2020年Scicenceブレイクスルー

年の瀬、各誌この1年のブレイクスルーや来年の展望etc.をまとめています。

今回は、Science誌の ”2020 Breakthrough of the Year” から。

待望のワクチン

今年の Breakthrough に選ばれたのは、COVID19ワクチンでした。

  • 2019年12月31日、中国の武漢で、謎のクラスター肺炎が発生していると報告
  • 2020年1月8日、中国の研究者が肺炎の原因ウイルスとして新規のコロナウイルスを同定したと The Wall Street Jounal が報道
  • その2日後、SARS-CoV-2の遺伝子シークエンスがオンラインに投稿
  • その数時間以内に、COVID-19のワクチン研究が開始
  • 2020年2月、COVID-19ワクチンプロジェクトが複数の会社で立ち上がった

ワクチンは、

  • 精製mRNAを体内の細胞に入れ込み、その細胞内で作られたCARS-CoV-2表面のスパイク蛋白を抗原とするワクチン
  • アデノウイルスベクターを使って遺伝子を体細胞に入れ込み、作られたスパイク蛋白を抗原とするワクチン

等、様々なアプローチで開発されていきました。

  • 2020年4月、Sinovac が猿の実験で COVID-19 の安全性を証明
  • 2020年4月20日製薬会社5社が、それぞれ臨床試験を開始
  • 同時にトランプ大統領が巨額の資金を COVID-19 のワクチン開発に投入すると宣言
  • 2020年7月、中国が COVID-19 の封じ込めに成功したため、臨床試験は他国で優先
  • 2020年11月、Moderna と Pfizer-BioNTech 有効性試験で95%前後の有効性を報告

95%の有効性というのは驚異的な数字で、インフルエンザワクチンが最も有効性を示しても60%前後と言われています。

今まで、HIV ウイルスなど様々なウイルスに対するワクチン開発競争がありましたが、

ここまで巨額の予算が注ぎ込まれ、こんなに多くの製薬会社、大学、企業が一丸となって開発を行ったワクチン開発は、

今回の COVID-19 ワクチンが初めてといえます。

 

私の所属するペンシルバニア大学病院にも、今月のはじめに Pfizer、翌週には Moderna のワクチンが届き、

優先順位の高い人達からワクチンの接種が始まっています。

 

まだパンデミックが収束するには数ヶ月はかかりそうですが、

予想以上に早くワクチンが実現化し、「終わりが見えて」きたことで、

今年は少しほっとした気持ちで年を越せそうだ、と Science誌はまとめています。

以下、ラインナップ9報。

CRISPRを使って初治療

2012年に開発されてから、技術革新、倫理問題、そしてノーベル賞受賞……と、常に注目の的となってきた CRISPR。

今年は、CRISPR を使った2つの遺伝性血液疾患の治療の臨床試験が行われ、再び注目の波が訪れました。

サラセミア(beta-thalassemia)は重篤な貧血を起こす遺伝子疾患で、造血幹細胞移植が唯一のち療法でしたが、今回、CRISPR治療の臨床試験が開始されてから17ヶ月、患者は輸血なしで過ごせているそうです。

4人の子供達のママである患者の一人は、「完全に人生が変わった」と話しています。

ただ、ほとんどの遺伝子治療と同様に、CRISPR 治療は多額の費用がかかります。(患者一人あたり約1億円……)

患者数の最も多いアフリカにとって手の届きにくい治療といえ、解決策が求められます。

研究者達がダイバーシティについて声をあげる

今年春、"Black lives matter" 運動が起こり、現在も続いていますが、

科学の世界でもダイバーシティについて声を上げる運動が Twitter 上で繰り広げられました。

"#BlackBirdersWeek" というハッシュタグがつけられた投稿は、瞬く間に拡散され、

黒人科学者達の集まりが、Twitter, Zoom, その他のプラットフォーム上で多く開催されました。

この運動が科学の世界を変えるかどうか、結論づけるのはまだ早そうですが、

AAASのシニア・アドバイザー Shirley Malcomさんは、

「George Floyd氏の死亡事件を受けて、多くの人々の関心の目が集まった。」

「多くの科学者が、システム化された人種差別について自由な意見を交わせるようになっている。」

とコメントしています。

地球温暖化についての予想範囲が狭まる

40年以上前、世界中の科学者達がマサチューセッツの Woods Hole に集まって、地球温暖化についての話し合いを行いました。

その際、

「このまま地球温暖化ガス(二酸化炭素, CO2)が 2倍になれば、地球の温度は 1.5°C から 4.5°C 上昇するだろう。」

という見解でした。

 

