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アポリポタンパクは、脂質等と結合して、脂質の運搬や脂質代謝関連酵素の活性化、あるいは補酵素として働く一連のタンパクの総称です。

このうち、アポリポタンパクE (Apolipoprotein E, APOE) は、主に3つのアイソフォームがあり、それぞれ

  • APOE2
  • APOE3
  • APOE4

と呼ばれます。

この中でAPOE4は、アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) や血管障害のリスク因子として、APOE2は逆に保護因子として注目されています [1, 2]

APOEは脳内の様々な細胞に発現しますが、その中でも特に発現量・分泌量が多いのが、アストロサイトです。 

 

今回、アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)のDr. Tsaiと、2016年に他界したDr. Lindquistらの研究グループは、

iPS細胞と酵母を使って、

APOE4を持つアストロサイト/酵母では、脂質代謝の異常が生じている事を報告しました [3]

APOE4 title

APOE4を持つアストロサイト&酵母では脂質代謝異常が起こっている

APOE4を持つアストロサイトでは脂質代謝異常が起こる

彼らはまず、APOEのジェノタイプがE3/E3のヒトiPS細胞を、そのまま、もしくはE4/E4に遺伝子編集して、アストロサイトに分化し、

  • E3/E3アストロサイト
  • E4/E4アストロサイト

を作成しました。

すると、E4/E4アストロサイトの方で、より多くの脂肪滴を認めました。

APOE4 eyecatch img1

APOE4を持つ酵母でも脂質代謝異常が起こり、コリン投与でレスキュー可能

次に彼らは、同様の系を酵母でも試し、E4/E4酵母でより多くの脂肪滴を認めました。

そして、E4/E4を持つ酵母では、成長が滞りました。

APOE4 title

成長が滞った原因として、APOE4によるAPOEのloss of functionを考えた彼らは、色々な遺伝子を欠失したスクリーニングで、APOE4があっても酵母の成長が安定した遺伝子を同定しました。

そして結果の中から、酵母の脂質代謝に関連する2つの遺伝子、

  • MGA2
  • OPI1

に注目しました。

そしてOle1p阻害剤をE4/E4酵母に処置すると、酵母の発育状態が改善しました。

 

OPI1は、リン脂質合成を阻害する働きがあるので、

彼らは、

  • リン脂質合成酵素
  • エタノールアミン
  • コリン

などを外から加えることで、E4/E4による成長阻害作用が改善できるかどうか検証しました。

その結果、コリンを外から処置することで、APOE4による酵母内の脂肪滴の量および酵母の成長阻害を改善できることを突き止めました。

コリン投与でAPOE4によるアストロサイトの脂質異常を改善できる

この実験結果を、iPS細胞由来のアストロサイトに適応すると、予想通り、コリン処置により、E4/E4アストロサイト内の脂肪滴の量が減少しました。

My View

……ということで、APOE4と脂質代謝異常に注目し、コリンを外から処置する事でAPOE4による脂質代謝異常や細胞障害機序を改善できる、という内容の論文でした。

Dr. Tsaiの研究はいつも面白いと思うのですが、Dr. Lindquistとの共同研究もよくみかけます。

Dr. Lindquistはいずれノーベル賞をとると言われていましたが、その前に病気で他界されました。

直接お会いしたことはないですが、死後5年経てもなお良質な論文のラストオーサーとして名前をみかける彼女は、やっぱりすごい人だったんだろうなーと思います。

……私もコツコツ頑張ろ。

References

  1. https://mom-neuroscience.com/psen1e280a-apoe3ch/
  2. https://mom-neuroscience.com/nature-2020-apoe4-bbb/
  3. Sienski G, Narayan P, Bonner JM, Kory N, Boland S, Arczewska AA, Ralvenius WT, Akay L, Lockshin E, He L, Milo B, Graziosi A, Baru V, Lewis CA, Kellis M, Sabatini DM, Tsai LH, Lindquist S. APOE4 disrupts intracellular lipid homeostasis in human iPSC-derived glia. Sci Transl Med. 2021 Mar 3;13(583):eaaz4564. doi:10.1126/scitranslmed.aaz4564. PMID: 33658354.