私の所属する大学の必須トレーニングの一つに、Responsible Conduct of Research (RCR) についてのトレーニングがあります。
CITIという機関のRCRプログラムを受け、合格すると証書が与えられます。
CITI Program provides training courses for colleges and universities, healthcare institutions, technology and research organizations, and governmental agencies.
今回のテーマは、「共同研究(Collaboration)」です。
共同研究の重要性が高まっている
ここ数十年で、共同研究の数が指数関数的に増えています。
研究内容が複雑化、専門家する中で、異なる専門分野の研究者間でお互いの知識と技術を共有し、協力することは、
より質の高い研究結果を得るために必要不可欠なことと言えるでしょう。
しかしながら、共同研究を行うための世界基準のガイドラインというものは、まだ確立していません。
まずは、それぞれの研究者が共同研究で生じやすいトラブルなどを熟知しておく必要があります。
共同研究が増えている理由
- 研究課題がより複雑化し、その課題に取り組むために複数の専門家の知見とスキルを融合させる必要がある
- トランスレーショナル・リサーチが商業化できるようになり、産学連携の重要性が高まってきた
- 国などの資金提供者から、よりコスパの高い研究結果を求められるようになった
- 外国人大学院生や外国人ポスドクが増え、国際的な共同研究の敷居が低くなった
- インターネットの普及により、安全で早いデータのやり取りが可能となった
- 共同研究により、多くの新しい発見が生まれるようになった
共同研究の種類
共同研究には、
- 大学などの研究施設間での共同研究
- 産学連携
- コミュニティ・パートナーとの連携
- 国際間での共同研究
などがあります。
大学などの研究施設間での共同研究
研究施設間での共同研究には、3段階ある事を知っておく必要があります。
- Multidisciplinary collaboration
- Interdisciplinary collaboration
- Transdisciplinary collaboration
でもこれ、日本語に訳すと全て「学際的共同研究」となっちゃうんですけど……
Multidisciplinary collaboration
研究者同士が、お互いの知識を出し合い、並行して進めていく共同研究の事。
お互いにはそこまで深く干渉せず、うまく進めていきます。
Interdisciplinary collaboration
Multidisciplinary collaborationに比べると、もう少しお互いが介入しあいます。
共通の課題に対して、お互いの知見や意見を出し合い、共同で解決していくイメージです。
Transdisciplinary research
3つの中では最も研究者同士の関わりが強いタイプ。
共通の課題に対して、研究者同士の専門知識や意見を出し合い、それを融合して解決していきます。
この場合、その課題に取り組む上でのフレームワーク、解決手法、アプローチ法などをお互い共有し、
その上で課題を再定義し、解決法を作り上げていきます。
産学連携
アメリカ政府は、Bayh-Dole Act (Government Patent 1908) により、大学や研究機関などの特許取得や商業化を補償しています。
ヨーロッパでも同様の施設 (European Comission's Joint Research Centre's Technology Transfer service) があり、政府の資金で行われた研究結果の商業化をサポートしています。
多くの大学が、Technology Transfer Offices を持ち、商業化のサポート体制を整えています。
ただ、大学と企業ではフォームが違うかもしれません。
企業は大学研究者をコンサルタントや広報担当者として雇う事があり、
その際、企業が多くの研究資金を提供してくれる場合があります。
その際、いくつか産学間で問題が浮上することがあります。
その原因は研究目的の違いに起因することが多いです。
アカデミック側が新たな事象を発見したりする事が目的なのに対し、企業側はその結果で利益を得ることが目的だからです。
企業が資金提供を行った場合、その研究結果は主に企業側に属する事になります。
大学側は論文として発表したいけれども、企業からストップがかかり、軋轢が生じる事があります。
また、企業と共同研究することで、先日学んだConflict of Interest、Conflict of commitmentにかかる場合があります。
それらの問題点を予め予測し、共同研究を行う前にしっかりと取り決めを行い、書面で残しておく必要があります。
コミュニティ・パートナーとの連携
最近、コミュニティ・パートナーとの連携も増えてきました。
