nature-2020-postnatal breaghing

お母さんのお腹の中では、赤ちゃんは呼吸をしていませんが、

この世に出てきた瞬間に、「おぎゃー」と泣いて呼吸を開始することになります。

アメリカ・ヴァージニア大学の Dr Bayliss らの研究グループは、このメカニズムの鍵となる神経核および神経伝達物質について調べました。

赤ちゃんが生まれた瞬間に呼吸を開始するメカニズム

著者らは、橋から延髄にかけて存在する神経核で、呼吸調節を担っている、後台形核 (retrotrapezoid nucleus, RTN) に注目しました。

この RTN にあるニューロンの pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide (PACAP) をマウスで欠損させると、仔マウスの無呼吸が増え、二酸化炭素 (CO2) 濃度が上昇しました。

この現象は、PACAP の補充で改善しました。

また、RTN の投射先の pre-Bötzinger complex にあるPACAP受容体 (PAC1) を欠損させても、PACAP 欠損と同様に生後無呼吸の症状が出現しました。

 

野生型マウスの RTN の PACAP 発現量は、生後外気にさらされると急激に上昇し、呼吸を開始しますが、

PACAP 欠損マウスではこの機能が不全となり、特に外気温に曝された時に無呼吸の症状が出現しました。

My View

以上の結果は、赤ちゃんがこの世に生まれてすぐに呼吸を開始するメカニズムに、RTN 由来の PACAP と pre-Bötzinger complex の PAC1 が深く関与している可能性を示唆しています。

 

また、元気な赤ちゃんが原因がよくわからないまま突然亡くなってしまう、乳幼児突然死症候群 (Sudden Infant Death Syndrome, SIDS) の症例の中にも、

PACAP の発現上昇が弱かったり、PCA1 の機能が悪かったり……

といった事が原因になっている可能性も考えられます。

この研究をきっかけに SIDS の原因解明が進み、少しでも多くの赤ちゃんが助かるようになったらいいな、と思いました。

Reference

  1. Shi Y, Stornetta DS, Reklow RJ, Sahu A, Wabara Y, Nguyen A, Li K, Zhang Y, Perez-Reyes E, Ross RA, Lowell BB, Stornetta RL, Funk GD, Guyenet PG, Bayliss DA. A brainstem peptide system activated at birth protects postnatal breathing. Nature. 2020 Dec 2. doi: 10.1038/s41586-020-2991-4. Epub ahead of print. PMID: 33268898.