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年の瀬、各誌この1年のブレイクスルーや来年の展望etc.をまとめています。

今回は、Science誌の ”2021 Breakthrough of the Year” から。

2021 BREAKTHROUGH OF THE YEAR

全ての蛋白構造決定がAIで可能に

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今年のブレイクスルーに選ばれたのは、AIのタンパク構造解析でした。

1972年のノーベル賞受賞式で、アメリカ人生化学者 Christian Anfinsen が言いました。

「いつか、アミノ酸配列からタンパクの3次元構造がわかるようになるだろう。」

50年経った今年、人工知能(artificial-intelligence, AI)がそれを可能にしました。

 

それまでタンパクの構造解析は、ラボの血の滲む解析手法によって少しずつ解き明かされてきました。

それが今、コンピューターで計算できる時代になったのです。

専門家は、

「コンピューターと分子生物学の分野は、これにより大きく変化するだろう。」

とコメントしています。

 

私達の体には、異なる細胞の中で、無数のタンパクが異なった働きを担っています。

筋肉を構成したり、食べ物を消化してエネルギーに変えたり、血中で酸素を運んだり、外から侵入した微生物と戦ったり……

でも、それらのタンパクの働きは、たった20種類のアミノ酸の鎖で構成されおり、その情報は全てDNA鎖の中に収められています。

リボソームでアミノ酸が合成されると、夫々の鎖は特徴的な3次元構造を呈します。

そしてその構造が、タンパクがどの様に他の分子と相互作用するか、夫々のタンパクが細胞の中でどのように働くか、を決定するのです。

 

ただ、鎖の部分部分の相互作用の可能性パターンはいくつも存在し、中くらいのサイズのタンパクでさえ、可能性のある3次元構造パターンは天文学的数字になります。

けれども自然界では、だいたい一瞬で、一つの構造に決まってしまうのです。

 

1950年代、研究者達は、X線結晶構造解析によって、タンパクの3次元構造をマッピングするようになりました。

この手法は現在最も一般的な構造解析手法となっており、タンパクデータバンクには185,000種類のタンパク構造が解析されました。

けれどもマッピング構造解析には数年かかりますし、1タンパクに10万ドル(約1000万円)くらいの費用がかかります。

構造解析のスピードアップを図るため、研究者達は1970年代からコンピューターを使った構造解析予測を始めました。

 

最初は、小さなタンパクか、大きなタンパクの一部を解析できる程度でした。

けれども1994年までには、コンピューターモデルはかなり精度をあげ、2年に1度、Critical Assessment of protein Structure Prediction (CASP) が開催されるようになりました。

このコンペティションでは、主催者が複数のタンパクのアミノ酸1次構造を出題し、参加者がコンピューターでそのタンパクの立体構造を予測します。

コンペティションの最後にはX線結晶構造解析や核磁気共鳴スペクトロスコピー (NMR) やクライオ電子顕微鏡 (cryo-EM) の最新解析結果と照合し、スコア90%以上で正確に構造を予測できたと判断されます。

 

最初の頃は、平均60スコアぐらいと、あまり振るわない結果でした。

けれども開催回数を重ねるにつれ、参加者達はどんどん計算精度をあげていきました。

 

もう一つの大きな飛躍は、種の進化からもたらされました。

チンパンジーやヒトなど近縁の生物に共通するタンパク質で、あるアミノ酸が変化すると、タンパク質の形や機能を維持するために、折りたたまれた分子内の近くにあるアミノ酸も変化しなければならないことがわかったのです。

つまり、共進化するアミノ酸を探すことで、タンパク質の形状を絞り込むことができるようになりました。

たとえ、折り畳まれていない鎖の上では離れていても、最終的な立体構造では隣り合っている可能性が高いという事です。

 