特に、社会科学、行動科学、公衆衛生などの分野でコミュニティ・パートナーとの共同研究が多くなっています。
全く違う見地の人達と共同研究することは、大学研究者にとって大きな利益をもたらしますが、
同時に、説明の仕方の工夫など、大学間同士の共同研究とはまた違った挑戦が伴います。
国際間での共同研究
多くの国で研究環境が整ってくるのに伴い、研究はグローバルなものへと躍進しました。
特に、環境問題や感染研究など、国境を超えた研究に関しては、国際間での共同研究が欠かせません。
その際、ある国ではOKな事象も、ある国では厳しく規制されているなど、
国際間での分化や認識の違いが問題となってきます。
国際間での共同研究で生じ得る問題
- 動物実験に対する規制や認識が全然違う(動物愛護団体の圧力など)
- バイオ医療研究に対する倫理指針がしっかり規定されていない国がある
- 研究不正などに対する考え方がしっかりしていない国がある
- マテリアルを輸送する際、国の検閲にひっかかる事がある
- 言葉の壁により、お互いのニュアンスがうまく伝わらない事がある
共同研究で生じやすい問題点
多くの規制が、それぞれの施設独自のガイドラインに沿っていることが多く、
研究分野やアカデミック、国を超えた共同研究には、規制の違いによる問題が生じやすくなります
生じやすい問題を予め予測し、適切に対策をとっておかないと、トラブルの元になり、プロジェクトが頓挫してしまう事にもなりかねません。
共同研究の壁となりやすい例
- 共同研究者同士で受けてきた教育が異なり、研究倫理感などの相違が仕事内容に影響する事がある。
- データ収集マネージメントや解析方法が、お互いの施設や研究分野によって異なる。データが失われたり、解釈に誤解が生じたりしないよう、細心の注意を払う必要がある。
- ある国では「普通の事」として扱われる行動が、他の国では「研究不正」に該当する事がある。
- 生産性に対する考え方の違い、データ量の基準の違い、論文数の違い、グラント獲得機会の違いなどにより、相手の仕事内容に懐疑的になる事がある。
- オーサーシップの基準が国によって異なり、共著者間で諍いが生じる事がある。
- 学生やテクニカル・アシスタントの扱いが、共同研究者間で異なる場合がある。
共同研究に関する規制やガイドライン
共同研究に関する国際的なガイドラインはありませんが、共同研究に伴ういくつかの項目に関しては、アメリカでは規律があります。
- データやマテリアルの共有
- 資金マネジメント
- ヒトの検体の使用指針や動物保護
- 経済的 Conflicts of interest
特にアメリカ政府の資金で行われる研究に関しては、アメリカ政府のガイドラインに従わなければなりません。
また、専門機関のガイドラインもあります。
古くは、1990年代に制定された下記2つ。
- American Chemical Society (ACS2014) のガイドライン
- International Committee of Medical Jounal Editors (ICMJE 2016) のガイドライン
そして2000年代に入ってからもいくつか制定されました。
- Organization for Economic Co-Operation and Development のワークシップ (2007年)
- European Science Foundation and the ALl European Academies (ALLEA, 2011年)
- Tesponsible Conduct in the Global Research Enterprise
- Doing Global Science: A Guide to Responsible Conduct in the Global Research Enterprise
まとめ
このラボにきて、共同研究の重要性をかなり意識するようになりました。
それぞれの専門分野の人達と共同研究する事で、仕事の質は格段に向上します。
一方で、研究分野や立場、場合によっては国の分化など、異なる研究背景の人達が集まる事で、様々な問題も発生しやすくなります。
それらに対する知識をつけ、予め予測し、対策を立てておくことが、共同研究を成功させる重要な鍵なんじゃないかと思いました。
また、後で「言った」「言わない」の話にならないよう、
最初の段階で書面で合意を得、
ミーティングの内容も全て書面に残しておく事が大切だと思いました。
- Research Misconduct(研究不正)
- Data Management(データマネジメント)
- Authorship(オーサーシップ)
- Peer Review(査読)
- Mentoring(メンタリング)
- Conflicts of Interest(COI)
- Collaborative Research(共同研究)
- Research Involving Human Subjects(ヒトの研究)
- Using Animal Subjects in Research(動物実験)