老化細胞とGLS1

このブログでも何度か取り上げましたが、

老化細胞(senescent cells)の除去(senolysis)は、アンチエイジングだけでなく、加齢に伴う様々な疾患の予防・治療ターゲットとして注目されています [1, 2]

今回、東京大学の中西先生達の研究グループは、老化細胞の生命維持に関わる遺伝子、glutaminase 1 (GLS1) を同定し、その阻害薬で老化細胞が死滅し、体の組織が健康になる事を報告しました [3]

GLS1を抑制すると老化細胞が死滅し、体が健康になる

彼らはまず、nutlin3aでp53を活性化し、老化が促進された細胞株 (hHCA2) を作成した。

hHCA2では、p15, CD26, IL-6, IL-8, senescence-associated β-galactosidase等の senescent マーカーの発現が上昇していた。

 

この老化細胞の生存に関わる遺伝子を調べるため、shRNA でスクリーニングを行ったところ、GLS1 が老化細胞の生命維持に関与することを突き止めた。

老化細胞の細胞内 pHは、リソソーム膜の障害により酸性に傾いていたが、これにより、GLS1 アイソフォームの1つである kidney-type glutaminase (KGA) の発現上昇が誘導された。

また、人の皮膚でも、加齢と KGA 発現上昇に正の相関があった。

 

老化細胞内の GLS1 を阻害すると、細胞内 pH が低下し、細胞死が誘導された。

この細胞死は、メディウムの pHを上げたり、アンモニアを添加することで抑制された。

 

以前から、GLS1 はグルタミンをグルタミン酸へ変換する過程でアンモニアを産生することが知られていたが、

今回の結果から、

老化細胞でリソソーム膜の障害
   ↓
細胞内のpH が低下
   ↓
GLS1の発現上昇
   ↓
アンモニア産生
   ↓
細胞内pHの維持

というメカニズムが考えられた。

 

最後に、老齢マウスに GLS1 阻害剤を投与したところ、様々な臓器・組織において老化細胞が減少し、

腎臓の糸球体硬化、肺線維症、肝炎症細胞浸潤 etc. 加齢に伴う様々な病態が改善した。

References

  1. Baker, D., Childs, B., Durik, M. et al. Naturally occurring p16Ink4a-positive cells shorten healthy lifespan. Nature 530, 184–189 (2016). https://doi.org/10.1038/nature16932
  2. Bussian TJ, Aziz A, Meyer CF, Swenson BL, van Deursen JM, Baker DJ. Clearance of senescent glial cells prevents tau-dependent pathology and cognitive decline. Nature. 2018 Oct;562(7728):578-582. doi: 10.1038/s41586-018-0543-y. Epub 2018 Sep 19. PMID:30232451; PMCID: PMC6206507.
  3. Johmura Y, Yamanaka T, Omori S, Wang TW, Sugiura Y, Matsumoto M, Suzuki N, Kumamoto S, Yamaguchi K, Hatakeyama S, Takami T, Yamaguchi R, Shimizu E, Ikeda K, Okahashi N, Mikawa R, Suematsu M, Arita M, Sugimoto M, Nakayama KI, Furukawa Y, Imoto S, Nakanishi M. Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders. Science. 2021 Jan 15;371(6526):265-270. doi: 10.1126/science.abb5916. PMID:33446552.
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