2018年までは、モデルのスコアは平均で70半ばといったところでした。

そして、皆さんおなじみのAIのソフトウェアプログラム「AlphaFold」が登場します。

Googleの姉妹車DeepMindが開発したこのプログラムは、自身で実験によって解き明かされた構造データベースをトレーニングします。

最初のコンペティションではスコアは80近くで、90個中43個が正しい解析と判断されました。

2020年、AlphaFold2はもっと進化していました。

182個のプロセッサーが機械学習を最適化し、スコアの中央値は92.4となりました。

 

そして今年、AIによるタンパク構造予測は大きな転機を迎えました。

7月中旬、Baker達のグループの RoseTTAFold が数百ものタンパクの構造を解析したと報告されました。

その1週間後には、DeepMind社が、ヒトの体の中にある350,000種類のタンパクの構造を解析し、そのうち44%は未知のタンパクである、と発表しました。

翌月には、彼らのデータベースはあらゆる種類の動物内にある1億種類のタンパクをストックできるようになるだろうと予測しました。

これは、現在存在が想定されている全タンパクの半分の数になります。

 

次のステップは、それらのタンパクがどのように機能して、どのように相互作用するのか、という事になります。

DeepMind社は既にそのミッションにとりかかっています。

10月のプレプリント報告では、4433種類のタンパク-タンパク複合体を解析したと報告し、11月には RoseTTAFold が他に912種類のタンパク複合体を解析しました。

 

AlphaFold2とRoseTTAFoldのコードは公開されており、他の科学者達もそれを使用することができます。

11月には、ドイツとアメリカの研究者達がAlphaFold2とcryo-EMを使って核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex, NPC)の構造を解析しました。

NPCは30種類のタンパクで構成されています。

8月には、中国の研究者達がAlphaFold2を使って、DNAに結合する200種類のタンパク質の構造解析を行いました。

先月、Googleの親会社である Alphabet が、タンパクの構造解析を使って新たな薬剤候補を予測する新しいベンチャー企業を立ち上げました。

 

今もSARS-Cov-2を研究する科学者達はAlphaFold2を使ってオミクロン株のスパイクタンパクを研究しています。

大きなアミノ酸を挿入することでその変異株は形を変え、抗体が結合しにくい構造に変化したんじゃないかと考えられています。

 

やるべきことはまだまだ残っています。

タンパクはその時その時の役割によって、曲がったりねじれたりと構造を変えながら機能していきます。

この構造変化は、やはりまだモデリングしにくいです。

また、細胞内で無数の働きをもつ、大きくて複数のタンパクで構成されている構造を視覚化するのはやはり難しく、気の遠くなる作業となります。

けれども、今年のAIによる大きな飛躍は、医学生物学の領域を今まで考えられないレベルに押し上げた事は言うまでもありません。

RUNNERS-UP

次点達も紹介。

古代の土壌からDNAを抽出

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化石から得られるDNAは、人類や動物の進化に関する研究を一変させ、未知の関係を明らかにし、初期の移住を追跡し、古代の種間交配を明らかにしたりしました。

けれども人類については、古代の23のゲノム(そのうち18はネアンデルタール人由来)に依存しているにすぎません。

近年科学者たちは、洞窟の床の土から、もっと大量の古代のDNAを発見しました。

そして今年、洞窟の土から、かつて人間の細胞の核に含まれていたDNAが初めて検出され、研究者たちはこの「土のDNA」を使って、世界中の洞窟に住む人々の身元を復元しました。

今回の研究は、生物種の環境DNAの研究を参考にしており、湖や森などに生息する生物を調べるために、科学者たちは、彼らが空気中や水中、土壌中に流したDNAを収集します。

2003年には、進化遺伝学者が、廃棄されたDNAが何千年も存続する可能性があることを示しました。

2015年には、化石がない場合でも、古代の生態系全体を再構築するために、このDNAを利用できるようになりました。

そのDNAの多くは、遺伝物質の小さなスニペットを格納する、細胞の発電所であるミトコンドリアから来るものばかりでしたが、新しい技術のおかげで、古代の土壌から生命の全指示を伝える核DNAを探し出せるようになりました。

