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脳のお掃除屋さんのミクログリア。

アミロイドβ(Amyloid beta, Aβ)とかタウとか、脳内で蓄積すると困るタンパク達を貪食して除去しようとしてくれていますが、反面、活性化したミクログリアが炎症性サイトカインを出して現場を荒らしたり、貪食してほしくないモノまで貪食したりと、脳内環境において二面性を示しています。

活性化ミクログリアの広がりがタウ伝播 [1] やシナプス障害 [2]、タウが蓄積した神経細胞の貪食 [3] などに関わっているかも、という報告も多数あり、

以前このブログでも、タウの伝播に先行してミクログリアの活性化が起こっている、という論文を紹介しました [1]

以前、イギリス・ケンブリッジ大学の Dr. Tolkovsky, Dr. Spillantini らの研究グループは、

タウが蓄積したニューロンが "Eat me" シグナル

  • phosphatidylserine
  • milk-fat-globule EGF-factor-8 (MFGE8)
  • nitric oxide (NO)
  • etc.

を出し、その信号をキャッチしたミクログリアがタウ+ニューロンを貪食する、という事を報告していましたが [3]

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今回、その「タウ+ニューロンを貪食したミクログリアが、お腹いっぱいになって貪食機能を失い、逆にタウシードを吐き出して、タウの伝播に一役買ってしまう」

という内容の研究結果を報告しました [4

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タウ+ニューロンを貪食したミクログリアは、お腹いっぱいになるとそれを吐き出してタウ伝播に一役買ってしまう……

P301Sタウニューロンを貪食したミクログリアはタウを吐き出す

彼らは、5ヶ月齢の P301Sタウマウス(タウはヒト由来の hタウ)から単離した後根神経節(dorsal root ganglion, DRG)ニューロンと、野生型の新生仔マウス(C57BL/6J)から単離したミクログリアと共培養しました。

すると、pFTAA でラベリングしたhタウをミクログリアが貪食する像がみられ、

培地内にhタウが確認されました。

P301Sマウスニューロンだけの培養では培地内にhタウは認めなかったので、

「P301Sマウスニューロンのhタウをミクログリアが貪食し、それを培地内に吐き出している」可能性が示唆されました。

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ミクログリアが吐き出したタウは不溶性タウで、伝播能を持つ

培地内に吐き出されたタウの性質を調べると、そのタウはSDS不溶性の凝集タウでした。

また P301S-venus をトランスフェクションしたHEK細胞にその培地を処置すると、P301S-venus の凝集が確認され、

「培地内に吐き出されたタウは、他の健常なニューロンの内因性タウを凝集させる」可能性が示唆されました。

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タウを貪食したミクログリアは食欲を失っている

貪食したタウを培地に吐き出しているミクログリアはどうなっているのでしょうか?

著者らは、P301S-ニューロンとの共培養で、自身の体の中にタウを蓄えたミクログリアを再度単離し、別のP301Sニューロンと共培養してみました。

すると、タウ+ミクログリアと共培養したP301S-ニューロン内のタウは全然減らず、

ビーズを処置してみると、タウ+ミクログリアは貪食能をほぼほぼ失っている事がわかりました。

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タウを貪食したミクログリアは老化している

貪食能を失ったミクログリアの状態をみるため、彼らは老化の指標である β-ガラクトシダーゼの量を調べました。

すると、P301S-ニューロンと共培養したミクログリア内ではβ-ガラクトシダーゼの量が増えていました(ポジコンはBleomycine投与)。

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また、その共培養の培地内には、色々な老化マーカータンパクが吐き出されており、特に MMP3 が培地内で顕著に増えていました。

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タウを貪食したミクログリアは、NFκB↑によってMMP3が増えている

著者らは、P301S-ニューロンとミクログリアの共培養の培地で特に増えている MMP3 についてもう少し詳しく調べてみました。

すると、P301Sマウスの脳内で活性型MMP3が月齢依存的に増加しており、

進行性核上性麻痺(Progressive supranuclear palsy, PSP)やピック病(Pick's disease, PiD)などのタウオパチーの患者さん脳内でも同様に活性型MMP3が増えていました。

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データベースで MMP3↑の上流にNFκBがあったので調べてみると、

P301Sタウマウスの脳内では、特にミクログリアでNFκBの発現量が上がっていました。

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P301S-ニューロンとミクログリアの共培養培地中ではMMP3の発現量が増えていましたが、

NFκBを阻害する薬剤(BAY11-8072)を処置するとそれが抑えられ、

「タウ貪食ミクログリア → NFκB → MMP3」という流れで老化が促されていると考えられました。

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以上の結果から、

凝集タウを含んだニューロン内のタウをミクログリアが貪食
  ↓
タウを貪食したミクログリアは老化し、貪食能を失う
  ↓
それだけじゃなく、自身の中に取り込んだ凝集タウを吐き出し、他の細胞にタウを伝播させてしまう

という可能性が示唆されました。

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References

  1. Pascoal TA, Benedet AL, Ashton NJ, Kang MS, Therriault J, Chamoun M, Savard M, Lussier FZ, Tissot C, Karikari TK, Ottoy J, Mathotaarachchi S, Stevenson J, Massarweh G, Schöll M, de Leon MJ, Soucy JP, Edison P, Blennow K, Zetterberg H, Gauthier S, Rosa-Neto P. Microglial activation and tau propagate jointly across Braak stages. Nat Med. 2021 Sep;27(9):1592-1599. doi: 10.1038/s41591-021-01456-w. Epub 2021 Aug 26. Erratum in: Nat Med. 2021 Nov;27(11):2048-2049. PMID: 34446931.
  2. Terry RD, Masliah E, Salmon DP, Butters N, DeTeresa R, Hill R, Hansen LA, Katzman R. Physical basis of cognitive alterations in Alzheimer's disease: synapse loss is the major correlate of cognitive impairment. Ann Neurol. 1991 Oct;30(4):572-80. doi: 10.1002/ana.410300410. PMID: 1789684.
  3. Brelstaff J, Tolkovsky AM, Ghetti B, Goedert M, Spillantini MG. Living Neurons with Tau Filaments Aberrantly Expose Phosphatidylserine and Are Phagocytosed by Microglia. Cell Rep. 2018 Aug 21;24(8):1939-1948.e4. doi: 10.1016/j.celrep.2018.07.072. PMID: 30134156; PMCID: PMC6161320.
  4. Brelstaff JH, Mason M, Katsinelos T, McEwan WA, Ghetti B, Tolkovsky AM, Spillantini MG. Microglia become hypofunctional and release metalloproteases and tau seeds when phagocytosing live neurons with P301S tau aggregates. Sci Adv. 2021 Oct 22;7(43):eabg4980. doi: 10.1126/sciadv.abg4980. Epub 2021 Oct 20. PMID: 34669475; PMCID: PMC8528424.
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