今年、さらにデータが集められ、この予想範囲が 2.6°C–3.9°C にまで狭められました。

現在、大気中の CO2 濃度は 420 ppm……当時の2倍と設定された 560 ppm まで半分のレベルまで増えてきました。

より積極的なアクションがなければ、2060までにこのレベルに到達することになりそうです。

fast radio bursts の発生場所が明らかに

fast radio burst(FRB)とは 2007年に Lorimer らによって発見された、継続時間がミリ秒程度の突発的な GHz 帯電波信号だそうです。

私達の住む銀河系の外側の非常に遠くから飛来していると考えられますが、その発生メカニズムや起源などはよくわかっておらず、科学者達の興味をひきつけています。

 

現在、宇宙科学者達は、このFRBsが、強い磁場で生まれたり消えたりしている中性子星から発せられているのではないかと考えています。

けれども、宇宙望遠鏡の精度は、その映像を捉えるほどには精巧ではありません。

 

そして今年の4月、FRBが、銀河系の中から発生しました。

銀河系なら、近いので望遠鏡で調べることができます。

Canadian Hydrogen Intensity Mapping Expeiment という望遠鏡が、たくさんの FRBs の像を捉えました。

それは、すぐに、U.S. radio array STARE2 と確認されました。

軌道衛生も、すぐに SGR 1935+2154 と呼ばれる帯磁星をみつけました。

この星は、X線やγ線を大量に吹き出していました。

 

FRBsを研究する天文学者達は、ついに犯人を捉えたと思っていますが、

これらの星がどうやってラジオ波を吹き出しているのかはまだわかりません。

続報に目が離せません。

世界最古の狩りの様子が明らかに

40,000年以上前、Sulawesi と呼ばれるインドネシア島の一角に、有史前のパブロ・ピカソが洞窟の奥深くに壁画を残しました。

それらの絵は、動物の頭を持つハンター達が、野生の豚やバッファローを追い詰めているシーンでした。

 

壁に描かれている8人のハンター達は、槍やロープで武装していますが、

長い口輪や鼻をもち、1人には尻尾がありました。もう1人の口は鳥の嘴のようでした。

 

ハンター達が、獲物に気づかれないように動物の毛皮等で身を覆っていた、ということは考えられますが、

もしかしたら、動物と人間とのハイブリット生物など、伝説上の生き物をイメージしていた可能性もあり得ます。

このようなハイブリッド人間の絵としては、ドイツのアルプスで発見されが、35,000前の象牙に描かれたライオン人間などが見つかっています。

 

壁画のいくつかの部分は、"cave popcorn" と呼ばれる白い鉱物で覆われており、そこに含まれるウランから、この壁画が44,000年前に描かれたものだとわかりました。

今まで見つかっている狩りの絵の中で最古のものといえます。

 

もし44,000年前の人々が、ハイブリット人間などを想像して絵に描いていたらと思うと……とてもワクワクしますね。

AI が蛋白の高次構造を解明

約50年間、研究者達は、難題の一つに取り組んできました。

それは、蛋白の高次構造を解明する、ということです。

今年、彼らは、人工知能 (artificial intelligence, AI) プログラムの開発によって、その目的を果たしました。

蛋白の構造を正確に描くことは、その生化学的機能の解明に大きく影響するので、

病態の解明、新薬の開発、はたまた干魃に耐えられる植物や安価なバイオ燃料などの開発などにも大きく貢献することでしょう。

 

これまで、研究者達は、X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡などの方法で蛋白の高次構造を解明してきました。

けれども、約2億種類ものある蛋白のうち、解明できているのは約17万種類くらいです。

コンピューター生物学者達は、蛋白の3D構造をコンピューターで解析することを長年夢見ていました。

けれども、アミノ酸は様々な要素で相互に作用しあうので、一つの蛋白だけでも可能性のある高次構造のパターンは天文学的な数字になります。

 

1994年、構造解析生物学者達は、Cristal Assessment of Protein Structure Prediction (CASP) と呼ばれる、2年に1度のコンペティションを始めました。

参加者達は、まだ構造が解明されていない約100種類の蛋白のアミノ酸配列の高次構造の解明が出題されます。

あるグループは in silico で、あるグループは従来の解析方法で、それぞれ構造解析を行い、それぞれの結果を比較します。

CASPが開始された当初でも、小さな蛋白の in silico は従来の解析方法の結果に近い結果を出せていましたが、

大きな蛋白となると、その結果は従来の解析方法に遠く及ばないものでした。

 