そして今年、科学者たちは核DNAを利用して、3つの洞窟で人間と動物がどのように暮らしていたかを明らかにしました。

スペインのエスタトゥアス洞窟では、核DNAによって8万年から11万3000年前にそこに住んでいた人類の遺伝的アイデンティティと性別が明らかになり、10万年前に終了した氷河期以降にネアンデルタール人のある系統が他のいくつかの系統と入れ替わったことが示唆されました。

グルジアのサツルブリア洞窟の2万5千年前の土からは、これまで知られていなかったネアンデルタール人系統の女性ヒトゲノムと、バイソンと今では絶滅したオオカミの遺伝的痕跡が発見されました。

また、メキシコのチキフイテ洞窟に生息する1万2千年前のツキノワグマのDNAと現代のクマのDNAを比較したところ、最後の氷河期の後、ツキノワグマの子孫がアラスカまで北上していたことが判明したのです。

古代の土壌から核DNAを抽出し、その塩基配列を決定する技術は、現在もなお改良が続けられています。

その結果、古代の生物種の栄枯盛衰について、さらに多くの謎が解明されることが期待されています。

核融合が可能に?

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8月に行われた米国の国立点火施設(NIF)の実験では、研究者自身も驚くような結果が得られ、公式な「損益分岐点」(反応に必要なレーザーエネルギーよりも多くのエネルギーを生成する点)まであとわずかというところまで核融合反応が進みました。

 

太陽や他の星を動かす核融合は、長い間、地球のエネルギー問題を解決する方法と考えられてきました。

けれども、それには太陽の核の10倍もの高温と圧力が必要であり、その実現は非常に困難と言えます。

そんな中、NIFでは、世界最高エネルギーレーザーのパルスを利用して重水素と三重水素のカプセルを圧縮し、今年初め、この方法で1ショットあたり170キロジュールの核融合エネルギーが得られました。

これはレーザー入力の1.9メガジュールには遠く及ばないものでしたが、8月8日の実験では、1.35メガジュールまで上昇しました。

これは、核融合反応によって熱が発生し、圧縮された燃料が炎のように広がったため、プラズマが燃焼した結果だと研究者達は考えているようです。

この結果はまだ専門誌で精査されていませんが、11月に開催された米国物理学会のプラズマ物理学部門会議で発表されました。

現在研究チームは、この高収率を理解し、さらに良い結果を得るために、燃料カプセルを大きくしたり滑らかにしたり、凍結燃料の層をより均一にしたり、高品質のレーザーパルスを使用するなど、開始条件を調整する方法を考えようとしてます。

10月には430キロジュール、11月には700キロジュールを達成しており、この試みは2022年まで続けられる予定です。

 

NIFの収支が赤字になる中、民間の核融合プロジェクトはさらに加速しています。

今年、Commonwealth Fusion Systems と Tokamak Energy は高温超伝導磁石の開発を進めていると発表しました。

また、ピストンを使うジェネラル・フュージョン社と粒子ビームを使うTAEテクノロジーズ社は、2025年にスイッチを入れるというエネルギーを生み出す実証発電所を計画しています。

ただ、核融合が実用的な電力源となるには、材料科学と工学の分野で手強い課題も残っています。

COVID-19の内服薬

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今までCOVID-19との闘いではワクチンが主役でしたが、新たなプレイヤーが登場しました。

感染初期に服用すれば症状や死を防ぐことができる抗ウイルス薬です。

 

秋には、製薬会社のファイザーとメルク社が、プレスリリースを通じて臨床試験の好結果を発表しました。

さらに多くの抗ウイルス剤が試験中であり、強迫性障害治療薬のフルボキサミンなど、既存のジェネリック医薬品も有用であることが証明されました。

メルク社の抗ウイルス剤モルヌピラビルは、規制当局に提出された最終データによると、高リスクのワクチン未接種者の入院または死亡のリスクを30%減少させることができたそうです。

