Vacuolar tauopathy

valosin-containing protein (VCP) は、全ての真核生物と古細菌などに存在するATPaseで、

  • ユビキチン-プロテアソーム系(Ubiquitin-proteasome system, UPS)
  • アポトーシス
  • オートファゴソーム形成 etc.

様々なタンパク分解系に関与し、

タンパク複合体、オルガネラ、クロマチンなど、大きなタンパクの分解に関与すると言われています [1]

 

VCPの遺伝子変異は非常に稀ですが、

  • パジェット病と前頭側頭型認知症を伴う遺伝性封入体筋炎(inclusion body myopathy associated with Paget disease of bone and frontotemporal dementia, IBMPFD)
  • 筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic lateral sclerosis, ALS)
  • ハンチントン病 (Huntington's disease, HD)

などで報告されています。

 

今回、アメリカ・ペンシルベニア大学のDr. Leeらの研究グループは、VCP変異で空胞変性とアルツハイマー病理を生じた症例を報告しました [2]

VCPがタウ凝集体を分解する ー "vacuolar tauopathy"

著者らは、アメリカとギリシャで、常染色体優性遺伝の前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia, FTD)の2家系を同定し、

遺伝子解析(ターゲット解析、エクソーム解析、全ゲノム解析)を行い、

VCPの遺伝子変異(c.1184A>G, p.Asp395Gly, NM_007126.5))を同定した。

 

発端者の剖検を行ったところ、

マクロ所見では前頭葉に強い萎縮があり、皮質に空胞変性を認めた。

ミクロ所見では、神経細胞に空胞変性を認め、ニューロピルにVCPの顆粒状の染色性を認めた。

また、前頭葉、側頭葉、頭頂葉には、神経脱落を伴うタウ凝集体を認め、それらはアルツハイマー病(Alzheimer's disease (AD))病理で見られる神経原線維変化 (neurofibrillary tangles, NFTs) だった。

空胞変性とタウ病理の範囲は一致しておらず、

空胞変性は後頭葉優位、タウ変性は前頭葉優位だった。

 

アメリカの兄弟姉妹、およびギリシャ家系のMRI, タウPETなどを行ったところ、

発端者と同様に、後方優位の空胞変性と前方優位のタウ病理を認め、

これらの所見はVCP pAps395Gly変異に伴う所見と判断した。

 

in silico解析で、Asp395はVCPのタンパク分解機能に重要と判断し、

in vitroで、Asp395変異でVCPの活性が下がる事を確かめた。

 

VCPはタンパク凝集体の分解への関与が報告されており、

剖検脳ではNFTsにVCPの顆粒状の染色性を認めた事から、

VCPはタウ凝集体の分解に関与しているのではないかと考えた。

 

ADから抽出したタウ凝集体をリコンビナントのVCPと混合してチオフラビンアッセイを行ったところ、ATP依存性にタウ凝集体の分解を生じ、

p.Asp395Gly変異ではこの機能が阻害された。

 

同様の結果は、Fluorescence Resonance Energy Transfer (FRET) を用いた細胞系でも確認した。

 

これらの結果をin vivoでも確認するため、

著者らは、CRISPR-Cas9システムを用いて、p.Asp395Glyノックインマウスを作成した。

このマウス(3ヶ月齢)にAD脳から抽出したタウ凝集体を接種すると、

野生型マウスと比べて明らかなタウ病理の増悪を認めた。

 

以上の結果から、VCPはタウ凝集体の分解に関与し、p.Asp395Gly変異でその機能が障害され、家族性FTLDを発症すると考えられた。

My View

この仕事については、噂は色々聞いていたのですが、

コレスポのLee氏が「内密に事を進めたい」と言っていて、

合同カンファでも投稿直前まで全容を話してもらえませんでした。

 

合同カンファで、うちのPIは最後まで懐疑的な発言を繰り返していましたが、

私は、堅実な実験系で固められていて、素晴らしい内容だと思います。

 

今まで、タウの凝集に関与する遺伝子変異は報告されていましたが、

タウ凝集体の分解に関与する遺伝子変異の報告はなかったので、

これが初ということになります。

 

ただ、VCP変異と空胞変性との関連についてはまだよくわからないそうです。

タウ病理の分布と空胞変性の分布が異なる事から、別のメカニズムが働いているんじゃないかと思うのですが…

今後明らかになれば面白いと思います。

References

  1. Bo Kyoung Yeo & Seong-Woon Yu (2016) Valosin-containing protein (VCP): structure, functions, and implications in neurodegenerative diseases, Animal Cells and Systems, 20:6, 303-309, DOI: 10.1080/19768354.2016.1259181
  2. Darwich NF, Phan JM, Kim B, Suh E, Papatriantafyllou JD, Changolkar L, Nguyen AT, O'Rourke CM, He Z, Porta S, Gibbons GS, Luk KC, Papageorgiou SG, Grossman M, Massimo L, Irwin DJ, McMillan CT, Nasrallah IM, Toro C, Aguirre GK, Van Deerlin VM, Lee EB. Autosomal dominant VCP hypomorph mutation impairs disaggregation of PHF-tau. Science. 2020 Oct 1:eaay8826. doi: 10.1126/science.aay8826. Epub ahead of print. PMID:33004675.
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