LancetNeurol-2024-Biological-Criteria-of-PD-1

パーキンソン病 (Parkinson's disease, PD) の4大症状は、振戦、固縮、無動・寡動、姿勢反射障害と言われており、進行性に運動障害をきたします。

また、便秘、嗅覚障害、レム睡眠行動異常(Rapid eye movement (REM) sleep behavior disorder, RBD)、精神症状、認知症など、多彩な非運動症状をきたし、それらの多くは運動症状より以前に出現します。早期から認知症症状が強い症例は、レヴィ小体型認知症 (Dementia with Lewy bodies, DLB) と臨床的に診断されます。

 

これらの疾患は、その症状がでる何年も前から、神経内etc.にα-シヌクレイン (α-synuclein, α-syn)の凝集体がたまり始めており、PDの運動症状が出る頃には、既に中脳黒質緻密部(substantia nigra pars compacta, SNc)のドパミン(DA)神経の約50%が減っている とも言われています [1]

また、PDの約10-15%は遺伝性であり [2] 、この中でも浸透率の高いものは、ある年齢になるとほぼ確実にPDを発症すると考えられます。

なので、

「α-synやSNcの神経細胞死などのバイオマーカー、そして遺伝要素などを組み入れた、PDの生物学的定義/区分を作り、それに基づいてPD研究を進めた方がよいのではないか」

と提唱する Position Paper [3] と Personal View [4が、それぞれLancet Neurologyに掲載されました。

パーキンソン病の生物学的分類について提唱1:NSD-ISS

LancetNeurol-2024-Biological-Criteria-of-PD-title1

Position peperは、Simuni, Chahine, Marek etc.から提唱された、「 neuronal α-synuclein disease integurated staging system:NSD-ISS」。

若くしてPDを発症した俳優のMichael J Foxさんが設立したMichael J Fox財団が後援となり、ワークショップで構成を練ってきたそうです。

NSD-ISSでは、神経にα-synがたまる病理を「Neuronal α-synuclein (n-αsyn) 」とし、それらを特徴とする疾患、PDやDLBを「Neuronal α-synuclein disease」と定義しました。

そして、

  • S:neuronal α-syn がある(S+)かない(S-)か
    • CSF中のα-syn増幅で判断
  • D:ドパミン(Dopamin)神経変性の変性がある(D+)かない(D-)か
    • DATスキャンで判断
  • G:パーキンソン病に関係のある遺伝子変異(Genetics)がある(G+)かない(G-)か
    • SNCA遺伝子のみ対象

を元にPD/DLBを分類しようというものです。

PD/DLBの臨床症状がなく、α-synバイオマーカーも陰性、ドパミン神経変性もまだない……けれども家族性PDのSNCA遺伝子変異を持っていて、将来PDになることが確実な段階を「Stage 0」、

PD/DLBの臨床症状がなく、α-synバイオマーカーが陽性 and/or ドパミン神経変性が出てきている段階を、Stage 1とし、

PD/DLBの臨床症状がでたらStage 2以上になります。

α-syn(S) DA神経変性(D) PD/DLBの臨床症状 PD/DLBの症状による機能障害
遺伝子変異によるリスク
Ri 低リスク遺伝子バリアント なし なし なし なし
Rii 高リスク遺伝子バリアント なし なし なし なし
神経α-syn病(Neuronal α-synuclein disease のステージ
0 100%浸透率のSNCAバリアント(G+) S- D- なし なし
1A バイオマーカー陽性(α-synのみ)、臨床症状なし S+ D- なし なし
1B バイオマーカー陽性(α-synとDA神経変性)、臨床症状なし S+ D+ なし なし
2A α-synのバイオマーカー陽性、DA神経変性なし、軽度の非運動症状が出現 S+ D- RBD、認知機能障害、便秘、自律神経障害、鬱、不安障害 なし
2B α-synのバイオマーカー陽性、DA神経変性あり、軽度の非運動症状が出現 S+ D+ RBD、認知機能障害、便秘、自律神経障害、鬱、不安障害 なし
3 バイオマーカー陽性、臨床症状と極軽度の機能障害あり S+ D+ 運動症状と非運動症状 極僅か(日常生活への影響は極軽度)
4 バイオマーカー陽性、臨床症状と軽度の機能障害あり S+ D+ 運動症状と非運動症状 軽度(日常生活にはある程度支障あり)
5 バイオマーカー陽性、臨床症状と中等度の機能障害あり S+ D+ 運動症状と非運動症状 中等度(日常生活に中等度の支障あり)
6 バイオマーカー陽性、臨床症状と高度の機能障害あり S+ D+ 運動症状と非運動症状 高度(日常生活に高度の支障あり)