ファイザーの抗ウイルス剤PF-07321332は、症状が出てから3日以内に投与を開始した場合、入院を89%減少させることができます。

またイギリスでは11月にモルヌピラビルが承認され、米国食品医薬品局(FDA)の諮問機関でも僅差で承認され、規制当局もファイザーの治療法を検討しているところのようです。

 

ただ科学者たちは、抗ウイルス剤がワクチン接種に取って代わることはできないと強調しています。

 

他にも色々疑問は残ります。

  • 抗ウイルス剤は感染者からの感染を減らすことができるかどうか
  • 低所得国でも必要な量を供給できるかどうか (両社とも、このような国々では薬を大幅に値引きして販売することを約束しています。)
  • 臨床試験で見られなかった副作用はあるのかどうか、etc.

色々不確実は部分はあるものの、科学者や医師はこの結果に勇気づけられています。

複数の治療法があることで、ウイルスがどの治療法にも耐性を持つようになるのを防ぐことができるかもしれないからです。

幻覚剤によるPTSDの治療

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心的外傷後ストレス障害 (PTSD) に対するMDMA治療には、訓練を受けた監督者が必要です。

幻覚剤の精神に作用する力は、精神疾患を緩和すると期待されていました期待が、その効果を示した大規模で厳密な臨床試験はほとんどありませんでした。

けれども今年、この分野に大きな成果がもたらされました。

多施設共同無作為化比較試験で、一般にエクスタシーと呼ばれる3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)患者の症状を有意に軽減すると報告されたのです。

 

この研究は、5月にNature Medicine誌に掲載され、対話療法とMDMAの集中的な組み合わせがテストされました。

MDMAは、トラウマ的な経験を処理するのに役立つ幸福感と共感性を生み出すことができます。

試験参加者76人は、薬物またはプラセボによる8時間のガイド付きセラピーセッションを3回受け、さらに治療の前後にセラピストによる短時間の「準備」「統合」セッションを受けました。

2ヵ月後、MDMAを投与された者の67%がPTSDの診断基準を満たさなくなったのに対し、プラセボ投与群では32%と有意に差が出ました。

 

この結果は非常にエキサイティングな結果として受け取られましたが、同時に注意喚起も受けました。

トロント大学の神経学者マシュー・バークと精神科医ダニエル・ブランバーガーは、10月のNature Medicine誌で、このような試験は「盲検化とプラセボ効果というゴルディアスの結び目」に直面すると警告しています。

それは、MDMAの精神作用は参加者にとって明白であり、自分が本物とプラセボのどちらの薬を飲んだかすぐに分かってしまい、参加者の期待、さらには改善する確率に影響を与える可能性があるからという事です。

(研究後の参加者のフォローアップによれば、90%もの参加者が自分がどのグループに属するかを正しく推測していたとのことです)。

そして、そのような期待が治療の一部であることを受け入れるだけで、「精神医学における効果の測定方法を全面的に見直す必要があるだろう」と、BurkeとBlumbergerは述べています。

 

それでも、幻覚剤研究は、学術研究所や企業がうつ病、不安、中毒などの症状を治療するためにMDMAや他の幻覚剤の可能性を探る中で、活況を呈しています。

11月には、ロンドンを拠点とするメンタルヘルスケア企業であるCOMPASS Pathwaysが、いわゆるマジックマッシュルームに含まれる物質であるシロシビンを治療抵抗性のうつ病患者に投与した233人の参加者による無作為化試験で良好な結果を得たと発表しました。

同社は現在、より大規模な試験を計画しています。

そして、現在進行中の追跡調査でMDMAの最初の結果が確認できれば、そのスポンサーである非営利のMultidisciplinary Association for Psychedelic Studiesは、早ければ2023年にも米国食品医薬品局からの承認を求める予定とのことです。

人工的に作製した抗体で感染症を抑える

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研究所で作製するモノクローナル抗体(mAb)は、一部のがんや自己免疫疾患の治療に革命をもたらしたまいたが、感染症に対する成功は限定的でした。

