CITIプログラム

私の所属する大学の必須トレーニングの一つに、Responsible Conduct of Research (RCR) についてのトレーニングがあります。

CITIという機関のRCRプログラムを受け、合格すると証書が与えられます。

今回のテーマは、「Peer Review (査読)」です。

Peer Review (査読)

査読は、出版論文の質を向上させる上での、最も強力なシステムとされています。

査読では、必ずしも嘘や研究不正を見抜けるとは限りません。

他のツール等を使って行った方が遥かに効率的に検出できることも多いです。

けれども、査読がなければ、独断的な決定や個人的・政治的背景を加味した決定などが蔓延してしまうでしょう。

査読の歴史

1665年、イギリスのRoyal Society of LondonとフランスのParis Academy of Sciencesの2社がそれぞれ研究雑誌の出版を開始しました。

初期の出版では、怪しい論文やエビデンスに乏しい論文が多く含まれていました。

1752年、Royal Society of Londonが査読システムを導入しました。

1830年、Royal Societyが、雑誌の質の向上のため、投稿論文の査読システムについて公開しました。

1937年、アメリカのNational Cancer Instituteが、アメリカで初めて査読システムを導入しました。

査読の歴史

査読の種類

査読が行われるのは、一般的に下記2つの原稿についてです。

  • 研究論文(Journal Publications)
  • 研究助成金(grant funding)

査読には、

  • Open Review
  • Single-blind Review
  • Double-blind Review

の3種類があります。

Open Review

投稿者、査読者の素性がいずれも明らかにされているタイプの査読です。

お互いの素性が知れている事で、色々なバイアスがかかりやすくなるため、この方法はあまり一般的ではありません。

Single-blind Review

投稿者の名前や所属は明らかになっていますが、査読者は誰かわからないようになっているタイプの査読です。

科学誌や技術系雑誌の査読は、このタイプの査読が一般的です。

Double-blind Review

投稿者、査読者ともに誰だかわからないようになっているタイプの査読です。

名前等を伏せていても、論文の内容や査読のクセなどでお互い誰かわかってしまう場合も多いです。

査読で求められる事

研究雑誌の場合

研究雑誌の査読では、編集者が、2人か3人の査読者を選出します。

査読者に選ばれる人達は、その論文の分野の専門家と考えられる人達です。

選出された査読者は、以下のような内容を吟味します。

  • 雑誌の趣旨に沿った研究内容か
  • オリジナリティーや研究結果の新規性はあるか
  • 研究方法は適切か
  • 研究結果やまとめに説得力はあるか
  • 原稿の書き方はちゃんとしているか

研究助成金の場合

研究助成は、国民の税金等が投入されるわけなので、どの研究に助成するか、公正な判断が求められます。

そのため、助成金施設や多くの財団が、査読システムを導入しています。

選出された査読者は、以下のような内容を吟味します。

  • 学術的な重要性
  • 方法論
  • 研究者の質
  • 研究計画をサポートするデータ
  • 要求された予算の妥当性
  • 研究計画が社会に及ぼすインパクト

査読の根底となる倫理観

査読システムは、関与する人達全員の倫理観がしっかりしていて初めて成り立つシステムと言えます。

もし、投稿した著者が、査読によって自分たちの研究データやアイデアを盗まれたと感じたら、査読の重要な柱の一つが失われる事になります。

査読に関わる人々の倫理観を維持するため、Committee on Publication Ethicsという機関が設けられ、査読(COPE 2017)や編集者(COPE 2011)のガイドラインを制定しました。

倫理ガイドライン(Ethical Guideline)は、5つの柱で成り立っています。

  • Confidentiality
  • Reliability
  • The Fairness of the Review Process
  • Conflict of Interest
  • Professionalism

Confidentiality(機密性)