また、α-synのバイオマーカーは陰性で、α-syn関連の遺伝子変異もないけど、DA神経変性が起こっている(S-D+G-)場合は、多系統萎縮症など、他の疾患の位置づけになります。

NSD-ISSのフレームワーク

フレームワークはこんな感じ。

LancetNeurol-2024-Biological-Criteria-of-PD-1

NSD-ISSと臨床経過との関係

そして臨床経過としてはこんな感じ。

LancetNeurol-2024-Biological-Criteria-of-PD-2

 

重要なことは、この分類は、「研究のみ」に適応し、臨床の場ではいままでどおり臨床症状が出てからPD/DLB etc.と診断すると明記されていること。

あくまで、臨床研究や治験などで、早期患者を対象とするための枠組みという位置づけです。

パーキンソン病の生物学的分類について提唱2:SynNeurGe

LancetNeurol-2024-Biological-Criteria-of-PD-title2

もう一つのPaperは、Personal Viewで、Hoglinger, Adler, Gerg, Klein, Outeiro, Poewe, Postuma, Stoessl, Langらから提唱された、「SynNeurGe」。

そして、NSD-ISSと同じように、

  • S:α-synのバイオマーカーが陽性か陰性か
  • N:ドパミン神経(Neuron)変性の変性があるかないか
  • G:パーキンソン病に関係のある遺伝子変異(Genetics)があるかないか

での分類を提唱しています。

基本的な構成はNSD-ISSと同じ。

ただこちらは、これまでに世に出てきたバイオマーカー系もまとめており、それぞれの信頼性の個人的な評価を載せています。

PDタイプシヌクレイノパチーの研究用診断基準

状況 方法と評価 感度 特異度
S+ 承認 CSF中のα-syn増幅
S+ 承認 皮膚生検のα-syn増幅
S+ 承認 皮膚生検のα-syn免染
S+ 調査中 血漿中エクソソームのα-syn増幅 エビデンス不十分 エビデンス不十分
S+ 調査中 血漿or血清中のα-syn増幅 エビデンス不十分 エビデンス不十分
S+ 調査中 顎下腺生検のα-syn増幅 エビデンス不十分 エビデンス不十分
除外
項目
PDとMSAを
区別できない時
ニューロフィラメント軽鎖 MSA等では高 MSA等では高いが診断の根拠としては低
除外
項目
PDとMSAを
区別できない時
MSAのイメージング

PDに伴う神経変性の研究用診断基準

状況 方法と評価 解釈 感度 特異度
N+ 承認 ドパミンPET/SPECT 線条体に投射するDA神経変性
N+ 承認 FDG-PET PD関連脳代謝変化
N+ 承認 MIBGシンチ 心臓の交感神経変性 中-高
N+ 調査中 ニューロメラニンMRI 再現性の確認が必要 中-高
N+ 調査中 鉄感受性MRI 特定の機関のみで解析
神経変性を直接反映しないかも
中-高
N+ 調査中 SNcの自由水MRI 特定の機関のみで解析
神経変性を直接反映しないかも
黒質外側部で中-高
N+ 調査中 MRI T1形態解析 特定の機関のみで解析 中-高
N+ 調査中 マルチモダルMRI 特定の機関のみで解析 中-高
除外
項目
承認 MRIの形態解析 PSP,MSA,CBDの除外 中-高
除外
項目
承認 FDG-PET PSP,MSAの除外

