細胞の老化は不可逆的な細胞周期の停止に特徴的な分泌の表現型を伴う現象で、様々な細胞内および細胞外の要因から引き起こされる。
p16INK4Kという細胞周期停止タンパクは、加齢に伴う組織の変性を促し、動脈硬化や関節炎などに関与することがわかっている。また老化細胞は、老化した脳や神経変性疾患でも検出されているが、その役割は解明されていない。
今回、Bussianらは、タウ遺伝子のMAPTP301S変異マウス (PS19)で、p16INK4K陽性の老化アストロサイトや老化ミクログリアが、加齢に伴って蓄積することを明かにした。
老化したグリア細胞を除去すると、タウ病理と認知機能低下が軽減する
PS19マウスにINK-ATTACマウスを交配させ、AP20187という化合物を投与してこれらの老化グリア細胞を除去すると、
- グリオーシス
- 神経原線維変化につながる可溶性および不溶性の過リン酸化タウ
- 皮質と海馬の神経変性
を抑制し、認知機能低下が軽減された。
これらの結果は、老化細胞がタウ関連変性疾患の発症や進行に関与している可能性を示唆し、老化細胞をターゲットとした治療法の可能性が期待される。
My View
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の最大リスク因子は「加齢」といえると思います。
以前までは、加齢に抗うことはできないと考えられ、それ以外のリスク因子に焦点をあてた研究が盛んに行われていましたが、一方で、加齢研究の分野は着実に進んでいたようです(cf. van Deursen JM, Nature, 2014)。
今回の論文を受けて少し調べたところ、アルツハイマー病の脳内で老化アストロサイトや老化ミクログリアが増加しているという報告はありました(Flanary et al, 2007; Bhat et al., 2012)が、その役割はよくわかっていませんでした。けれども、老化細胞は炎症物質や組織障害性のプロテアーゼを分泌するので、脳内環境にとって有害である事が予測できます。
著者らは、このINK-ATTACマウスを使った論文を2016年に報告(Baker DJ et al, Nature, 2016)しています。
この研究で著者らは、老化細胞に発現するInk4aのプロモーター下に、FK506-binding-protein-caspase 8 (FKBP-Casp8)とGFPを組み込みんだマウスを用いました。
このマウスにFKBP-fused Casp 8を活性化するAP20187を投与し、老化細胞だけアポトーシスを誘導すると、マウスの平均寿命が3割近くのび、個体の最長寿命も2割くらい伸びました。そして、心筋機能、腎機能、新陳代謝など、体組織のさまざまな部分で、若さが保たれていました。
「老化した細胞を除去する」という考えが斬新で面白いと思いましたが、加齢研究分野では、以前から注目されていたようです。(Zhu et al, Aging Cell, 2015; Zhu et al, Aging Cell, 2016)
まだまだ奥が深そうなので、もう少し勉強してみようと思います。