「アデュカヌマブ」が初めてのアミロイドβ (Amyloid beta, Aβ) 抗体としてFDAの限定承認を受け、良くも悪くも注目されている Biogen ですが、
もちろん、他のアプローチによるアルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) 治療についても続々と薬を開発しており、
どんどん臨床試験を進めています。
先日は、タウ抗体「ゴスラネマブ (Gosuranemab)」の第2相試験の結果を発表しました。
The Investor Relations website contains information about Biogen's business for stockholders, potential investors, and financial analysts.
結果は、「第1次エンドポイントを達成できず」
- 対象者
- 軽度認知機能障害 (MCI)
- 早期アルツハイマー病 (AD)
- 参加人数と年齢:654人(50-80歳)
- 期間:18ヶ月間
- ゴスラネマブの投与群
- プラセボ
- 低用量
- 中等度用量
- 高用量
- 評価項目
- ADAS-Cog13
- ADCS-ADL
- MMSE
- FAQ
- CSF中N末タウ
- タウPET
脳脊髄液(cerebrospinal fluid, CSF)中のN末タウの量は減らせたそうですが、タウPETでのタウ蓄積には変化がなかったとのこと。
Biogenは、ADに対するゴスラネマブの治験を終了し、開発もストップするそうです。
2年前には、進行性核上性麻痺 (progressive supranuclear palsy, PSP) の患者さんに対するゴスラネマブの治験が失敗に終わりましたが、
私はこの治療を受けたあとに亡くなられた兄弟の症例の病理初見を担当していました。
その時、お二人の脳内のタウ病理の初見が、普通の tufted astrocytes とは明らか違う形態をしていたので、
「治験は失敗したけど、タウ病理自身には何らかの形で作用していたみたい」
と思っていました。
そのため、今回のADへの治験はちょっと期待していましたが……臨床上の効果を得るにはあと一歩足りなかったようです。
※ 2021年8月15日追記
ゴスラネマブの PSP に対する 第2相試験の結果が Nature Medicine に報告されました。
In the phase 2 PASSPORT study, treatment with the anti-tau antibody gosuranemab did not show clinical benefit in participants with supranuclear palsy, suggesting that N-terminal tau neutralization does not translate into clinical efficacy.
速報ありがとうございます。細胞外にあるA-betaに比べて細胞内が中心のタウを標的にした抗体治療は、やや不利な印象がありますが病理をmodulateしているのであれば効果は期待できそうですね。臨床試験に関しては、biomarkerにbreakthroughが起きて介入時期をいかに早くできるかが、認知症の根本治療法開発の鍵かと思っています。現状では、どの候補も結果出すのは厳しいかなと・・。
そのとおりですね。
例えばAβワクチン/抗体の場合は、DIANでめっちゃ前から介入してみて効果があればまだ希望があるかもですが、いつから介入するかはやはり問題になりますし、nucleation がわかる biomarker の開発などはまだまだ無理そうですしね。
タウに関しても仰るとおりで、うちのラボは「細胞外に飛び出したタウを捕まえるんだ」と意気込んでいますが、細胞内で増幅されるんだったらそれもどこまで効果があるか……ただ、病理が変わっていたので、ミクログリアなどのクリアランス機能にも作用してるかもなーと思いました。それだったらまだ可能性はありそうですね。