Noncanonical transnitrosylation network contributes to synapse loss in AD

過剰な一酸化窒素(nitric oxide, NO) は、神経障害をきたし、アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) やパーキンソン病 (Parkinson's disease, PD) 等、神経変性疾患の病態に関与すると言われています [1, 2, 3]

特に、Drp1のS-ニトロシル化 (SNO) は、ミトコンドリアの分裂を促進し、シナプス障害をきたしますが、

ADでは、多くの症例でシナプス障害が起こっている事から [4]

アメリカ・Scipps研究所のDr. Nakamura, Dr. Lipton らの研究グループは、ADにおけるタンパクのSNO化とシナプス障害について調べ、報告しました [5]。 

Noncanonical transnitrosylation network contributes to synapse loss in AD

Uch-L1 → Cdk5 → Drp1 のトランスニトロシル化が、ADのシナプス障害に関与する

彼らはまず、ADのシナプス障害に関連が深い、Drp1 [6] と Cdk5 [7] のSNO化の上流を検索し、ビオチンスイッチ法や質量分析法で、脱ユビキチン酵素の Uch-L1のSNO化を同定した。

AD患者脳やhAPPトランスジェニックマウス (J20) の脳内では、SNO-Uch-L1の量が上昇していた。

質量分析で、Uch-L1のCys152がSNO化部位として同定された。

 

ラットの初代培養ニューロンに、アミロイドβ (Amyloid beta 1-42, Aβ42) オリゴマーを処置すると、樹状突起のシナプス密度が減少したが、Uch-L1のC152S変異でSNO化が起こらないようにすると、このシナプス障害が抑制された。

野生型 (WT)、J20マウスの脳内に、野生型のUchL1、C152SのUch-L1をレンチウイルスで過剰発現させると、

J20で生じていたシナプス障害が、Uch-L1過剰発現で若干改善し、Uch-L1 (C152S) でさらに改善した。

この事から、Uch-L1は、従来の脱ユビキチン化酵素の働きとしてだけでなく、 152Cysのニトロシル化を介して何らかのメカニズムでシナプス障害に関与している可能性が示唆された。

 

さらに、

  • SNO-Uch-L1
  • SNO-Cdk5
  • SNO-Drp1

をそれぞれ独立して検証したところ、

SNO-Uch-L1
   ↓
SNO-Cdk5
   ↓
SNO-Drp1

と、トランスニトロシル化している事がわかったが、

逆(SNO-Cdk5 → SNO-Uch-L1 や、SNO-Drp1 → SNO-Cdk5)は起こらなかった。

 

実際のAD患者脳でも、SNO-Uch-L1が上昇していた。

以上の結果から、

AD患者脳では、

Aβオリゴマー
   ↓
Uch-L1のSNO化
   ↓
Cdk5のSNO化
   ↓
Drp1のSNO化
   ↓
シナプス障害

という流れで、シナプス障害を生じている可能性が示唆された。

My View

最近は AD と翻訳後修飾の話がよく出てきますが、今回はAβオリゴマーがシナプス障害を誘導するメカニズムに、Uch-L1 → Cdk5 → Drp1 のトランスニトロシル化が関与している、というお話。

最後の Cdk5 → Drp1 の トランスニトロシル化はミトコンドリアの分裂を促すと報告されているので、これがシナプス障害に関与しているのではないか、と著者らは考察しています。

 

今回の結果は、ニトロシル化の阻害薬が AD治療ターゲットとして有望である可能性を示唆しています(副作用は置いといて)。

また、

  • 脱ユビキチン酵素 (Uch-L1)
  • リン酸化酵素 (Cdk5)
  • GTPase (Drp1)

が、それぞれのcanonical な機能とは別に、連携してシナプス障害に関与する、という考えも面白いと思いました。

 

不思議なのは、Uch-L1 → Cdk5 → Drp1 のトランスニトロシル化は起こっても、逆はない、という事。

私の中では、近接した2つの残基間で NO が受け渡されていくようなイメージなので、逆の流れもありそうに思うのですが……そこにはただの受動的な流れではなくて、何らかの能動的な力がかかっている、という事なのでしょうか?

