米シカゴのRush大学のChu, Kordower et al., は、パーキンソン病(Parkinson's disease, PD)の患者で、AAV2-neurturin (CERE120) の遺伝子治療後8-10年で死亡した検体を病理解析した。
ニューチュリン遺伝子治療後のPD脳の病理
CERE120は、1例は両側被殻に接種され(術後10年)、もう1例は両側被殻と両側黒質緻密部に接種されていた(術後8年)。
いずれの患者も、少なくはあるが、被殻の約3-12%の細胞でneurturinが持続的に発現していた。
黒質緻密部では、neuturinの発現はそれぞれ、9.8-18.95%、22.02-39%だった。
黒質に直接neurtrinを接種した患者の黒質で、neurturinが発現しているメラニン含有細胞は、tyrosine hydroxylase (TH) とRET protooncogeneを強く発現してした。
Lewy病理は、コントロールのPD患者と違いはなく、neurturin、RET、THが発現している細胞にもα-シヌクレイン (α-Syn) の凝集体が確認された。
これら病理変化は抗PD薬による症状改善と相関はなかったが、これはneurtrinの発現が弱いためと考えられた。
We performed post-mortem studies on two patients with advanced Parkinson's disease 8 and10 years following AAV2-neurturin (CERE120) gene therapy, the longest post-mortem trophic factor gene therapy cases reported to date. CERE120 was delivered to the putamen bilaterally in one case (10 years post-su …
My View
神経変性疾患の治療戦略は色々。
原因を取り除く事に注目するのも一つの方法ですが、神経細胞側を元気にさせて病気に抵抗しようとするのも戦略の一つ。
今回はあまり目立った治療効果はなかったようですが、neurturinが発現している細胞では、α-Syn病理はできるものの、メラニン/TH/RETの発現は高かったようなので、もっとneurturinの発現量を高く維持できれば、症状緩和につながるかも……と期待を残す結果となりました。
でも、AAV2ベクターって、10年も持続的に発現できるんだなー。
Glossary
ニューチュリン(neurturin)
グリア由来の神経栄養因子(glial cell-line derived neurotrophic factor, GDNF)の一つ。
Transforming growth factor beta (TGFβ)ファミリーに属し、脳内の神経の発生や成長に関与する。
神経変性疾患において、特にパーキンソン病で神経保護作用をターゲットとして、治療法開発の可能性が期待されている。
RET(RET photo-oncogene)
GDNFファミリーのチロシンキナーゼ受容体をコードする。
RET欠損はヒルシュスプルング病(Hirschsprung's disease)と関連する。
また変異は甲状腺癌、多発性内分泌腫瘍症2型(multiple endocrine neoplasia type 2, MEN2)と関連する。
References
- Chu et al., Brain. 2020 Mar 1;143(3):960-975. doi: 10.1093/brain/awaa020.
- Widenfalk J et al., J Neurosci. 1997;17(21):8506–8519. doi: 10.1523/JNEUROSCI.17-21-08506.1997
- Golden JP et al., Experimental Neurology. 158 (2): 504–28. doi: 10.1006/exnr.1999.7127
- Evans JR and Barker RA. Neurotrophic factors as a therapeutic target for Parkinson's disease. Expert Opin Ther Targets. 2008;12(4):437–447. doi: 10.1517/14728222.12.4.437
- Mason I, Pharm Acta Helv. 2000 Mar;74(2-3):261-4.
- Jhiang, S. The RET proto-oncogene in human cancers. Oncogene 19, 5590–5597 (2000). doi: 10.1038/sj.onc.1203857