査読は、著者と秘密情報(データ、方法、結果、アイデア etc.)に対するリスペクトの基に成り立っています。

一連のプロセスに置いて、機密性を貫く事は最重要項目の一つです。

もし査読者の誰かが秘密を漏らしたりしたら、査読プロセス自体が崩壊してしまうでしょう。

 

査読者は、自分が査読した原稿を、編集者の許可なしに他の人に見せたりしてはいけません。

もしどこかのラボの教授に査読依頼がきて、自分のラボのポスドクや学生のほうがその分野の専門知識を持っていると思ったら、彼らに原稿を見せる前に、ジャーナル側に許可を取らなければなりません。

通常、査読者は自分が査読した後の原稿等を削除しなければなりません。

Reliability(信頼性)

査読は、人が行う作業です。

同じ仕事に対しての査読を断る事はあるかも知れません。

でも、2人の査読者が断ってきたら、査読プロセスが成り立たなくなります。

もし、バイアスがかかって公正な査読ができないと感じたら、最初の段階で断るべきです。

もし、専門外の事が生じて質の高い査読ができないと感じたら、査読者は編集者と相談してその筋の専門家を査読グループに入れてもらうようお願いすべきです。

(e.g. 統計の査読に自信がなかったら、統計の専門家にも査読してもらうよう推薦する etc.)

The Fairness of the Review Process(査読プロセスの公正性)

「公正な査読」とは、

例えば同じ内容の原稿を、他のグループが投稿してきても、査読の結果は変わらない、という事です。

特に研究助成金のときには十分に気をつける必要があります。

査読者には「公正な査読」をする「誠実さ」が強く求められます。

もし、著者側が、「査読プロセスで不当な扱いを受けた」と感じたら、その問題について編集者にコンタクトをとって議論することができます。

Conflict of Interest(利益相反)

研究者がCOIを避ける事は、時には難しい事も多いです。

個人的、職業的、金銭的、様々なCOIがあります。

研究助成施設や雑誌側は、公正な査読プロセスを確保するため、査読者にCOIの開示を求める事があります。

査読者は、COIの開示を求められたらそれに従わなければなりません。

一般的には、金銭的COIによく焦点が当たりますが、個人的・職業的COIも問題になる事が多いので、しっかりと開示されなければなりません。

Professionalism(プロフェッショナリズム)

研究者達は、慎重に、客観的に、そして堅実に査読を行う義務があります。

査読者のレポートは、原稿の質を向上させるものでなければなりません。

査読者は、その分野の専門家でなければなりません。

もし査読依頼を受けた分野が自分の専門ではないと感じたら、査読を断りましょう。

また、査読者が、査読から得た知識を、査読した原稿が出版される前に使う事は、非倫理的とされています。

My View

大学院生の頃、指導教官や教授から、時々その人が依頼された原稿の査読を頼まれていました。

その時は、自分の査読体験を積んで勉強させる目的もあるのだと思い、普通に引き受けていましたが、

「あれはやったらダメだったんだ。」

と、今になって反省しました。

 

著者側の視点で考えると、

時間をかけて研究を重ね、やっと投稿した原稿を批判されるのは辛いですが、

査読者は自分よりも遥かに多くの知識があり、査読プロセスを経た原稿は、オリジナルの原稿よりも確実に質が向上していると思います。

今回、「査読プロセス」がほぼほぼ査読者の誠実さにかかっていると知り、「査読、ありがたいな。」と、自分の原稿の査読者に改めて感謝しました。

私も査読をする際は、上記の内容を心にとどめながら、誠実に行いたいと思います。

CITIの9つのプログラム一覧

  1. Research Misconduct(研究不正)
  2. Data Management(データマネジメント)
  3. Authorship(オーサーシップ)
  4. Peer Review(査読)
  5. Mentoring(メンタリング)
  6. Conflicts of Interest(COI)
  7. Collaborative Research(共同研究)
  8. Research Involving Human Subjects(ヒトの研究)
  9. Using Animal Subjects in Research(動物実験)
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