このあたりに詳しい人がこの記事を読んでいたら、是非メカニズムを教えてほしいです。

 

質量分析の結果からは、これら以外にもトランスニトロシル化タンパクがたくさんありそうなので、それらの機能も今後解析されていくのかもしれません。

……楽しみです。

Glossary

一酸化炭素(nitric oxide, NO)

一酸化窒素(NO)は、アルギニンからNO合成酵素(NOS)の作用によって産生される、ラジカル分子 [8]

生体内では、記憶形成や血管拡張など、様々な生理機能を担っている。

NO刺激に伴うタンパク修飾には、

  1. チロシン残基へのニトロ化
  2. ヘム鉄へのニトロシル化
  3. システイン残基チオール部位へのニトロシル化
  4. cGMPのニトロ化体を介したタンパクシステイン残基への修飾(S-グアニル化)

などが知られている。

ニトロシル化とトランスニトロシル化

チオール基(R-SH)や遷移金属などにNOが配位する反応を、ニトロシル化と呼ぶ [9]

  • ニトロシル化 (nitrosylation)
  • ニトロソ化 (nitrosation)
  • SNO化

は、全て同じ意味。

タンパク質分子間でニトロシル基転移する事を「トランスニトロシル化」と呼ぶ。

ちなみに、ニトロ基 (NO2) が配位するニトロ化 (nitration) とは異なる修飾反応のため、区別が必要。

ビオチンスイッチ法

SNO化タンパク質を効率よく検出する方法 [10]

アスコルビン酸で処理することにより、―SNO基を―SH基に還元し、この部位を特異的にビオチン化する。

ビオチン化したSNO化タンパクは、ストレプトアビジンー樹脂へ吸着させて回収したり、

そのまま HRP/蛍光色素などで解析したりできる。

References

  1. Choi MS, Nakamura T, Cho SJ, Han X, Holland EA, Qu J, Petsko GA, Yates JR 3rd, Liddington RC, Lipton SA. Transnitrosylation from DJ-1 to PTEN attenuates neuronal cell death in parkinson's disease models. J Neurosci. 2014 Nov 5;34(45):15123-31. doi: 10.1523/JNEUROSCI.4751-13.2014. PMID:25378175; PMCID: PMC4220036.
  2. Nakamura T, Wang L, Wong CC, Scott FL, Eckelman BP, Han X, Tzitzilonis C, Meng F, Gu Z, Holland EA, Clemente AT, Okamoto S, Salvesen GS, Riek R, Yates JR 3rd, Lipton SA. Transnitrosylation of XIAP regulates caspase-dependent neuronal cell death. Mol Cell. 2010 Jul 30;39(2):184-95. doi: 10.1016/j.molcel.2010.07.002. PMID:20670888; PMCID: PMC2924818.
  3. Hara, M., Agrawal, N., Kim, S. et al. S-nitrosylated GAPDH initiates apoptotic cell death by nuclear translocation following Siah1 binding. Nat Cell Biol 7, 665–674 (2005). https://doi.org/10.1038/ncb1268
  4. Terry RD, Masliah E, Salmon DP, Butters N, DeTeresa R, Hill R, Hansen LA, Katzman R. Physical basis of cognitive alterations in Alzheimer's disease: synapse loss is the major correlate of cognitive impairment. Ann Neurol. 1991 Oct;30(4):572-80. doi: 10.1002/ana.410300410. PMID:1789684.
  5. Nakamura T, Oh CK, Liao L, Zhang X, Lopez KM, Gibbs D, Deal AK, Scott HR, Spencer B, Masliah E, Rissman RA, Yates JR 3rd, Lipton SA. Noncanonical transnitrosylation network contributes to synapse loss in Alzheimer's disease. Science. 2021 Jan 15;371(6526):eaaw0843. doi: 10.1126/science.aaw0843. Epub 2020 Dec 3. PMID:33273062.
  6. Qu J, Nakamura T, Cao G, Holland EA, McKercher SR, Lipton SA. S-Nitrosylation activates Cdk5 and contributes to synaptic spine loss induced by beta-amyloid peptide. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Aug 23;108(34):14330-5. doi: 10.1073/pnas.1105172108. Epub 2011 Aug 15. PMID:21844361; PMCID: PMC3161554.
  7. Cho DH, Nakamura T, Fang J, Cieplak P, Godzik A, Gu Z, Lipton SA. S-nitrosylation of Drp1 mediates beta-amyloid-related mitochondrial fission and neuronal injury. Science. 2009 Apr 3;324(5923):102-5. doi: 10.1126/science.1171091. PMID:19342591; PMCID: PMC2823371.
  8. http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/06/85-01-05.pdf
  9. https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/1096.html
  10. https://www.dojindo.co.jp/technical/pdf/sb17.pdf
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