カプチーノ

先日の仕事中、失望する出来事があり、実験途中で涙を抑えられなくなりました。

こちらに来てからの辛い出来事などが次々と思い出され、それでもここに来ることには価値があったと思い込みたかったのですが、それも難しいように感じました。

 

しばらくトイレで一人泣いていると、同僚の一人からショートメールが届きました。

「いまどこにいる?6階に来れる?」

ひとしきり泣いた後だったので、

「今から行くよ。」

と返事して、顔を洗い、6階に向かいました。

エレベーターを降りると、いつも話を聞いてくれる友達が2人で待ってくれていました。

誰も使っていない部屋に入り、3人で話をしました。

 

1人は以前からここに勤務している6歳年上のインド人で、もう1人は私の後から入ってきた8歳年下のアメリカ人です。

2人とも親身になって話をきいてくれて、それぞれのバックグラウンドから色々な意見をもらいました。

 

インド人の同僚からは、

「ここにきたポスドク達は、みんな最初の1,2年は辛い思いをして過ごしている。ここのシステムに慣れてくるようになると、物事がうまく回り出すから、大丈夫だよ。」

と、いつものように励ましてくれました。

アメリカ人の同僚からは、

「今起こっている事態を変えようとするのは大抵難しいから、そんなとき私は、現状をただ受け入れようと考えるようにしている。」

と言われました。

 

その言葉を聞きながら、

「(先日、夫の心理状態について考えましたが、)ああ、やっぱり私も、今かなり視野が狭くなっているな。」

と感じました。

こちらにきてから、不安がる子供達のサポートが十分にできなかった事、家庭内の事、仕事の事、その他の事、色々な負荷が、今の私にとってはtoo muchになっていて、一つ一つの出来事にうまく対処できなくなっているように思います。

毎晩、焦る気持ちのまま就寝し、翌朝、冴えない気持ちで目を覚ます、という毎日が続いているように感じています。

 

以前、たまたま日本からこちらの施設を見学にきた研究者の人と話をした時、

「留学すると、こっちの人達も意外と大したことやっていないな、っていう事に気づくよ。」

と言われた事を思い出しました。

 

まずは過剰に期待するのをやめて、様々な事態を受け入れ、自分にできる事を一つ一つこなしていくようにしようと、再度自分に言い聞かせました。

Life is not fair; get used to it.
— Bill Gates (1955- )
人生は公平ではない。そのことに慣れよう。
Don't spend time beating on a wall, hoping to transform it into a door.
— Coco Chanel (1883-1971)
そのうち扉に変わるだろうと期待しながら壁を叩き続けるようなことに時間を費やしてはいけない。
We can't solve problems by using the same kind of thinking we used when we created them.
— Albert Einstein (1879-1955)
問題を起こしたときと同じような考え方では、その問題は解決できない。

その日は私の個人ミーティングの予定があり、開始時間が迫っていました。

 

アメリカ人の同僚が、

「ミーティングが終わったら飲めるように、コーヒーを買っておいてあげる。」

と言ってくれました。

「いつもブラックだよね?信じられないけど!今日はミルク入れる?どれくらい?何%?砂糖は?」

と細かく質問され、私はふと思い出しました。

そういえば、私はカプチーノが好きで、自分の時間があったときにはよくひとりでカプチーノを飲んでいました。

今は、目を覚ましたり、集中したり、空腹を満たしたりするためだけにコーヒーを飲んでいて、飲むこと自体を楽しんではいませんでした。

 

「そういえば、私はカプチーノが好きだった事を思い出したわ。」

と答えると、

「OK!カプチーノね!それだったらミルクの量を調整しなくて済むから簡単だわ。」

と返してくれました。

 

個人ミーティングが終わって実験室の外にでると、ドリンク置き場にカプチーノが置いてありました。

カプチーノ

少し冷えたカプチーノを口に含むと、その香りと味が胸の奥に染み渡っていくように感じました。

 

翌日、

「昨日のカプチーノは今まで飲んだ中で一番おいしかったから、よければカップにサインをもらえないかな?」

と彼女に頼みました。

彼女は

「大げさでしょ。」

と笑いながら、カップにメッセージとサインを書いてくれました。

 

机の上の宝物が一つ増えました。

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