APOE4とBBB

アポリポプロテインE4(Apolipoprotein E4, APOE4)は、アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)の最も強力なリスク因子として知られています。

アミロイドβ(Amyloid beta, Aβ)の産生やタウ病理の増悪因子として有名ですが、血管障害のリスク因子としても多方面から注目されており、多くの報告があります。

 

アメリカ・南カリフォルニア大学(USC)のZlokovic氏は、昨年も血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)の障害が認知機能低下や、Aβ・タウのバイオマーカーよりも先行するという事を報告 (Nation et al., Nat MEd, 2019Nation et al., Nat MEd, 2019) しましたが、

今回は、APOE4ジェノタイプが、Aβやタウと独立して、BBB障害およびその後の認知機能低下に関連する、という事を明らかにしました。  

 

APOE4はそれだけで血管障害と認知機能低下のリスク

著者らは、

APOE3 (ε3/ε3), APOE4 (ε3/ε4 and ε4/ε4) のAPOEジェノタイプを持つ、

認知機能正常(CDR = 0)および極軽度の障害(CDR = 0.5)245人の被験者を対象に、

MRIや脳脊髄液(cerebrospinal fluid, CSF)を調べた。

 

結果、同じ認知機能正常(CDR = 0)でも、

APOE4群ではAPOE3群に比べて、海馬および海馬傍回のBBB障害が強かった。

(他の部分、ITG, SFG, CN, Thal, Str, Subcor. WS NAWM, CC, ICではこのようなBBB障害の差は見られなかった。)

CDR = 0.5だと、さらにこの差が拡大した。

このBBB障害は、Aβ+/-やタウ+/-の結果とは独立していた。

 

BBB障害のマーカーとして、CSF中のペリサイトのマーカーPDGFRβを測定し、

  • 低値群 (0-600 ng/ml)
  • 高値群 (600-2,000 ng/ml)

に分け、

最長4.5年間、2年毎の認知機能の経時的変化を追うと、

CSF-PDGFRβ高値群では経時的に認知機能が低下していた。

 

著者らは以前、マウスモデルでは、APOE4 → シクロポリンA (CypA) → MMP9 のカスケードでBBB障害を起こす事を報告している (Bell et al, Natue, 2012) ので、

今回のコホートでCSF中のCypAとMMP9を調べた所、

予想通り、APOE4、PDGFRβ↑群で、CSF中CypAとMMP9の値が増加していた。

 

これらの結果は、

APOE4 → CypA → MMP9 → 海馬・海馬傍回のBBB障害 → 認知機能低下

のカスケードを示唆するものである。

CypA抑制は、

APOE4ジェノタイプを持つ患者のBBB障害および認知機能障害を防ぐことができるかもしれない。

My View

ここのグループからは定期的にこの手の報告がありますが、

今回はAPOE4とBBB障害に注目。

 

まず、BBBの透過性亢進をdynamic contrast-enhanced magnetic resonance imaging (DCE-MRI)で調べ、

APOE4群では海馬と海馬傍回でBBB障害が起こっていることを示しています。

 

なぜ他の場所では差がないのに海馬・海馬傍回だけでこの差が起こるのか、著者らは明らかにしておらず不思議ですが、

元々海馬周辺はBBB障害が起こりやすい場所なので、差が出やすかったという事でしょうか。

 

あと、Aβ+/-, タウ+/-でBBB障害が変わるか調べ、ほとんど変わっていないという事を示していますが、

そんなに綺麗にでるものかなー、Aβ+はBBB障害に差が出てもよさそうだけどなあ……というのが最初の感想。

CDR = 0-0.5の人達を対象にしているから、というのがそれに対する答えになりそうですが……  

 

差がでれば、後は今まで著者らが報告してきた内容を組み合わせて、

CSF中のPDGFRβ量(ペリサイトのマーカー、BBB障害のバイオマーカーとして有用)や

CyPA → MMP9カスケードを見にいって、

予想通りの結果が得られています。

ApoE4-CypA-MMP9カスケード
▲ Bell et al., Nature, 2012より

 

うーん、綺麗……

Glossary

CDR (Clinical Dementia Rating):

0 = Normal

0.5 = Very Mild Dementia

1 = Mild Dementia

2 = Moderate Dementia

3 = Severe Dementia

References

  1. Montagne, A., Nation, D.A., Sagare, A.P. et al. APOE4 leads to blood–brain barrier dysfunction predicting cognitive decline. Nature 581, 71–76 (2020). https://doi-org.proxy.library.upenn.edu/10.1038/s41586-020-2247-3
  2. Nation, D.A., Sweeney, M.D., Montagne, A. et al. Blood–brain barrier breakdown is an early biomarker of human cognitive dysfunction. Nat Med 25, 270–276 (2019). https://doi.org/10.1038/s41591-018-0297-y
  3. Bell, R., Winkler, E., Singh, I. et al. Apolipoprotein E controls cerebrovascular integrity via cyclophilin A. Nature 485, 512–516 (2012). https://doi.org/10.1038/nature11087
にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