脳外科手術でアミロイドは伝播するか？

以前、死後脳の下垂体から抽出・精製したヒト由来成長ホルモン（human cadaveric pituritary-derived grouth hormone：c-hGH）投与が原因で、数年～数十年後に脳アミロイドーシスを発症した症例の解析について取り上げました ^{[1, 2]}。

他にも、硬膜移植での伝播も報告されています ^{[3, 4]} 。

これらの手術は、現在行われていませんが、

医原性クロイツフェルト・ヤコブ病（Creutzheldt-Jakob disease, CJD）のように、アミロイドβ（Amyloid beta, Aβ）も脳外科手術によって人から人へ伝播する可能性が浮上しました。

実際、幼少時に脳外科手術を受けた数十年後に若年性脳アミロイドアンギオパチー（cerebral amyloid angiopathy, CAA）を発症した症例も報告されています ^{[5, 6]} 。

またアルツハイマー病（Alzheimer's disease, AD）やパーキンソン病（Parkinson's disease, PD）等、多くの神経変性疾患で、病的タンパクの凝集・伝播による発症・進行メカニズムが示唆されているので、

「実際のところ、脳外科手術は安全なの？」

と、心配になる人も多いようです。

そのような背景の中、イギリス・ロンドン大学のDr. Strooperら複数の研究グループが、外科的手術と医原性神経変性疾患について現在までのエビデンスをまとめ、報告しました ^[7] 。

脳外科手術でアミロイドは伝播するか？

ポイントは、

1. 実際、外科的処置で神経変性疾患の原因となるタンパクが伝播するのか？
2. その場合、どのような状況下で起こり得るか？
3. ヒト－ヒト間の伝播のリスクを最小限にするためにどのような研究が必要か？

の３点。

これまでの報告から、

1. 汚染された手術器具を介してCAAを発症という報告はあるが、ADやPDが伝染するというエビデンスはない。
2. 輸血でCJDを発症した報告はあるが、CAA/AD/PDが輸血で伝染するというエビデンスはない。
3. ただ、どのような構造のAβがヒト－ヒト間で伝播しやすいのか等、分子レベルでわかっていない事が多いので、今後研究を重ねる必要がある。同じことはタウやα-シヌクレインに関してもいえる。

とのこと。

つまり、

ADやPDが外科手術によって伝播する可能性は極めて低くて、CAAは起こることがあるけれど、かなり稀。

また輸血で伝播する可能性はほとんどなさそう。

極稀にヒト－ヒト間を伝播する構造のAβが存在する。

タウやシヌクレインは、Aβほどじゃないけど、構造によって伝播能が異なるのは確かなので、いずれのタンパクでも引き続き研究が必要。

…って感じかな。

了解です。

References

1. Jaunmuktane, Z., Mead, S., Ellis, M. et al. Evidence for human transmission of amyloid-β pathology and cerebral amyloid angiopathy. Nature 525, 247–250 (2015). https://doi.org/10.1038/nature15369
2. Purro, S.A., Farrow, M.A., Linehan, J. et al. Transmission of amyloid-β protein pathology from cadaveric pituitary growth hormone. Nature 564, 415–419 (2018). https://doi.org/10.1038/s41586-018-0790-y
3. Kovacs GG, Lutz MI, Ricken G, et al. Dura mater is a potential source of Aβ seeds. Acta Neuropathol. 2016;131(6):911-923. doi: 10.1007/s00401-016-1565-x
4. Banerjee G, Adams ME, Jaunmuktane Z, et al. Early onset cerebral amyloid angiopathy following childhood exposure to cadaveric dura. Ann Neurol. 2019;85(2):284-290. doi: 10.1002/ana.25407
5. Hamaguchi T, Komatsu J, Sakai K, Noguchi-Shinohara M, Aoki S, Ikeuchi T, Yamada M. Cerebral hemorrhagic stroke associated with cerebral amyloid angiopathy in young adults about 3 decades after neurosurgeries in their infancy. J Neurol Sci. 2019 Apr 15;399:3-5. doi: 10.1016/j.jns.2019.01.051. Epub 2019 Feb 1. PMID:30735884.
6. Giaccone G, Maderna E, Marucci G, Catania M, Erbetta A, Chiapparini L, Indaco A, Caroppo P, Bersano A, Parati E, Di Fede G, Caputi L. Iatrogenic early onset cerebral amyloid angiopathy 30 years after cerebral trauma with neurosurgery: vascular amyloid deposits are made up of both Aβ40 and Aβ42. Acta Neuropathol Commun. 2019 May 2;7(1):70. doi: 10.1186/s40478-019-0719-1. PMID:31046829; PMCID: PMC6498603.
7. Lauwers E, Lalli G, Brandner S, Collinge J, Compernolle V, Duyckaerts C, Edgren G, Haïk S, Hardy J, Helmy A, Ivinson AJ, Jaunmuktane Z, Jucker M, Knight R, Lemmens R, Lin IC, Love S, Mead S, Perry VH, Pickett J, Poppy G, Radford SE, Rousseau F, Routledge C, Schiavo G, Schymkowitz J, Selkoe DJ, Smith C, Thal DR, Theys T, Tiberghien P, van den Burg P, Vandekerckhove P, Walton C, Zaaijer HL, Zetterberg H, De Strooper B. Potential human transmission of amyloid β pathology: surveillance and risks. Lancet Neurol. 2020 Oct;19(10):872-878. doi: 10.1016/S1474-4422(20)30238-6. Epub 2020 Sep 16. PMID:32949547.