グリアを神経に変えて病気を治す…という論文には間違いがあったらしいーその2

先日、「アデノ随伴ウイルスベクターを使ってNeuroD1を過剰発現させ、アストロサイトをニューロンに形質転換する」という論文の間違いについて取り上げましたが [1]

今回は「レンチウイルスで同じNeuroD1を過剰発現し、ミクログリアをニューロンに形質転換する」という論文についても疑問を呈する論文が出ました [2]

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グリアを神経に変えて病気を治す…という論文には間違いがあったらしいーその2

この論文は、九大の中島研から発表された論文 [3] に対する検証研究です。

背景としては、アストロサイトとニューロンは同じ神経幹細胞から分化しているからアストロサイト→ニューロンの形質転換はイメージしやすいけど、ミクログリアはソースは全く違うから、ミクログリア→ニューロンというのが本当に可能なのか、対象論文が出た後からずっと議論が続いていたそうです。

 

彼らの主張によると、vitro でミクログリアにNeuroD1を過剰発現させてもニューロンには形質転換せず、ミクログリアの細胞死を誘導するとのこと。

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また、アポトーシス抑制剤でミクログリアの細胞死を抑制しても、ニューロンにはならなかったそうです。

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さらに、対象論文で使われていたレンチウイルス(VSV-G pseudotyped lentivirus)を使って vivo でNeuroD1を過剰発現することは難しく [4][5][6]

CX3CR1+/CreERマウスを使っても、目的の遺伝子がアストロサイトやニューロンに発現するそうです [7]

実際彼らが試した結果、レンチウイルスは主にアストロサイトやニューロンに感染し、ミクログリアへの導入はわずかだったとのこと。

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ミクログリアをトレースして検証した結果、ミクログリア→ニューロンの形質転換はなく、

ニューロンへの leakage を見ていた可能性が高い、と結論づけました。

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彼らは報告されている他の遺伝子でも検証し、

  • PAX6
  • SOX2
  • ASCL1
  • PTBP1

のいずれもミクログリア→ニューロンへの変化はなかったとのこと。

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総じて、「ミクログリアはニューロンに変化することはできない」とまとめています。

反駁論文も同時掲載

中島研からの反駁論文も掲載されていて [8]、彼らの主張によると

  • vitroのミクログリアの純度は高く、元々のニューロンをみている可能性は低い
  • その状態で多くのミクログリアがレンチウイルスに感染し、形質転換している
  • NeuroD1でM→Nの形質転換に成功したけど細胞死も誘導したという過去論があり、自分たちはそれを改良して使用した
  • vivoでは、レンチウイルスは約60%のミクログリアに感染しており、ニューロンなどへの感染は軽度だった
  • M→Nへの変化ならDCX陽性になるはずで、自分たちはちゃんとDCX+を確認できている
  • さらに別論文(プレプリント)で虚血性病変でも同系の有効性を示している [9]
  • Rao et al. の論文はミスラベルのニューロンに着目しているが、レンチウイルスはFBSの影響を受けやすいので、自分たちはFBSなしの培地を使用しているところが異なる
  • Rao et al. の論文のおかげで、NeuroD1の形質導入では細かい環境設定がその後のミクログリアの変化に大きく影響する事がわかった

などの内容が書かれていました。



 

真偽のほどは私にはわかりませんが、他の論文などもみていると、「グリア→ニューロンへの変化は再現性をとるのが難しい」という事は言えそうです。

このテーマに関する議論は今後も続いていくと思われるので、注意深く追っていきたいと思います。

References

    1. Wang LL, Serrano C, Zhong X, Ma S, Zou Y, Zhang CL. Revisiting astrocyte to neuron conversion with lineage tracing in vivo. Cell. 2021 Oct 14;184(21):5465-5481.e16. doi: 10.1016/j.cell.2021.09.005. Epub 2021 Sep 27. PMID: 34582787; PMCID: PMC8526404.
    2. Rao Y, Du S, Yang B, Wang Y, Li Y, Li R, Zhou T, Du X, He Y, Wang Y, Zhou X, Yuan TF, Mao Y, Peng B. NeuroD1 induces microglial apoptosis and cannot induce microglia-to-neuron cross-lineage reprogramming. Neuron. 2021 Nov 30:S0896-6273(21)00944-2. doi: 10.1016/j.neuron.2021.11.008. Epub ahead of print. PMID: 34875233.
    3. Matsuda T, Irie T, Katsurabayashi S, Hayashi Y, Nagai T, Hamazaki N, Adefuin AMD, Miura F, Ito T, Kimura H, Shirahige K, Takeda T, Iwasaki K, Imamura T, Nakashima K. Pioneer Factor NeuroD1 Rearranges Transcriptional and Epigenetic Profiles to Execute Microglia-Neuron Conversion. Neuron. 2019 Feb 6;101(3):472-485.e7. doi: 10.1016/j.neuron.2018.12.010. Epub 2019 Jan 9. PMID: 30638745.
    4. Åkerblom M, Sachdeva R, Quintino L, Wettergren EE, Chapman KZ, Manfre G, Lindvall O, Lundberg C, Jakobsson J. Visualization and genetic modification of resident brain microglia using lentiviral vectors regulated by microRNA-9. Nat Commun. 2013;4:1770. doi: 10.1038/ncomms2801. PMID: 23612311.
    5. Fassler M, Weissberg I, Levy N, Diaz-Griffero F, Monsonego A, Friedman A, Taube R. Preferential lentiviral targeting of astrocytes in the central nervous system. PLoS One. 2013 Oct 2;8(10):e76092. doi: 10.1371/journal.pone.0076092. PMID: 24098426; PMCID: PMC3788778.
    6. Peluffo H, Foster E, Ahmed SG, Lago N, Hutson TH, Moon L, Yip P, Wanisch K, Caraballo-Miralles V, Olmos G, Lladó J, McMahon SB, Yáñez-Muñoz RJ. Efficient gene expression from integration-deficient lentiviral vectors in the spinal cord. Gene Ther. 2013 Jun;20(6):645-57. doi: 10.1038/gt.2012.78. Epub 2012 Oct 18. PMID: 23076378.
    7. Yona S, Kim KW, Wolf Y, Mildner A, Varol D, Breker M, Strauss-Ayali D, Viukov S, Guilliams M, Misharin A, Hume DA, Perlman H, Malissen B, Zelzer E, Jung S. Fate mapping reveals origins and dynamics of monocytes and tissue macrophages under homeostasis. Immunity. 2013 Jan 24;38(1):79-91. doi: 10.1016/j.immuni.2012.12.001. Epub 2012 Dec 27. Erratum in: Immunity. 2013 May 23;38(5):1073-9. PMID: 23273845; PMCID: PMC3908543.
    8. Matsuda T, Nakashima K. Clarifying the ability of NeuroD1 to convert mouse microglia into neurons. Neuron. 2021 Dec 3:S0896-6273(21)00950-8. doi: 10.1016/j.neuron.2021.11.012. Epub ahead of print. PMID: 34875232.
    9. Takashi Irie, Taito Matsuda, Yoshinori Hayashi, Akihide Kamiya, Jun-ichi Kira, Kinichi Nakashima. Direct neuronal conversion of microglia/macrophages reinstates neurological function after stroke. bioRxive, doi: 10.1101/2021.09.26.461831
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