我が家には車がなく、子供たちはそれぞれ、徒歩か公共交通機関を利用して習い事に通ってもらっています。
我が家には車がありません。 アメリカでは、カナダ、ニューヨーク、ワシントン、ニュージャージー、ウェストバージニア……と、私たちを色々なところへ連れて行ってくれた自動車。日本に帰っても車に乗る気まんまんでした。 けれども、 …
次男(8歳)も、バスや電車を利用して、半径2.5km圏内を一人で移動します。
今では道も覚え、違う系統のバスに乗っても「道が違う」と気づいて、軌道修正できるようになりました。
ところが、時には、軌道修正できない事態も……
GPSは自宅からどんどん離れて……
ある日、いつものように習い事に行っていた次男。
帰宅時間になっても、家に帰ってきません。
「おかしいな。。。」
彼の携帯のGPSを確認すると、シグナルは自宅付近をどんどん離れていっていました。
「あれ?」
慌てて次男に電話をかけましたが、電話は繋がらず、私はコールを切りました。
そして数分後……彼から電話がかかってきました。
知らないところで降りちゃった
「バスの中で寝ちゃって、電話が鳴って起きちゃった。」
彼は、降車予定のバス停を過ぎてしまっていることに気付き、次のバス停で慌てて下車したとのこと。
「今どこにいるかわかる?」
と尋ねると、
「わからない。知らないところで降りちゃった。」
とのこと。
実は、追っていたGPSは、一旦自宅近くのバス停を離れていっていましたが、1.5kmほど南に下った後で折り返し、自宅近くまで戻ってきていました。
ちょっと歩いて角を曲がれば、よく買い物にいくスーパーが見えるはずですが、次男にとっては、周りを見渡してもヒントになるような景色はなく、どの方向に進めば良いのかわからないでしょう。
「今から自転車で迎えにいくから、そのバス停で待っててくれる?5分くらいで着くからね。」
私がそう言うと、彼は
「わかった!ありがとう。」
と元気に返事をしました。
バス停に着くと
私は自転車に乗って、GPSの止まったバス停まで向かいました。
そこは大きな停留所で、たくさんの人たちがバスを待っていました。
次男は、ベンチにちょこんと座っていました。
「次男くん。」
私が声をかけると、彼はぱっと振り向き、
「あ、お母さん!」
と言って、ぴょこんと立ち上がりました。
彼は私に向かってニコッと笑いましたが、次第にその顔がくしゃっと歪み、両目からポロポロと涙をこぼし始めました。
電話の声はずっと元気だったので、私は驚きました。
周囲の大人たちも、ベンチに大人しく座っていた子どもが突然泣き始めたので、驚いて振り返りました。
きっと彼は、強い不安の中、今すべきこととすべきでないことを一生懸命考えながら、行動していたのでしょう。
彼は自転車に歩みより、「ごめんなさい。」と言いました。
私は、
―― 謝ることなんてないのに。
と思いながら自転車を停め、彼が何に対して謝りたくなったのか、考えを巡らせました。
「一人でよく頑張ったね。」と言って彼を抱きしめると、彼は「きゅぅ」とイルカのような声を上げました。
帰り道
次男を後ろに乗せ、私は自転車を走らせました。
角を曲がると、いつものスーパーが見えてきました。
「あ、ここ知ってる!」
そしてほどなくして、いつも水槽の水を汲みにくる川が見えてきました。
「あ、この川、いつもの川だ。なーんだ、本当におうちの近くにいたんだね!」
・
・
・
息子の、ちょっとした大冒険でした。