けれども今年、SARS-CoV-2をはじめ、呼吸同期ウイルス(RSV)、HIV、マラリア原虫など、生命を脅かす病原体に対して mAb が進出し、状況は一変しました。

 

mAbを作るには、実験動物やヒトから最も強力な抗体を分離し、それを大量に再生産する必要があります。

医薬品としては、免疫反応を抑制するため、あるいは腫瘍細胞を破壊するためのマークとして使用されます。

アメリカで感染症治療薬として承認されているmAbは、稀な病気に限られています。

エボラ出血熱、吸入性炭疽、クロストリジウム・ディフィシルの再発、高リスクの乳児のRSV、すべての薬剤が効かない人のHIVなどです。

インドでは狂犬病のためのmAbが承認されました。

 

クローニング、動物モデル、X線結晶学の進歩により、研究者は以前より多くのmAbを作り、スクリーニングできるようになり、探索が簡素化されました。

SARS-CoV-2のmAbは2020年の臨床試験で有望な結果を示し、今年末にはFDAがCOVID-19の治療と、場合によっては感染予防のために3つに緊急使用認可がおりました。

モノクローナルは、インフルエンザ、ジカ熱、サイトメガロウイルスに対しても開発が進められています。

また、全体として失敗した HIV予防の研究でも、この候補はいくつかの株に対して有効でした。

 

高いコストとクリニックでmAbを注入する必要性から、多くの人にとってmAbは手の届かないものとなっています。

けれども価格が下がり、注射が点滴に取って代わり、より強力なmAbが市場に出回るようになれば、感染症対策の標準的な武器になるかもしれません。

NASAが火星の内部を探る

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岩石質の惑星の内部は、一種のタイムマシンと言えます。

高密度のコア、粘性の高いマントル、硬くなった地殻は、惑星がどのように形成され、撹拌され、現在の姿に落ち着いていったかを明らかにすることができるのです。

今年に至るまで、科学者たちはたった2つのタイムカプセルを利用してきました ー 「地球」と、アポロ計画で一時的に観測された「月」です。

そして今、NASAの着陸船InSightに搭載された観測機器によって、初めて「火星」の核に焦点が当てられるようになりました。

 

2018年にInSightが赤い惑星に到着したとき、岩石採取は困難を極めました。

InSightの熱探査機は、何度も試みたものの、この惑星の粘着性の高い堆積物を貫通することはできませんでした。

ランダーの超高感度地震観測ステーションは、火星の内部を把握するのに役立つ地鳴りを監視するために設計されましたが、その仕事をするのに十分なほど強力な火星地震を拾うことはできませんでした。

また、着陸船の太陽電池パネルにほこりが積もり、徐々に出力が低下していきました。

 

けれどもそれから1年以内でInSightは、1600キロメートル離れたケルベロスフォッサという亀裂のある地域から発生するいくつかの地震を含む、中規模の地震を検知しました。

内部の組成の推定値と組み合わせることで、これらの測定値は惑星の深さを示すのに役立ちました。

地震の地震波のオフセットから、火星の地殻は層状で、地球の大陸地殻よりも薄い40キロメートル以下の厚さであることが判明しました

この薄いシェルによって、火星は初期の内部熱を素早く放出することができたのだろうと考えられています。

 

さらに深く掘り下げると、火星のマントルには、地球で見られるような断熱性の高い下層がないことがわかりました。

また、マントルは浅く、地殻と火星の幅の半分以上を占める異常に大きな液体の核に挟まれていることもわかりました。

火星の質量を考えると、「コアの密度は低く、硫黄などの軽元素の混合物が、氷結を防ぐ塩のように、火星の急速な熱損失にもかかわらず、鉄やニッケルの液体を維持している可能性が高い」と結論づけられました。

 

これらの新しいデータによって、科学者たちは今後何年にもわたって火星の歴史を解明していくと思われます。

火星にはかつてプレートテクトニクスのようなものが存在したのか、液体のコアがいつ撹拌されなくなり、かつて発生していた磁場が停止したのか、等々……

 

8月と9月に、ランダーはこれまでで最大の火山性地震を記録し、まだまだ色々なデータが得られそうです。

けれども、ソーラーパネルに赤い粉が積もり続ける中、その時間は残り少なくなってきています。

2022年末には電力が枯渇すると予測されています。

 

それまでの間、InSightはひたすら観測を続け、データを集め続ける事でしょう。

素粒子物理学の標準模型に、ついに亀裂が?