PD関係遺伝子バリアントの研究用診断基準

状況 遺伝子バリアント 浸透率 遺伝性素因
GF+ 承認 SNCA単一遺伝子の3倍体 浸透率100% PDタイプシヌクレイノパチー
GF+ 承認 SNCA単一遺伝子1塩基バリアント 浸透率100% PDタイプシヌクレイノパチー
GF+ 承認 PRKN両アレルの病的バリアント 浸透率100% ~80%はα-synなし
20%はα-synありの神経変性
GF+ 承認 PINK1両アレルの病的バリアント 浸透率100% α-synありが1例
他はα-synなしの神経変性
GF+ 承認 PARK7の両荒れる病的バリアント 浸透率100% PDタイプシヌクレイノパチーが1例
GP+ 承認 SNCA単一遺伝子の2倍体 高浸透率 PDタイプのシヌクレイノパチー
GP+ 承認 LRRK2の単一(or両アレル)遺伝子の病的バリアント 高浸透率 ほとんどの症例でPDタイプのシヌクレイノパチー、一部α-synなしの神経変性
GP+ 承認 VPS35単一遺伝子病的バリアント 高浸透率 不詳
GP+ 承認 CHCHD2単一遺伝子病的バリアント 高浸透率 不詳
GP+ 承認 GBA1単一遺伝子病的バリアント 中-高浸透率 PDタイプのシヌクレイノパチー
G- 調査中 GCH1単一遺伝子病的バリアント 低浸透率 PDタイプのシヌクレイノパチー1例
G- 調査中 22q11.2欠失 低浸透率 1/3がPDタイプ
2/3がα-synなしのシヌクレイノパチー

バイオマーカーを元にした研究用診断基準

上記S/N/Gを組み合わせた研究用診断基準。

遺伝要因 α-syn 神経変性 生物学的定義
特発性疾患
G- S+ N+ 孤発性PD
G- S+ N- 孤発性PDタイプのシヌクレイノパチー
G- S- N+ PDじゃない神経変性
G- S- N- PDの根拠なし
遺伝性疾患
GF+ S+ or S- N+ or N- 遺伝性PD(eg.SNCAキャリアetc.)
GP+ S+ N+ 遺伝性PD(eg.GBA1キャリアetc.)
GP+ S+ N- 遺伝性PDタイプシヌクレイノパチー(eg.GBA1-PDタイプ)
GP+ S- N+ α-synの遺伝子陰性のPD(eg.LRRK2 or PRKNのキャリアetc.)
GP+ S- N+ PDじゃない神経変性疾患
GP+ S- N- PDの遺伝性要素あり(eg.PD要素のあるGBA1変異etc.)

My View

 NSD-ISSとSynNeurGeとの比較

2つのPaperはPosition Paper(NSD-ISS)とPersonal View(SynNeurGe)という違いがあり、一般的にはPosition Paperの方がトピックに関して多くの人達で話し合って意見をまとめた感じがあります。

けれども、Personal Viewの方もかなりの大御所達の名前が軒を連ねており、なんというか、「同じ意見だけれども自分たちの提唱した名前を使ったほうがいいよ」という意味のPosition Paperのような印象を受けました。

実際、NSD-ISSとSynNeurGeとの違いについて、SynNeurGeのペーパーの方で言及されており、

  • 自分たちがSynNeurGeをプレプリント版で発表したすぐ後に、Michael J Fox財団のグループから他の案(NSD-ISS)が提唱された。
  • NSD-ISSでは診断基準を
    • α-synはCSF中のα-syn増幅のみ
    • 神経変性はDAT scanのみ
    • 遺伝子変異はSNCAのみ
    にしているが、SynNeurGeはもっとたくさんの要素を盛り込んでいる。
  • NSD-ISSではステージングしているが、SynNeurGeではあえてしていない。