けれども、今年、イギリスを母体した DeepMind の研究者グループが、平均スコアで 100 点中 92.4 点を叩き出しました。

彼らの AlphaFold プログラムは、次点のコンピューターよりも平均で 87.25 点高いという驚異的な結果でした。

このコンペティションの参加者達は、彼らの手法を公開するというルールがあるので、

「AlphaFold と同レベルの解析を他のラボでもできるようになるのは時間の問題だ」

と開催者は語っています。

HIV ウイルスをおとなしくさせておく方法

HIV ウイルスは、他のレトロウイルスと同じく、人の染色体のゲノムの中に入り込んで隠れるため、免疫細胞から逃れ、抗ウイルス薬も効きません。

けれども、ウイルスがゲノム内のどこに隠れるかは、感染した人達毎に異なります。

 

今年、HIV に感染しても抗ウイルス薬なしにほとんど症状を発症していない 64 人の患者を対象に行われたスタディで、

HIV ウイルスの隠れた場所が、ウイルスの増殖抑制に関与している事が明らかとなりました。

これを、"elite controllers" と呼んでいます。

elite controllers は、直接的な HIV 治療には繋がりませんが、

「HIV ウイルスと共存して健康的な生活を送る」

という、新たな戦略の緒になりそうです。

 

この elite controllers についての研究によると、45% の元気なプロウイルスが、遺伝子砂漠ともいうべき場所にいました。

これらの人達は、何らかの免疫反応により、HIV プロウイルスの隠れ場所を、危険な場所から安全な場所に移動させたのかもしれません。

その方法がわかれば、他の HIV 患者にも応用し、HIV ウイルスにおとなしくしていてもらうことが可能です。

 

HIV ウイルスを除去して治療する、という方法は、何年かかってもうまくいっていませんが、

このように、ウイルスと共存しながら、お互い健康で長生きする、という戦略が功を奏すのかもしれません。

室温での超電導がついに可能に

科学者達は、室温での超電導が可能な物質を、何十年も探し続けてきました。

今年初めて、水素と炭素を含む物質に、地球の中心くらいの高圧をかけることで、それが可能となることを突き止めました。

もし、地球表面の圧力でも超伝導が可能な物質が見つかれば、テクノロジーを刷新し、電気がワイヤーを通過するときに生じる膨大なエネルギー消費を抑える事が可能となります。

 

1911年、物理学者の Heike Kamerlingh Onnes が水銀のワイヤーを4.2 K (-269.35℃) まで冷やすと、通常起こる発熱がない状態で電気を通す事を発見しました。

1986年、研究者達は、酸化銅セラミックスで同様の現象が起こることを発見しました。

これらの超電導は、77 K (-195℃) という超低温を必要とします。

けれども、酸化銅には室温での超電導を可能とするヒントが隠されているのではないかと考えられてきました。

 

今年、高圧物理の世界でそれが証明される形となりました。

地球表面の何百倍もの圧力をかけた2つのダイヤモンドの間に挟まれた物質で超伝導が確認されました。

2019年、ドイツの研究グループが、ダイヤモンドのアンビル上で、ランタンと水素を 170 GPa まで圧力をかけ、250 K (-23.150 °C) での超電導を確認しました。

 

今の所、この超電導物質は、圧力を解除するとバラバラに壊れてしまいます。

けれども、全ての物質がそうなるとは限りません。

例えば、ダイヤモンドは、地中奥深くの高圧環境で生まれますが、地上に出てもその形を保っています。

今、研究者たちは、そんな物質―彼らの研究分野にとっての宝石―が見つかることを期待しています。

鳥はあなたが思うよりもずっと賢い

鳥達の脳はとても小さく、くるみほどの大きさしかありませんが、実は私達が想像する以上に賢い生物のようです。

今年、鳥類に関する驚くべき報告が2つ報告されました。

 

1つは、鳥類の脳には、私達人間の大脳皮質に相当する部位を持っているようだ、というもの。

私達の大脳皮質は、水平方向および垂直方向に神経ネットワークを張り巡らし、高次機能と呼ばれる複雑な処理を可能としています。

今まで、鳥類の脳は、このような構造はなく、ただの神経の集まりのような構造だと考えられていました。

しかしながら、3D polarized light imaging と呼ばれる手法を用いて解析したところ、伝書鳩と梟の前脳部分に、人間の大脳皮質と同じような、水平・垂直方向の神経ネットワークがあることを突き止めました。

 

もう1つの研究は、賢い事で知られるハシボソカラスの研究です。

まず、研究者達は、コンピューターのモニター上に任意のシグナルがでたら、頭を回転させるようにカラスをトレーニングしました。

カラスの脳内に埋め込まれた電極で、神経活動で観察すると、シグナルがほとんど見えないようなときでも脳内の神経活動がみられ、

カラスがただ信号に反応しているのではなく、自分で考えて行動している事が示唆されます。

 

このような "sensory consciousness" は、人間の経験における自己認識の始まりと考えられており、このような意識は、3億2000年前の、鳥と人間共通の祖先の時代に形成されたのではないか、と考えられます。

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