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ここ数年で最大の結果が、20年前に初めて観測された奇妙な現象を確認したことは、素粒子物理学者が何か新しいものを求めていることの表れかもしれません。

ミュー粒子 (muon, μ) と呼ばれる粒子は、電子より重く不安定で、物理学者が一般的に語ってきた基本粒子と力の理論が予測するよりもわずかに磁力が強いようです。

4月に報告された研究報告では10億分の2.5の食い違いがあり、高エネルギーの地平線のすぐ向こうに新しい粒子が潜んでいることを示唆しているのかもしれません。

 

1960年代から70年代にかけて開発された現在の理論は、標準モデルとして知られ、3つの力(電磁気力、強い核力、弱い核力)と20数個の基本粒子を説明しています。

これは重力と暗黒物質(宇宙の通常の物質より大きいと考えられている謎の物質)を除外しているため、自然界を最終的に記述することはできません。

けれどもこれまでのところ、この標準モデルで、高エネルギー粒子加速器で爆発的に生成されたすべての粒子を説明することができていました。

 

ミュー粒子の磁性は、科学者が未発見の粒子をさらに探索するための間接的な方法を提供します。

量子力学の不確実性のおかげで、ミュー粒子の周りの空の空間は、直接観測できないほどの速さで「仮想」存在に出入りする粒子と反粒子のペアで渦巻いているのです。

標準模型では、これらのペアはミュー粒子の磁気を正確に増加させます。

が、新しい粒子は、この計算を予期せぬ形で変える可能性があります。

 

ミュー粒子の磁性を測定するために、科学者はミュー粒子のビームを磁場中に発射し、磁気の強さに応じた速度でコンパスの針のように回転させました。

物理学者たちは1997年から2001年にかけて、ニューヨークのブルックヘブン国立研究所でこのような実験を行い、最初にこの異常現象を発見していました。

2003年には、より純粋なミュー粒子ビームを得るために、幅15メートルの磁石をイリノイ州のフェルミ国立加速器研究所に運びました。

そして今年、前回の結果が偶然ではないことを証明したのです。

 

けれども適切な比較は標準モデルの予測の精度に依存します。

実験者が結果を発表したのと同じ日に、ある理論家チームが計算結果を発表しました。

彼らは、標準モデルの予測精度を高め、観測されたギャップを縮めることができると主張しました。

他の物理学者は、理論的なコンセンサスは依然としてミュー粒子が余分な磁気を帯びていることを示していると言っています。

 

さて、問題はその理由です。

標準モデルの予測とのわずかな食い違いを探すことで、期待される新しい物理学への手がかりがさらに得られるかもしれません。

あるいは、物理学者に幸運があれば、世界最大の原子破壊装置であるヨーロッパの大型ハドロン衝突型加速器が、3年間のアップグレードを経て来春オンラインに戻ったときに、何らかの新しい粒子を視界に吹き込んでくれるかもしれません。

CRISPRが体の中の遺伝子を編集する

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遺伝子編集ツールCRISPRは、2020年に最初の臨床的勝利を収め、鎌状赤血球症とβサラセミアという2つの遺伝性血液疾患の人々を治癒できる可能性が示唆されました。

その時の方法は、患者から欠陥のある血液幹細胞を取り出し、それを遺伝子編集し、患者に再注入する、というものでした。

今年、科学者たちはさらに一歩進んで、CRISPRを体内に直接導入することに成功しました。

小規模の研究ではありますが、この戦略によって肝臓の有毒タンパク質が減少し、遺伝性失明症患者の視力がわずかに改善されたのです。

 

