アミロイドβ(Amyloid beta: Aβ)とタウの神経原線維変化(neurofibrillary tanble: NFT)は神経回路の障害と認知機能低下に関与する。
Buscheらは、カルシウムイメージングと二光子顕微鏡を用いて、アミロイドマウスとタウマウス、およびそれらのマウスの掛け合わせで、神経活動がどうなるか調べた。
タウはAβの作用を支配して神経回路を障害する
Aβは神経過活動を促し、タウは神経活動を抑制する
著者らはまず、カルシウムイメージングと二光子顕微鏡を用いて、2種類のマウスの大脳皮質2/3層を観察した。
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- APP/PSマウス:APPswe:PS1ΔE9。Aβプラークを形成するが、NFTを形成しないマウス(以降、アミロイドマウス)
- rTg4510:ヒトタウP301変異。NFTを形成するとAβプラークを形成しないマウス(以降、タウマウス)
アミロイドマウスでは、6-12カ月で皮質2/3層の神経の過活動を認めた。
一方、タウマウスでは、同齢で同部位の神経活動の低下を認めた。
タウの結果がNFT形成と関係あるのかどうか調べるため、著者らは、rTg21221マウス(rTg4510と同量のWTタウを発現するが、NFTを形成しないマウス)の皮質の活動も確認した。
すると、rTg21221マウスの皮質でも神経活動は抑制されており、NFTではなくタウそのものが神経活動の抑制に関与していると考えた。
Aβとタウの組み合わせは神経活動を抑制する
Aβとタウで真逆の結果がでたので、二つの因子を組み合わせるとどうなるか検証した。
APP/PS1マウスとrTg4510、もしくはrTg21221マウスを交配させて同様に確認したところ、皮質の神経活動はどちらとも強く抑制された。
APP/PS1-rTg4510の3-4カ月齢の若いマウスを用いても、神経活動は同様に抑制された。また、このAβ病理・タウ病理・神経変性が出現する前の若い時期から、他のマウスに比べて活動抑制された範囲が広くなっていた。
これらの結果から、タウはAβ依存性の神経過活動を抑制し、二つの因子が共に存在すると、より強く神経活動を抑制する事がわかった。またNFTの形成は、この抑制にそこまで重要でないことも分かった。
Aβの存在下では、タウを減らしても、神経障害はそこまで改善しない
最後に著者らは、これらのマウスでタウ遺伝子の発現を抑えると、神経活動の障害が抑えられるのかどうかを調べた。
これらのマウスはドキシサイクリン(doxycycline: DOX)で導入遺伝子の発現を止めるよう細工がしているので、DOXを餌に混ぜてタウの発現を内因性のものに戻した。
これらのマウスの、DOX投与前とDOX投与6か月後のカルシウムイメージングを行ったところ、タウマウス(rTg21221とrTg4510マウス)では、両方とも神経活動の障害が改善された(rTg4510マウスはNFTsが皮質に残っていても)。
しかしながら、アミロイド×タウマウス(APP/PS1-rTg4510、APP/PS1-rTg21221)では、DOXを投与した後も神経活動は障害されたままだった。
ELISAで確認したところ、これらのマウスで、ヒトタウの量は強く抑えられていた。
Microscopic imaging of neurons in mouse models of Alzheimer’s disease shows that plaques increase activity while neurofibrillary tangles suppress activity. The combination of plaques and tangles, as in humans with Alzheimer’s disease, suppresses activity.
My View
マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital: MGH)のHyman先生のラボから発表された論文です。
私の最も興味のある分野を長年研究してきているラボで、私が「こうしたらどうなるかなー。」と思いつく事は、時を待たずしてここから発表されたり、すでに発表されていたりします。
今回も彼らの得意とするツールを使って、興味深い結果をみせてもらいました。
アミロイド → 神経活動
タウ → 神経活動
だけれど、両方合わさるとタウの神経活動の効果の方が強いばかりか、アミロイドの存在下でより神経活動抑制効果が強くなり、さらにタウの量を元に戻してもその効果は変わらない、という、一歩上をいく結果でした。
アミロイド × タウ → 神経活動
また、NFTが形成される前からこの障害がおこる事も興味深いと思いました。タウもAβと同じようにオリゴマーの方が神経毒性が強いとする報告もありますが、それと関連があるのでしょうか?それとも、(タウの発現量を元に戻してもこの効果が持続する事を考えると)、もっと別の機構が働いているのでしょうか?
著者らも考察で言及していますが、今ongoingな臨床試験の中に、NFTをターゲットとしたものがありますが、今回の結果をみると、色々見直した方が良いかもしれません……