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アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) に対する抗アミロイドβ (Amyloid beta, Aβ) 抗体が承認され、「疾患修飾薬はない」と言われ続けていたAD治療の分野は大きく前進しました。

けれども、Aβを除去しても、Aβによって活性化したミクログリアやアストロサイトは脳内に炎症物質をまきちらし、現場は焼け野原となっているはず。

「Aβ」だけじゃなくて、「炎症」もなんとかしないといけないんじゃないの?

……とゆーことで、中国・河南大学(Henan University)の Dr. Zhang, Dr. Wang, Dr. Shi, Dr. Tang らの研究グループは、

「Aβと炎症をワン・ツー・パンチで治療する方法」

を開発しました。

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ワン・ツー・パンチでアルツハイマー病を撃退

Aβの凝集化を防ぐ化合物と炎症を抑える化合物を一つに

彼らは、近赤外線-II 集積誘起発光体(aggregation-induced emission, AIEgenes)と、脳標的angiopep-2(Ang-2) [2] を改変した技術を用いて、

「血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)を通過し、脳内にAβのフィブリル化を防ぐ化合物と炎症を抑える化合物を届けるナノ合成体(nanocomposites, NCs)(Ang-NCs)」

を開発しました。

NCsには、

  • Aβの凝集化を防ぐ化合物(AIEgensの化合物3)
  • 炎症関連活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)のスカベンジャー作用を持つ化合物(AIEgensの化合物6)

が組み込まれており、ROSに反応してそれぞれのAIEgensが切り離されて脳に届くようになっています。

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NCsはイメージングに使える

AIEgensは発光体なので、イメージングで脳内動態を観察できます。

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NCsはROSに反応して分解され、化合物6で抗酸化作用を発揮する

2つのAIEgenesが組み込まれたNCsは、ROSで切断されて分解します。

過酸化水素(H2O2)で処理すると、NCsの径が大きくなり、分解されて いく様子がわかります。

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また、Ang-NCsは化合物6のCe(III)→Ce(IV)により抗酸化作用を発揮します。(化合物3は共通構造を持ちますが、ほとんど抗酸化作用を持たないのがわかります。)

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Ang-NCsは化合物3でAβのフィブリル化を抑制

Aβモノマーを37℃でインキュベートすると、Aβオリゴマー、Aβフィブリルを形成しますが、そこに過酸化水素(H2O2)を加えると、さらに長いフィブリルを作ります。

ここにAng-NCsを加えておくと、Aβのフィブリル化が抑制されます。

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この作用は化合物3によるもので、

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in silicoで調べると、化合物3はファンデルワールス力と水素結合によって2つのAβの表面に結合し、凝集化を防ぐ事がわかりました。

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Ang-NCsはBBBを通過し、効力を発揮

in vitroの系で調べると、Ang-NCsはBBBを通過し、目的の細胞に届いて効力を発揮することがわかります。

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また、マウスに静脈注射して、Ang-NCsが脳内に到達する様子が観察されました。

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Ang-NCsは、APP/PS1マウスのAβを除去し、炎症を抑え、認知機能を改善

マウス脳内に到達したAng-NCsは、抗酸化作用を発揮し、APP/PS1マウス脳内のAβプラークを減少させました。

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この作用は、ミクログリアやアストロサイトの活性化を伴わず、「脳に優しいAβ除去と抗炎症作用」を発揮する事が示唆されました。

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そして、Ang-NCsを投与したAPP/PS1マウスは、認知機能が改善し、人のAD治療にも効果が期待される結果となりました。

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My View

タイトルがキャッチーだったので、思わず読みたくなりました。

最近、中国からの論文は、技術力が高いなと感じるだけでなく、英語文章の書き方も洗練されているな、と思うことが多いです。

また国とは関係なく、IFの高い雑誌に投稿されている論文と、そうでない論文とでは、文章の書き方のレベルも異なる傾向がある気がします。

まあ、AIを駆使して書いている事もあるかもですが、読者としては、やっぱり気持ちよく読める論文の方が嬉しいですね。

 

さて、内容。

今話題のAβ抗体療法は、Aβ除去効果はしっかりありますが、ミクログリアを活性化し、脳内を焼け野原にする可能性、溶かしたAβが血管に溜まって血管炎症、ARIAが生じる可能性など、まだまだ理想的な治療とは言いにくい面があります。

この部分に切り込み、Aβ除去と抗炎症を同時に届ける薬剤として、今回開発されたようです。

元は脳腫瘍の治療薬として開発されて [2] 、それを今回AD治療用に改変したようです。

 

神経炎症はAD治療ターゲットとしてもかなり注目されており、去年のNIA-AAのAD診断基準改訂版案の中にも、神経炎症の項目が組み込まれていました。

また、Aβ抗体と抗炎症の両方をターゲットとした臨床研究もいくつか進められています。

今回の論文の結果が本当なら、人にも効果がありそうな気がします。

References

  1. Wang J, Shangguan P, Chen X, Zhong Y, Lin M, He M, Liu Y, Zhou Y, Pang X, Han L, Lu M, Wang X, Liu Y, Yang H, Chen J, Song C, Zhang J, Wang X, Shi B, Tang BZ. A one-two punch targeting reactive oxygen species and fibril for rescuing Alzheimer's disease. Nat Commun. 2024 Jan 24;15(1):705. doi: 10.1038/s41467-024-44737-x. PMID: 38267418; PMCID: PMC10808243.
  2. Zheng M, Du Q, Wang X, Zhou Y, Li J, Xia X, Lu Y, Yin J, Zou Y, Park JB, Shi B. Tuning the Elasticity of Polymersomes for Brain Tumor Targeting. Adv Sci (Weinh). 2021 Oct;8(20):e2102001. doi: 10.1002/advs.202102001. Epub 2021 Aug 22. PMID: 34423581; PMCID: PMC8529491.
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