少し前にラボのみんながお別れ会を開いてくれましたが、それ以外にも多くの方々から、個別に食事に誘ってもらったり、時間をとってミーティングをしてもらったり、手紙をもらったりしました。
それらの中で、特に今後の成長の糧になりそうだと感じた言葉やアドバイスを書き残しておきたいと思います。
Words of Wisdom:by 同室のポスドク
仕事の最終日、ラボに出勤すると、机にいくつかのメッセージカードが置かれているのが目にとまりました。
先日のお別れ会で、みんなからのメッセージカードを受け取っていましたが、特に親しい人達はそれに加えて、個別に手紙をしたためてくれたようです。
一つ一つ読みながら感慨にふけっていると、後ろから控えめに声をかけられました。
声をかけてくれたのは、同室のポスドクTaでした。
彼女は中国人ですが、子供の頃に家族で渡米してきていて英語はネイティブ級だったので、私は彼女によく英語の質問などをしていました。
彼女は大学院では生化学を選考しており、化学の知識も素晴らしいものでした。
けれども、他のアメリカ人のように堂々と自分を誇示する事はなく、いつも謙虚で……とゆーか謙虚すぎて、どちらかというとおどおどしていていつも自信なさげな雰囲気でした。
「あなたに伝えたい事がたくさんあって……でも口ではちゃんと言えないと思ったから、手紙を書いたの。忙しいと思うから、飛行機の中とかで時間ができたら読んでくれたら嬉しい。」
彼女は私にメッセージカードを手渡してくれました。
「ありがとう。今読んでもいい?」
「あ、う、え……今読んでくれてもいいけど、恥ずかしいから、私は退散してメインラボで実験してくる。」
Taはそう言って、そそくさと部屋を出ていきました。
―― Taらしいな。
私はくすっと笑って、手紙を読み始めました。
Ta からの手紙
あなたに出会えて、私はとても幸運だったと思ってる。
いつも助けてくれて、色々な質問にも丁寧に教えてくれて、どうもありがとう。
私がこんなに恥ずかしがり屋じゃなければ、もっとたくさん話したかった。でも、あなたと話したいくつかのシーンは、私にとってかけがえのない思い出になってる。
私はもうひとつ、あなたに伝えたい事があるの。
それは、私はあなたを、私のロールモデルだと思っているということ(ハードワークなのに楽しいキャラクター、そしてマスターピースのプレゼンテーション etc.)。
私は、あなたが自分に対する自信のなさを克服する事を願ってる。だってあなたはこんなにも素晴らしい。
あなたなら日本でも活躍できるし、どこでだって成長できる。
頑張って!
彼女の手紙を読んで、私はしばらく止まり、そして涙が出てきました。
インポスター症候群
彼女とは以前、自分たちが「インポスター症候群」だという話をした事があります。
彼女は生化学出身ですが、人の体の事や病理の事はまったくわからず、
「自分みたいな人間がここで働いていてもちゃんとした仕事ができるんだろうか。」
といつも不安なのだと言っていました。
一方私の方は、医学部出身で患者さんの病気の事は一通りわかるものの、専門のDrs.と比べるとどの知識も足元にも及ばず、病理や生化もある程度は勉強しているものの、どちらも専門としてトレーニングを積んできたわけではありません。
私も自分の事を、何もかも中途半端な人間だと感じていました。
Taは、私達のように自分の能力を信じられない人達の事を総じて「インポスター症候群」と呼ぶのだと教えてくれました。
そして、
「私達は、自分達の事を『たいした人間じゃない』って感じてしまうけど、お互い頑張って勉強してきたし、私達、本当は素晴らしい人間なのだと思う。
少なくとも私から見れば、あなたが自分の事をそんなに過小評価するのが信じられない。自慢しても足りないくらいの要素をいっぱい持っているのに。
だから、きっと私も、他人からみたらもっと価値のある人間で、こんなに自分を卑下しなくていいのだと思うようにする。」
みんなの言葉のお陰で自分に自信を持てるようになった
私はTaとの会話を思い出し、また他の人達との会話を思い出しました。
直ラボPIから、「直ラボの人達は君の事を快く思っていない」と言われた時、私は自分を責めました。
自分では身に覚えがありませんでしたが、嫌われる人達は往々にして、その原因に自分では気づかないものです。
「私は自分の気づかないところで人を不快にさせてきており、指摘されてもその原因が自分でわからないという事は、きっとこれからも気づかない間に人を不快にさせていくのだろう。」
と思いました。
けれども、今のラボの人達は、私がいかに素晴らしい人物かという事を、毎日のように伝えてくれていました。
ただ抽象的に話すのではなく、具体例を挙げて、本当に毎日、異なる人達が異なる場面でその思いを伝えてくれました。
彼らからすれば普段の会話の一部だったと思いますが、
それら一言一言は、常に自分を過小評価してきた私にとってかけがえのない言葉達でした。
「私は自分で思うほど悪い人間ではないのかもしれない。」
子供の頃から自分自身を蔑み、責め続けてきた私は、彼らの言葉を受けて、少しずつ自分への考えを改めるようになりました。
・
・
・
正直、今でも帰国後の環境について不安は強く、ここまま帰国しないか、帰国したらキャリアを捨てて逃げ出したいという気持ちに襲われる事もあります。
けれども、彼らの言葉のお陰で、その衝動は限りなく小さものになりました。
「私はそんなに悪い人間じゃないみたい。
誰かからよく思われなくても、それは私自身を否定する事にはならない。だって、私はこんなにも人から愛されている。」
そんな気持ちにさせてくれた全ての人々に感謝し、私はその日の仕事に取りかかりました。
あなたはたくさんの人達から愛されているし、尊敬されている。
自分を卑下しないで。あなたは素晴らしいし、どんな状況をも克服する力を持っている。