scheres らの研究グループからの報告が多く、ここ数年の間にタウオパチーやシヌクレイノパチーのフィラメント構造を次々と解明してきました。

今回彼らは、今までの研究の集大成として(かどうかはわかりませんが)、

「Cryo-EMによるタウフィラメントの構造解析の結果を元にタウオパチーを再分類する」

事を提唱しました [1]

nature-2021-tauopathy-CryoEM

タウフィラメントの構造でタウオパチーを分類する

彼らは、これまで報告してきた結果

  • アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)[2]
  • ピック病(Pick's disease, PiD) [3]
  • 慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy, CTE)[4]
  • 原発性年齢関連タウオパチー(primary age-related tauopathy, PART [6]

に加え、新たに

  • Familial British dementia (FBD)
  • familial Danish dementia (FDD)
  • 嗜銀顆粒性認知症(Argyrophilic Grain Dementia, AGD)
  • 加齢関連タウアストログリオパチー(aging-related tau astrogliopathy, ARTAG)
  • 進行性核上性麻痺(Progressive supranuclear palsy, PSP)
  • 球状グリア性タウオパチー(globular glial tauopathy, GGT)

をCryo-EMで解析しました。

抽出は、いつものようにサルコシルで処理してフィラメントコアが観察しやすいようにしました。

Cryo-EMによるタウフィラメントの解析結果

PSPとGGTはタウフィラメントの構造が似ている

PSPとGGTはともにタウの微小管結合領域(microtubule binding domain, MTBD)を構成するR1-R4のうち、R2,R3,R4でフィラメントコアを形成しており、

R3とR4の折り曲がり部分には高電子密度の陰性荷電分子(anionic molecule)と思われる物質を含んでいました。

AGDとARTAGはタウフィラメントの構造がCBDと似ている

AGDとARTAGは、PSP, GGTと同じ4リピートタウオパチーですが、

タウフィラメントの構造は、PSP/GGT とは少し違って、R3の一部とR4がR2と対面するような折りたたみ構造になっていて、

R2とR4の間に小さな高電子密度領域がありました。

これはどちらかというと、以前報告したCBDの構造 [5] と似ていました。

PiDは唯一の3Rタウオパチー

これは以前方向した内容 [2] ですが、

PiDは3Rタウオパチーで、R1, R3, R4が対面したフィラメント構造になっています。

CTEはADと似ているけどちょっと違う

こちらも以前報告した内容 [4] ですが、

CTEのタウフィラメント構造はADと非常によく似ていていて、R3とR4が対面するようなフィラメント構造になっています。

けれどもADと違って、R4の折りたたみ部位に高電子密度の anionic molecule を含んでいます。

AD, PART, FBD, FDD はタウフィラメントの構造が同じ

PARTのタウフィラメントはADのそれと同じ、という事は以前報告していましたが [6]

今回新たに追加したFBDとFDDも、タウフィラメントの構造はADと同じ、R3とR4が対面した構造をしていました。

タウフィラメント構造でタウオパチーを分類

以上の結果から、彼らは下記のようなタウオパチー分類を提唱しました。

tauopathy-cryo-EM-img1

My View

今まで、神経変性疾患の原因がわからなかった時代にはそれぞれの症候で疾患名がつけられ、

やがてタウ、シヌクレイン、TDP-43などの病理蛋白が同定されてタウオパチー、シヌクレイノパチー、TDP-43プロテイノパチーなどの分類が生まれ、

更に一部の疾患は病名が変更になったり一つの病名に統合されたりしました(e.g. 多系統萎縮症(Multiple system atrophy, MSA)など)。

今回はさらに技術が進み、タウフィラメントの構造によってタウオパチーを分類する、という事が提唱され……なんとゆーか、この分野のここ数十年での変遷って凄いなーと思います。

 

病理病態のメカニズムを考える上で、原因蛋白の構造を理解するって凄く重要だと思うので、ここ数年のこれらの解析報告は、分野内での研究をぐっと推し進めてくれているんじゃないかと思います。

自分ではこんな解析はできませんが、自分の研究に関係するヒントもこれらの論文の中にたくさん詰め込まれているので、とてもありがたいです。

References

  1. Shi Y, Zhang W, Yang Y, Murzin AG, Falcon B, Kotecha A, van Beers M, Tarutani A, Kametani F, Garringer HJ, Vidal R, Hallinan GI, Lashley T, Saito Y, Murayama S, Yoshida M, Tanaka H, Kakita A, Ikeuchi T, Robinson AC, Mann DMA, Kovacs GG, Revesz T, Ghetti B, Hasegawa M, Goedert M, Scheres SHW. Structure-based classification of tauopathies. Nature. 2021 Oct;598(7880):359-363. doi: 10.1038/s41586-021-03911-7. Epub 2021 Sep 29. PMID: 34588692; PMCID: PMC7611841.
  2. Fitzpatrick AWP, Falcon B, He S, Murzin AG, Murshudov G, Garringer HJ, Crowther RA, Ghetti B, Goedert M, Scheres SHW. Cryo-EM structures of tau filaments from Alzheimer's disease. Nature. 2017 Jul 13;547(7662):185-190. doi: 10.1038/nature23002. Epub 2017 Jul 5. PMID: 28678775; PMCID: PMC5552202.
  3. Falcon B, Zhang W, Murzin AG, Murshudov G, Garringer HJ, Vidal R, Crowther RA, Ghetti B, Scheres SHW, Goedert M. Structures of filaments from Pick's disease reveal a novel tau protein fold. Nature. 2018 Sep;561(7721):137-140. doi: 10.1038/s41586-018-0454-y. Epub 2018 Aug 29. PMID: 30158706; PMCID: PMC6204212.
  4. Falcon B, Zivanov J, Zhang W, Murzin AG, Garringer HJ, Vidal R, Crowther RA, Newell KL, Ghetti B, Goedert M, Scheres SHW. Novel tau filament fold in chronic traumatic encephalopathy encloses hydrophobic molecules. Nature. 2019 Apr;568(7752):420-423. doi: 10.1038/s41586-019-1026-5. Epub 2019 Mar 20. PMID: 30894745; PMCID: PMC6472968.
  5. Zhang W, Tarutani A, Newell KL, Murzin AG, Matsubara T, Falcon B, Vidal R, Garringer HJ, Shi Y, Ikeuchi T, Murayama S, Ghetti B, Hasegawa M, Goedert M, Scheres SHW. Novel tau filament fold in corticobasal degeneration. Nature. 2020 Apr;580(7802):283-287. doi: 10.1038/s41586-020-2043-0. Epub 2020 Feb 12. PMID: 32050258; PMCID: PMC7148158.
  6. Shi Y, Murzin AG, Falcon B, Epstein A, Machin J, Tempest P, Newell KL, Vidal R, Garringer HJ, Sahara N, Higuchi M, Ghetti B, Jang MK, Scheres SHW, Goedert M. Cryo-EM structures of tau filaments from Alzheimer's disease with PET ligand APN-1607. Acta Neuropathol. 2021 May;141(5):697-708. doi: 10.1007/s00401-021-02294-3. Epub 2021 Mar 16. Erratum in: Acta Neuropathol. 2021 Apr 8;: PMID: 33723967; PMCID: PMC8043864.
にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