ビデオコール
断書

本記事は、少し前、私の身近な人が他界する前後に書き溜めていたものです。

遺族の許可を得て投稿しておりますが、ここに書かれていることはすべて私の主観を元に書かれている点をご了承ください。

 

Co-PIが病院で治療を受け、リハ転院なども検討されていた矢先、彼が感染症を併発し、容態が芳しくないという連絡を受けました。

ラボの人たちは、毎日彼の容態を心配し、少しでも情報があればお互い共有しあいました。

 

そんなある日、ラボマネージャーから1通のアナウンスメールが届きました。

彼のprognosisはあまりよくないので、PIがみんなの声を届けるためにビデオコールを設定したいと言っている。みんな、この日は時間前から待機するように。

ラボは騒然としました。

お別れの挨拶ってこと?それとも元気づけるためってこと?

 

その数日後に、別の人からメールが届き、

今、彼の状態は安定してきたらしい。明日のビデオコールは "さよなら" じゃなくて、ちょっと立ち寄って "様子はどう?" って軽く立ち寄って話をするためのコールだ。

と伝えられました。

みんなと同じく、私も一安心して、翌日のビデオコールを待ちました。

 

 

ビデオコール当日、PIから私と夫にメールが届きました。

今日のビデオコールは、個人的に是非二人に参加してほしいと思っているので、必ず時間をとってほしい。

私も夫も必ず参加すると返信しました。

 

するとその直後、今度は

そしてあなたには、彼を元気づける言葉を一言お願いしたい。ビデオコールの途中であなたの名前を呼ぶから、1分で話せる内容を考えておいて。

と言われました。

 

私は、何を話せば最も彼を元気づけられるか考えました。

彼と過ごした日々を思い出しましたが、彼が入院する少し前に、京都の福寿園から緑茶を注文していた事を思い出しました。

彼にその事伝えた時、

「おー、ありがとう。楽しみにしているよ。僕は日本の緑茶が一番好きなんだ。」

と嬉しそうに目を細めていました。

 

私は、緑茶はもうすぐ届くから、それまでに良くなって、皆で美味しいお茶を味わおう、ということにしました。

 



 

そしてビデオコールが始まりました。

このコールには、私達ラボメンバーや卒業生、大学内で関係の深い人達の他、アメリカ全土、イギリス、中国、日本……と、世界中の名だたる研究者や彼の友達が参加し、総勢150人以上が画面を共有することになりました。

こんなにも多くの人達が、彼のために集まり、祈り、やはり彼は偉大な人だと思いました。

 

画面の向こうには、集中治療室で呼吸器の補助を受けているCo-PIと、その隣でPPEを纏って看護しているPIの姿がありました。

始めにPIが現状を説明し、その後、指定された人たちからのコメントが始まりました。

皆、Co-PIが如何に偉大な研究者で、彼がいないとどんなに大きな喪失となるかを切々と語り、少しの思い出話をし、できるだけ早い回復を祈っている事を伝えていました。

私は、

――しまった、こんな時は彼の業績を称える事が優先すべき内容だったのか。

と焦りましたが、すぐにPIから名前を呼ばれてしまったので、結局緑茶の話をしました。

 

嬉しいことに、彼は意識があって私達の会話が聞こえており、皆の声掛けに頷いたり、わずかに手を上げて答えたりしていました。

 

 

ビデオコールの後、ラボのメンバー全員でビデオメッセージを贈ろう、という話になりました。

この時は制限時間はなかったので、私はもっと言葉を追加して、とにかく皆で祈っている事を伝えました。

 

……皆、毎日祈っていました。

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