タウとアミロイドと神経活動

アミロイドβ(Amyloid beta: Aβ)とタウの神経原線維変化(neurofibrillary tanble: NFT)は神経回路の障害と認知機能低下に関与する。

Buscheらは、カルシウムイメージングと二光子顕微鏡を用いて、アミロイドマウスとタウマウス、およびそれらのマウスの掛け合わせで、神経活動がどうなるか調べた。

Busche-nat-neurosci-2019

タウはAβの作用を支配して神経回路を障害する

Aβは神経過活動を促し、タウは神経活動を抑制する

著者らはまず、カルシウムイメージングと二光子顕微鏡を用いて、2種類のマウスの大脳皮質2/3層を観察した。

    • APP/PSマウス:APPswe:PS1ΔE9。Aβプラークを形成するが、NFTを形成しないマウス(以降、アミロイドマウス)
    • rTg4510:ヒトタウP301変異。NFTを形成するとAβプラークを形成しないマウス(以降、タウマウス)

アミロイドマウスでは、6-12カ月で皮質2/3層の神経の過活動を認めた。

一方、タウマウスでは、同齢で同部位の神経活動の低下を認めた。

タウとアミロイドと神経活動-1

タウの結果がNFT形成と関係あるのかどうか調べるため、著者らは、rTg21221マウス(rTg4510と同量のWTタウを発現するが、NFTを形成しないマウス)の皮質の活動も確認した。

すると、rTg21221マウスの皮質でも神経活動は抑制されており、NFTではなくタウそのものが神経活動の抑制に関与していると考えた。

Aβとタウの組み合わせは神経活動を抑制する

Aβとタウで真逆の結果がでたので、二つの因子を組み合わせるとどうなるか検証した。

APP/PS1マウスとrTg4510、もしくはrTg21221マウスを交配させて同様に確認したところ、皮質の神経活動はどちらとも強く抑制された。

APP/PS1-rTg4510の3-4カ月齢の若いマウスを用いても、神経活動は同様に抑制された。また、このAβ病理・タウ病理・神経変性が出現する前の若い時期から、他のマウスに比べて活動抑制された範囲が広くなっていた。

これらの結果から、タウはAβ依存性の神経過活動を抑制し、二つの因子が共に存在すると、より強く神経活動を抑制する事がわかった。またNFTの形成は、この抑制にそこまで重要でないことも分かった。

タウとアミロイドと神経活動-2

Aβの存在下では、タウを減らしても、神経障害はそこまで改善しない

最後に著者らは、これらのマウスでタウ遺伝子の発現を抑えると、神経活動の障害が抑えられるのかどうかを調べた。

これらのマウスはドキシサイクリン(doxycycline: DOX)で導入遺伝子の発現を止めるよう細工がしているので、DOXを餌に混ぜてタウの発現を内因性のものに戻した。

これらのマウスの、DOX投与前とDOX投与6か月後のカルシウムイメージングを行ったところ、タウマウス(rTg21221とrTg4510マウス)では、両方とも神経活動の障害が改善された(rTg4510マウスはNFTsが皮質に残っていても)。

しかしながら、アミロイド×タウマウス(APP/PS1-rTg4510、APP/PS1-rTg21221)では、DOXを投与した後も神経活動は障害されたままだった。

ELISAで確認したところ、これらのマウスで、ヒトタウの量は強く抑えられていた。

My View

マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital: MGH)のHyman先生のラボから発表された論文です。

私の最も興味のある分野を長年研究してきているラボで、私が「こうしたらどうなるかなー。」と思いつく事は、時を待たずしてここから発表されたり、すでに発表されていたりします。

今回も彼らの得意とするツールを使って、興味深い結果をみせてもらいました。

アミロイド → 神経活動
タウ → 神経活動

だけれど、両方合わさるとタウの神経活動の効果の方が強いばかりか、アミロイドの存在下でより神経活動抑制効果が強くなり、さらにタウの量を元に戻してもその効果は変わらない、という、一歩上をいく結果でした。

アミロイド × タウ → 神経活動

また、NFTが形成される前からこの障害がおこる事も興味深いと思いました。タウもAβと同じようにオリゴマーの方が神経毒性が強いとする報告もありますが、それと関連があるのでしょうか?それとも、(タウの発現量を元に戻してもこの効果が持続する事を考えると)、もっと別の機構が働いているのでしょうか?

著者らも考察で言及していますが、今ongoingな臨床試験の中に、NFTをターゲットとしたものがありますが、今回の結果をみると、色々見直した方が良いかもしれません……

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