SORL1欠失ニューロン

アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) では、

  • アミロイドβ (Amyloid beta, Aβ)の凝集・沈着
  • タウの細胞内凝集

が2大病理ですが、 細胞内病理の一つとして、エンドソームの膨張も特徴的だとか1

Aβに関しては、アミロイド前駆蛋白 (Amyloid precursor protein, APP) のトラフィッキングがAβ産生に影響しますが、 そ

のトラフィッキングに関与する蛋白にSORLA (sortilin-related receptor) があります。

 

先日、アメリカ・ワシントン大学のYoungらのグループから、このSORLAをコードする遺伝子SORL1を欠失させたiPS細胞からニューロンとミクログリアに分化させ、初期エンドソームの膨張を確認したという報告がありました2。  

SORL1欠失ニューロンでは初期エンドソームが膨らむ

著者らは、まずヒトのiPS細胞を、CRISPR-Cas9システムを使ってSORL1を欠失させ、ニューロンとミクログリアに分化させた。

すると、ニューロンでは初期エンドソームの膨張を認めたが、ミクログリアではそのような変化はなかった。

初期エンドソームの膨張
▲ 初期エンドソームの膨張 (Knupp et al., Cell Rep, 2020より)

エンドソームの膨張は、タンパクのトラフィッキング障害が原因の可能性を考え、

SORLAのカーゴタンパクの一つであるAPPの局在を確認した。

すると、SORL1欠失ニューロンでは、APPは初期エンドソームに増えており、

トランスゴルジネットワーク(trans-Golgi network, TGN) や後期エンドソームの局在は減少していた。

 

過去に、

  • APPの切断産物であるβ-CTFの毒性によりエンドソームの膨張がおこる
  • BACE阻害剤処置によってエンドソームの膨張が改善する

等の報告があるため、

著者らはSORL1欠失によって生じた初期エンドソームの膨張が、

BACE阻害剤で改善するかどうか確認した。

 

結果、BACE阻害剤によって野生型ニューロン/SORL1欠失ニューロン双方でAPPのβ切断産物(β-CTF、sAPPβ、Aβ40、Aβ42)が減少したが、

初期エンドソームの膨張は改善しなかった。

 

これらの結果から、SORL1欠失による初期エンドソームの膨張はAβ産生経路とは独立して起こっていると考えられた。

My View

SORL1は孤発性ADの関連遺伝子としてよく知られており、

現在までに約30ほどのAD関連SNPsが報告されています(OR 1.3-2.1くらい)3

 

家族性ADでの報告は聞きませんが、孤発性ADではSORLAの発現が低下している人も多いようです。  

 

SORLAは、I型タンパク質と結合するアダプター分子として働きます。

初期エンドソームあたりでAPPと結合し、レトロマー複合体が、APPをエンドソームからTGNへ輸送する際の仲介役となります。

SORLAの欠乏

APPがエンドソーム内で停滞

切断の機会が増える

Aβ産生が亢進

というのが、SORLA減少によるAD発症の主な機序と考えられています。

 

SORLAとAPPトラフィッキング
▲ APPトラフィッキングとSORLA(Eggert et al., Mol Neurobiol, 2018より一部改変)

 

今回、著者らは、同じiPS細胞から分化させたニューロンとミクログリアを使って、SORL1欠失の影響は主にニューロンで顕著だったことを示しました。

ミクログリアは貪食能やタンパク分解能が高いので、トラフィッキングの内容もニューロンとは色々違いそうです。

その違いの機序までは調べていないので不明ですが……そのうち明らかになるのかな。  

 

個人的に「?」だったのは、

「BACE阻害剤処置で初期エンドソームの膨張が改善しなかった」

という結果から、

「SORL1欠失による初期エンドソームの膨張はアミロイド産生経路とは関係なさそう」

と結論づけているところ。

 

勿論改善はしていないのですが、

実際のデータでは、SORL1-/- × BACE阻害剤処置により、逆に初期エンドソームの膨張が有意差をもって助長されているようです。

ここは無視せず追求するとよいように思うのですが……そのうち続報として発表する予定なのかな?

References

  1. Cataldo AM, Peterhoff CM, Troncoso JC, Gomez-Isla T, Hyman BT, Nixon RA. Endocytic pathway abnormalities precede amyloid beta deposition in sporadic Alzheimer's disease and Down syndrome: differential effects of APOE genotype and presenilin mutations. Am J Pathol. 2000;157(1):277-286. doi: 10.1016/s0002-9440(10)64538-5
  2. Knupp A, Mishra S, Martinez R, et al. Depletion of the AD Risk Gene SORL1 Selectively Impairs Neuronal Endosomal Traffic Independent of Amyloidogenic APP Processing. Cell Rep. 2020;31(9):107719. doi: 10.1016/j.celrep.2020.107719
  3. Rogaeva E, Meng Y, Lee JH, et al. The neuronal sortilin-related receptor SORL1 is genetically associated with Alzheimer disease. Nat Genet. 2007;39(2):168-177. doi: 10.1038/ng1943
  4. Eggert S, Thomas C, Kins S, Hermey G. Trafficking in Alzheimer's Disease: Modulation of APP Transport and Processing by the Transmembrane Proteins LRP1, SorLA, SorCS1c, Sortilin, and Calsyntenin. Mol Neurobiol. 2018;55(7):5809-5829. doi: 10.1007/s12035-017-0806-x