運動によって脳が健康になることはこれまでも何回か取り上げてきました [1, 2, 3, 4]
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もちろん、脳だけでなく、体全体を張り巡らしている「血管」自体の健康も促す事は周知の事だと思います。
今回、アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の Dr. Hsial らのグループは、
「運動をすると、血管内皮から発現したstearoyl-CoA desaturase 1 (SCD1) の活性が亢進し、抗炎症性脂質代謝物を触媒して血管を健康に保つ」
という事を報告しました [5] 。
運動により、血管が健康になるメカニズム
Exercise mitigates atherogenic blood flow and activates metabolic transducer SCD1 to catalyze anti-inflammatory metabolites.
脈動的シェアストレスは、SCD1の活性亢進を促す
彼らはまず、ヒト大動脈の内皮細胞(human aortic endothelial cells, HAEDs)を使用して、シェアストレスによる内皮動脈のプロファイル変化を調べました。
すると、脈動的シェアストレス(pulsatile shear stress, PSS)がかかると、内皮細胞からSOD1の発現が亢進し、無流量時の2倍、振動的シェアストレス(Oscillatory shear stress, OSS`)の1.3倍の量のオレイン酸(oleic acid, OA)の増加を認めました。
また、グルコース-6-リン酸やフルクトース-6-リン酸を含む糖解代謝物の生産も増加しました。
これらのリポイド代謝物はSCD1によって触媒するため、PSSによるSCD1活性が亢進している可能性が示唆されました。
運動によるシェアストレスが大動脈弓の再循環を軽減する
次に彼らは、in silico 解析でマウスの大動脈のシェアストレスを計測し、運動あり/なしで比較しました。
結果、運動によるPSSの増加は、大動脈弓の時間平均壁シェアストレスを増加させ、再縦貫が軽減させるようでした。
運動によって脂質代謝産物が増加する
彼らは、C57Bl/6Jマウスを、トレッドミルを設置したケージに24時間入れ、自然に運動を捺せました。
その後血漿中の代謝産物を解析したところ、抗炎症性脂質代謝物のオレイン酸(oleic acid, OA)やパルミトレイン酸(palmitoleic acid, PA)等の量が増加していました。
運動によってSCD1の発現が亢進する
OAもPAも、SCD1によって触媒されるので、彼らは運動によってSCD1の発現が上がっているか確認しました。
結果、自然運動をしたマウスの大動脈ではScd1の発現がmRNAレベルでもタンパクレベルでも亢進していました。
この現象は、内皮細胞依存的にScd1をノックアウトしたマウス(Scd1EC-/p)では起こらなかったため、
「運動で内皮細胞からSCD1の発現が更新し、OAやPAの量を増やす」
という可能性が示唆されました。
運動によって増えたOAは、内皮細胞の炎症物質の発現を抑える
最後に彼らは、運動によって発現量が上がったSCD1や、それにより増えた脂質代謝物が、血管に対してどのような影響を及ぼすのか、HAEDsを使って調べました。
単相のHAEDsに、リポポリサッカライド(lipopolysaccharide, LPS)とOAを同時処置しました。
LPS処置により、血管炎症物質のVcam1とIcam1の発現が亢進しますが、OA処置によりその量は抑えられました。
またこの現象は、SCD1を過剰発現した系でも確認され、SCD1過剰発現で、様々な炎症物質の発現が抑制されました。
まとめ
以上の結果から、
- 運動によるシェアストレスにより、大動脈の血管内皮でSCD1の発現が亢進する
- SCD1は抗炎症脂質代謝物の量を増やし、抗炎症作用を発揮する
という事がわかり、
「運動によって血管炎症が抑えられ、血管の健康が保たれる」
可能性が示唆されました。
My View
「人は血管とともに老いる」と言いますが、血管の健康を保つ事は、健康で長生きすることに直結すると考えられています。
そして、バランスのとれた食事と適度な運動は、血管の健康を維持するのに必要不可欠だと思います。
もちろん、激しく運動しすぎると活性酸素などで血管を傷つけてしまうと思いますが、
適度な運動は、血流によるシェアストレスで抗炎症物質が増え、血管を守ってくれるのだと思います。
この事を頭に入れながら、定期的な運動のモチベーションにしたいところです。
References
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