アルツハイマー病 (Alzheimer's disease, AD) では、
- アミロイドβ (Amyloid beta, Aβ)の凝集・沈着
- タウの細胞内凝集
が2大病理ですが、 細胞内病理の一つとして、エンドソームの膨張も特徴的だとか1。
Aβに関しては、アミロイド前駆蛋白 (Amyloid precursor protein, APP) のトラフィッキングがAβ産生に影響しますが、 そ
のトラフィッキングに関与する蛋白にSORLA (sortilin-related receptor) があります。
先日、アメリカ・ワシントン大学のYoungらのグループから、このSORLAをコードする遺伝子SORL1を欠失させたiPS細胞からニューロンとミクログリアに分化させ、初期エンドソームの膨張を確認したという報告がありました2。
SORL1/SORLA is a sorting receptor involved in retromer-related endosomal traffic and an Alzheimer's disease (AD) risk gene. Using CRISPR-Cas9, we deplete SORL1 in hiPSCs to ask if loss of SORL1 contributes to AD pathogenesis by endosome dysfunction. SORL1-deficient hiPSC neurons show early endosome …
SORL1欠失ニューロンでは初期エンドソームが膨らむ
著者らは、まずヒトのiPS細胞を、CRISPR-Cas9システムを使ってSORL1を欠失させ、ニューロンとミクログリアに分化させた。
すると、ニューロンでは初期エンドソームの膨張を認めたが、ミクログリアではそのような変化はなかった。
エンドソームの膨張は、タンパクのトラフィッキング障害が原因の可能性を考え、
SORLAのカーゴタンパクの一つであるAPPの局在を確認した。
すると、SORL1欠失ニューロンでは、APPは初期エンドソームに増えており、
トランスゴルジネットワーク(trans-Golgi network, TGN) や後期エンドソームの局在は減少していた。
過去に、
- APPの切断産物であるβ-CTFの毒性によりエンドソームの膨張がおこる
- BACE阻害剤処置によってエンドソームの膨張が改善する
等の報告があるため、
著者らはSORL1欠失によって生じた初期エンドソームの膨張が、
BACE阻害剤で改善するかどうか確認した。
結果、BACE阻害剤によって野生型ニューロン/SORL1欠失ニューロン双方でAPPのβ切断産物(β-CTF、sAPPβ、Aβ40、Aβ42)が減少したが、
初期エンドソームの膨張は改善しなかった。
これらの結果から、SORL1欠失による初期エンドソームの膨張はAβ産生経路とは独立して起こっていると考えられた。
My View
SORL1は孤発性ADの関連遺伝子としてよく知られており、
現在までに約30ほどのAD関連SNPsが報告されています(OR 1.3-2.1くらい)3。
家族性ADでの報告は聞きませんが、孤発性ADではSORLAの発現が低下している人も多いようです。
SORLAは、I型タンパク質と結合するアダプター分子として働きます。
初期エンドソームあたりでAPPと結合し、レトロマー複合体が、APPをエンドソームからTGNへ輸送する際の仲介役となります。
SORLAの欠乏
↓
APPがエンドソーム内で停滞
↓
切断の機会が増える
↓
Aβ産生が亢進
というのが、SORLA減少によるAD発症の主な機序と考えられています。
今回、著者らは、同じiPS細胞から分化させたニューロンとミクログリアを使って、SORL1欠失の影響は主にニューロンで顕著だったことを示しました。
ミクログリアは貪食能やタンパク分解能が高いので、トラフィッキングの内容もニューロンとは色々違いそうです。
その違いの機序までは調べていないので不明ですが……そのうち明らかになるのかな。
個人的に「?」だったのは、
「BACE阻害剤処置で初期エンドソームの膨張が改善しなかった」
という結果から、
「SORL1欠失による初期エンドソームの膨張はアミロイド産生経路とは関係なさそう」
と結論づけているところ。
勿論改善はしていないのですが、
実際のデータでは、SORL1-/- × BACE阻害剤処置により、逆に初期エンドソームの膨張が有意差をもって助長されているようです。
ここは無視せず追求するとよいように思うのですが……そのうち続報として発表する予定なのかな?
References
- Cataldo AM, Peterhoff CM, Troncoso JC, Gomez-Isla T, Hyman BT, Nixon RA. Endocytic pathway abnormalities precede amyloid beta deposition in sporadic Alzheimer's disease and Down syndrome: differential effects of APOE genotype and presenilin mutations. Am J Pathol. 2000;157(1):277-286. doi: 10.1016/s0002-9440(10)64538-5
- Knupp A, Mishra S, Martinez R, et al. Depletion of the AD Risk Gene SORL1 Selectively Impairs Neuronal Endosomal Traffic Independent of Amyloidogenic APP Processing. Cell Rep. 2020;31(9):107719. doi: 10.1016/j.celrep.2020.107719
- Rogaeva E, Meng Y, Lee JH, et al. The neuronal sortilin-related receptor SORL1 is genetically associated with Alzheimer disease. Nat Genet. 2007;39(2):168-177. doi: 10.1038/ng1943
- Eggert S, Thomas C, Kins S, Hermey G. Trafficking in Alzheimer's Disease: Modulation of APP Transport and Processing by the Transmembrane Proteins LRP1, SorLA, SorCS1c, Sortilin, and Calsyntenin. Mol Neurobiol. 2018;55(7):5809-5829. doi: 10.1007/s12035-017-0806-x