遺伝子編集は、臓器や血流に注入することができれば、さらに多くの病気に対処することができます。

けれどもCRISPRを人間の体内で機能させるには、大きな課題があります。

CRISPRの分子構成要素が特定の遺伝子を正しく修正する前に、それらを適切な細胞に適切な量だけ安全に運ばなければならない、という事です。

 

Intellia Therapeutics社とRegeneron Pharmaceuticals社の研究者は、遺伝性トランスサイレチン(TTR)アミロイドーシスの患者さん達に、ガイドRNAとCRISPRのゲノム切断酵素のRNA命令を包んだ小さな脂肪球をに注入しました。

研究チームは、患者自身の肝細胞がこの粒子を取り込み、CRISPRの構成要素を作り、それがTTR遺伝子のDNAの両鎖を切り取ることを期待しました。

 

TTRの低下により症状が緩和されるかどうかが判明するまでには、まだ何ヶ月もかかると思われます。

この1回限りの治療で、3週間ごとに注射しなければならないRNAベースの薬剤と同じかそれ以上の効果が得られることが期待されている。

 

別の研究では、エディタスメディシンの研究者が、レーバー先天性黒内障10という遺伝性の視覚障害を持つ成人6人の目に、CRISPR DNAを搭載した無害なウイルスを注射しました。

変異した目の遺伝子を破壊する余分なDNAを切り取ることで、細胞がその欠損タンパク質を作ることを狙ったのです。

3ヵ月から6ヵ月後には、ほとんど目が見えなかった2人の患者が、より多くの光を感じられるようになり、1人は薄暗がりで障害物コースを移動できるようになりました。

究者らは、CRISPRの投与量を増やした成人患者や若い患者において、より大きな視力回復が得られることを期待しています。

胚をより長く延命させる方法

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初期胚の発生を知ることは、科学者が流産や先天性欠損症を理解し、体外受精(IVF)のプロトコルを洗練させるのに多いに役立ちます。

けれどもヒトの胚を用いた研究は、法的、実用的、倫理的な制約があります(山中先生がES細胞からiPS細胞のプロジェクトに変更した理由もここにありました)。

今年科学者たちは、その代用となり得るものを発表しました。

従来よりもはるかに長期間飼育したマウス胚や、ヒト幹細胞や再プログラムした成体細胞から作った胚のレプリカです。

 

これまで科学者たちは、マウスの胚を母マウスの体外で3、4日よりもはるかに長く育てることに苦労してきました

けれども、3月にあるチームがそれを11日にまで延ばすレシピを報告しました。

その鍵は、胚の入った瓶を観覧車のような装置で回転させる、というもの。

この装置は、胚を浸す栄養ブロスを絶えず混合し、酸素濃度と大気圧が調和します。

胚は細胞再編成の重要な段階を経て、器官を育て、後ろ足も生えてきました。

 

また、胚盤胞と呼ばれる重要な胚の段階の代用品を考案した科学者もいます。

胚盤胞は、数百個の細胞しか持たない中空の球で、子宮に着床し、特殊な細胞を持つ最初の胚の段階でです。

また、多くの体外受精(IVF)クリニックで、母親になる予定の女性に挿入されるのもこの胚盤胞となります。

 

ある研究チームは、ヒト胚性幹細胞と人工多能性幹細胞(iPS細胞、特殊な成体細胞から再プログラムされた幹細胞)から胚盤胞のレプリカを作製しました。

また、別の研究チームは、iPS細胞に変化した皮膚細胞が胚盤胞に似た構造を作ることを発見しました。この擬似胚盤胞は本物の胚ではないが、その一部は有益で議論の余地の少ない代替品となり得ると思います。

 

この分野には、5月にも新たな進展がありました。

幹細胞研究のガイドラインを定める国際機関が、ヒトの胚を実験室で14日以上培養することを長年禁止していたのを緩和し、それ以降に発生する胚の現象を調べることができるようになったのです。

この分野での益々の発展が期待されます。

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