脳内には、神経活動の量に合わせて、局所の血流があがる
Neurovascular Coupling (NVC) というシステムがあります。
高齢者の方や、アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)などの認知症の患者さんの脳内では、このシステムが弱っており、
認知機能低下との関連が注目されています。
今回、アメリカ・コーネル大学のIadecolaらの研究グループは、
二種類のタウトランスジェニックマウス (PS19, P301S変異)(rTg4510, P301L変異) の脳内を調べ、
タウ病理や認知機能低下が起こる前から、このNVCが障害される、ということを明らかにしました。
タウは、シナプス後肥厚(postsynaptic density; PSD)に結合し、
これによりPSDと神経型一酸化窒素合成酵素(neuronal NOS, nNOS)との結合を阻害することで、
神経活動に伴う一酸化窒素(NO)量増加が抑えられ、
局所の血流増加が起こりにくくなっているとのこと。
血管とアミロイドβ(Aβ)との関連は今までよく調べられていたと思いますが、
ここ数年、タウ祭り。
…タウはNVCにも関与しているようです。
Park et al. demonstrate in tauopathy models that tau disrupts the interaction between neuronal nitric oxide synthase and PSD95, uncoupling glutamatergic synaptic activity from nitric oxide production and dampening the hemodynamic response to activation.
脳血流の調節にタウも関与していた
TS19, rTg4510マウスともに、
タウ病理や認知機能低下が始まる前の2,3ヶ月齢で、
ひげ刺激による脳内の責任部位の血流変化量が下がっていた。
これらのマウスにTet-offシステムを組み込み、
3,4ヶ月齢からタウの発現量を低下させると、この障害はレスキューされた。
いずれのマウスも、神経の活動量自体には変化はなく、
Neurovascular Coupling (NVC) の障害が起こっていると考えられた。
Tet-offでNVCを改善させたマウスは、
7,8ヶ月齢での認知機能低下が改善していた。
タウがNVCを低下させる原因はなんだろうか?
著者らは、
神経活動
↓
NO量の上昇
↓
血管拡張
のプロセスに着目した。
野生型マウスでは、NMDA投与によってNO量の増加が見られたが、
PS19やrTg4510マウスでは、これが障害されていた。
ニューロンのNMDA受容体(NMDAR)のサブユニットGluN2Bは、
神経シナプス終末にあるPSD95を介して
nNOSに作用する。
著者らは、まずタウがPSDに存在していることを確認した。
さらに、免疫沈降で、タウがPSD95とに結合する事、
このタウの結合により、nNOSとPSD95との結合が阻害される事を確認した。
これらの結果から、
タウがPSDでPSD95と結合
↓
PSD95とnNOSの結合を阻害
↓
神経活動によるNO量上昇を抑制
↓
NVC阻害
というメカニズムが示唆された。
Reference
- Park, L., Hochrainer, K., Hattori, Y. et al. Tau induces PSD95–neuronal NOS uncoupling and neurovascular dysfunction independent of neurodegeneration. Nat Neurosci 23, 1079–1089 (2020). https://doi-org.proxy.library.upenn.edu/10.1038/s41593-020-0686-7