と、ちょっと挑発的な印象を受けるところも。。。

どちらのtermが浸透するかはわかりませんが、個人的には、とりあえず両方とも覚えておいて、あとは世界の動向を見ておく、という感じで良いような気がしました。

Prodromal PDを定義/区分することの意義

去年のAAICで、アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) の進行度を示すATN分類(A: amylid, T: tau, N: Neurodegeneration)の大幅改定案が発表されましたが、今回の提唱は、「ADにおけるATN分類のような進行度分類がPDでも必要だ」という動きなんじゃないかと思います。

実際ADもPDも、症状が顕在化する何年も前から脳に異常タンパクが溜まっているので、「早期発見・早期治療」をターゲットとした創薬開発や治験のためには、このような

症状を元にした進行度分類ではなく、バイオマーカー等を元にprodoromal stageから分類する

という動きは必然、という印象。

今、α-synのバイオマーカー研究も精力的に行われていて、今後確実に精度は上がってくるでしょうし、現時点でこのようなPDの進行度分類を提唱する価値は大いにあると思いました。

ただ個人的には、PDのバイオマーカーに関しては、「D or N」のDAT scanなどは良いですが、「S」のα-syn関係(CSF中α-syn増幅や皮膚生検など)は、まだADのAβ/タウのバイオマーカー程には精度が追いついていないようにも思いますので、今後の研究成果に期待したいです。

 

あと大切なのは、このようなprodromalなPD診断は、研究用のみに適応されるという事。

まだ根本的治療法がなく、早期発見・早期治療が必ずしも現実的でない時点では、PDを発症していないのに「あなたは何年後かにPDを発症しますよ。」という事のメリットはほぼありません。

もちろん、いつかprodromal PDの診断が臨床的にも役に立つ日が来る事を願って止まないのですが。。。

References

  1. Regoni M, Valtorta F, Sassone J. Dopaminergic neuronal death via necroptosis in Parkinson's disease: A review of the literature. Eur J Neurosci. 2023 Sep 5. doi: 10.1111/ejn.16136. Epub ahead of print. PMID: 37667848.
  2. Skrahina V, Gaber H, Vollstedt EJ, Förster TM, Usnich T, Curado F, Brüggemann N, Paul J, Bogdanovic X, Zülbahar S, Olmedillas M, Skobalj S, Ameziane N, Bauer P, Csoti I, Koleva-Alazeh N, Grittner U, Westenberger A, Kasten M, Beetz C, Klein C, Rolfs A; ROPAD Study Group. The Rostock International Parkinson's Disease (ROPAD) Study: Protocol and Initial Findings. Mov Disord. 2021 Apr;36(4):1005-1010. doi: 10.1002/mds.28416. Epub 2020 Dec 14. PMID: 33314351; PMCID: PMC8246975.
  3. Simuni T, Chahine LM, Poston K, Brumm M, Buracchio T, Campbell M, Chowdhury S, Coffey C, Concha-Marambio L, Dam T, DiBiaso P, Foroud T, Frasier M, Gochanour C, Jennings D, Kieburtz K, Kopil CM, Merchant K, Mollenhauer B, Montine T, Nudelman K, Pagano G, Seibyl J, Sherer T, Singleton A, Stephenson D, Stern M, Soto C, Tanner CM, Tolosa E, Weintraub D, Xiao Y, Siderowf A, Dunn B, Marek K. A biological definition of neuronal α-synuclein disease: towards an integrated staging system for research. Lancet Neurol. 2024 Feb;23(2):178-190. doi: 10.1016/S1474-4422(23)00405-2. PMID: 38267190.
  4. Höglinger GU, Adler CH, Berg D, Klein C, Outeiro TF, Poewe W, Postuma R, Stoessl AJ, Lang AE. A biological classification of Parkinson's disease: the SynNeurGe research diagnostic criteria. Lancet Neurol. 2024 Feb;23(2):191-204. doi: 10.1016/S1474-4422(23)00404-0. PMID: 38267191.
にほんブログ村 子育てブログ ワーキングマザー育児へ