運動がアルツハイマー病などの認知症予防に効果的であることは、このブログでも何度かとりあげました。
運動が認知機能に良い影響をもたらすという研究結果は多数報告されている。 インスリン、レプチン、GLP1、グルココルチコイドなど、中枢神経以外で産生されるホルモンが神経保護やシナプスの可塑性などを介して、認知機能向上を促す …
機序的にも疫学的にも、運動の認知機能に対するポジティブな効果は疑いようがないんじゃないかと思います。
でも運動の効果って、年齢や性別、基礎疾患などによって様々なような気がしますね。
今回、アメリカ・Rush 大学の Dr Desai らの研究グループは、血漿中のタウをバイオマーカーとして、運動の有無や強度によって、長期的な認知機能低下にどれくらい影響があるのか調べました。
運動は認知機能低下を抑制できるー特に血漿中タウが高い人に効果的
方法
彼らは、"The Chicago Jealth and Aging Project" で、シカゴの4ヶ所のコミュニティからデータを集めました (n = 1159)。
データは1993年から2012年にかけて3年毎に集められ、参加者には日頃の運動の強度や頻度をインタビューしました。
運動
日常にどれだけ運動したかは、
- ウォーキング
- ジョッギング or ランニング
- ガーデニング
- ダンス
- ゴルフ
- ボーリング
- 自転車
- 水泳
- その他の身体的活動を伴う趣味
等を、インタビュー前の14日間どれくらい行ったかインタビューし、一週間の運動時間として換算しました。
そして、
- 中等度運動群: 1週間に 150 分以内の運動
- 高度運動群: 1習慣に 150 分以上の運動
にわけ、それぞれ評価しました。
認知機能検査
認知機能検査は、
- East Boston Tests of Immediated Memory and Delayed Reall (エピソディック記憶検査)
- Mini-Mental Stage Examination (MMSE)
- Symbol Digit Modalities Test (oral version)
を行い、Zスコアの平均値で評価しました。
血漿中タウ
タウの評価は、血漿中のトータルタウで行い、
- 血漿中タウが低い群 (<=0.40 pg/ml)
- 血漿中タウが高い群 (>0.40 pg/ml)
に分けて評価しました。
結果
高度運動群、中等度運動群両方とも、ほとんど運動しない人達と比べて、10年間での認知機能維持効果がありました。
さらに血漿中タウが低い群と高い群で比べると、
- 血漿中タウが高い群
- 中等度運動群: 58% の認知機能維持効果 (-0.028 SDU /年)
- 高度運動群: 41% の認知機能維持効果 (-0.038 SDU / 年)
- 血漿中タウが低い群
- 中等度運動群: 2% の認知機能維持効果 (-0.050 SDU /年)
- 高度運動群: 27%n の認知機能維持効果 (0.025 SDU /年)
となり、運動の効果は特に血漿中のタウ量が多かった人達で高かったようです。
My View
血漿中タウ濃度はアルツハイマー病の進行度とともに上昇してくるので、
アルツハイマー病で考えると、健常人や軽度認知機能障害の人達よりも、より進行した人の方で運動による認知症予防効果が高い、と言えそうです。
ただ、認知機能検査は z score で示されていて、実際のベースラインのスコアがどれくらいかわからなかったで、それぞれのグループが実際にどれくらいの認知機能なのか知りたいなーと思いました。
あと、血漿中のトータルタウの値って、ELISA で 100 pg/ml くらいで考えていたのですが [2, 3]、
この論文では 0.40 pg/ml をカットオフ値にしていて3桁くらい違うので、ちょっと不思議な感じがしました。
ここで使われている "the single molecular assay bead-based HD platform and the Neurology 4Plex A kit" だと、元論文でも 0.4 pg/ml くらいみたいなので [4]、多分、測定系の違いなんでしょう……。
This cohort study uses data from the Chicago Health and Aging Project to evaluate the association of physical activity and total tau concentrations with cognitive decline at baseline and over time
References
- Desai P, Evans D, Dhana K, Aggarwal NT, Wilson RS, McAninch E, Rajan KB. Longitudinal Association of Total Tau Concentrations and Physical Activity With Cognitive Decline in a Population Sample. JAMA Netw Open. 2021 Aug 2;4(8):e2120398. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2021.20398. PMID: 34379124; PMCID: PMC8358733.
- Demirel ÖF, Cetin I, Turan Ş, Yıldız N, Sağlam T, Duran A. Total Tau and Phosphorylated Tau Protein Serum Levels in Patients with Schizophrenia Compared with Controls. Psychiatr Q. 2017 Dec;88(4):921-928. doi: 10.1007/s11126-017-9507-x. PMID: 28342141.
- Nam E, Lee YB, Moon C, Chang KA. Serum Tau Proteins as Potential Biomarkers for the Assessment of Alzheimer's Disease Progression. Int J Mol Sci. 2020;21(14):5007. Published 2020 Jul 15. doi: 10.3390/ijms21145007.
- Rajan KB, Aggarwal NT, McAninch EA, Weuve J, Barnes LL, Wilson RS, DeCarli C, Evans DA. Remote Blood Biomarkers of Longitudinal Cognitive Outcomes in a Population Study. Ann Neurol. 2020 Dec;88(6):1065-1076. doi: 10.1002/ana.25874. Epub 2020 Sep 29. PMID: 32799383.