
アルツハイマー病(Alzheimer's disease, AD)では、βアミロイド(Amyloid beta, Aβ)やタウ病理と共に、鉄代謝の障害が起こっている。
フェロトーシスは最近同定された鉄依存性の細胞死であるが、AD病理との関連は明らかではなかった。
英King大学のSoらのグループは、タンパク解析やメタボローム解析などを組み合わせて、AD患者(n = 7)と認知機能正常コントロール群(n = 7)の剖検脳を解析した。
アルツハイマー病にフェロトーシスが関与?
AD群では、フェリチンの上昇を伴う鉄代謝異常を認め、システイン/グルタミン酸トランスポーターの軽鎖サブユニットの発現上昇、脂質酸化、グルタミン酸/GABA比の上昇を認めた。
これらの結果は、AD脳でフェロトーシスが起こっている事を示しており、ADの治療ターゲットとして期待できる。
Iron dyshomeostasis is implicated in Alzheimer’s disease (AD) alongside β-amyloid and tau pathologies. Despite the recent discovery of ferroptosis, an…
My View
フェロトーシスは、以前、鉄代謝異常 × PD のマウスを解析していた事もあって気になってはいたのですが、これを機に勉強。
私が学生だった頃は、細胞死といえばアポトーシスとネクローシスしかありませんでしたが、その後、分子メカニズムの研究が進み、
今では、ネクロプトーシス、パイロトーシス、フェロトーシス、オートファジー細胞死、ネトーシス etc. 様々な細胞死機構が明らかになっています。
ざっくりと分けると、
- 分子によって制御される細胞死(regulated cell death, RCD)
- 受動的な細胞死 (accidental cell death, ACD)
に分かれ、
ACDはほぼネクローシス、RCDには、アポトーシス、ネクロプトーシス、パイロトーシス、フェロトーシス、オートファジー細胞死、ネトーシス etc.が含まれます。


フェロトーシス(ferroptosis) は、鉄依存性の細胞死で、脂質酸化により細胞死が誘導されます。
Rasを高発現するがん細胞に細胞死を誘導する化合物のスクリーニングで同定された化合物の解析により、
カスパーゼ非依存性で、鉄(ferrum)を介した細胞内で生じる脂質酸化が起因となる新しい細胞死として、フェロトーシスと名付けられました(Dixon SJ et al., Cell, 2012)。
細胞内のシスチン、システイン、グルタチオンが枯渇
↓
リン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ(PHGPx)(グルタチオンペルオキシダーゼ4, GPx4)活性が低下
↓
遊離2価鉄依存的なフェントン反応
↓
生体膜リン脂質の酸化が亢進
↓
細胞死
といった感じ。
このカスケードは、ビタミンE、フェロスタチン1の抗酸化剤、鉄のキレーターで抑制されます。

癌研究(Dixon SJ et al., Cell, 2012)の他、
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH, Tsurusaki et al., Cell Death Dis, 2019)、
急性腎炎(Müller et al., Cell Mol Life Sci, 2017)などでも
研究がすすんでいる様子。
今までは、フェロトーシスに関与する経路としてGPX4だけしか知られていなかったようですが、
昨年、新たな独立した経路が報告されました(Bersuker et al., Nature, 2019)。
A synthetic lethal CRISPR–Cas9 screen identifies ferroptosis suppressor protein 1 as a key ferroptosis-resistance factor, the expression of which correlates with ferroptosis resistance in hundreds of cancer cell lines.
FSP1(ferroptosis-suppressor-protein 1)は、酸化脂質を捕捉するユビキノール(還元型のコエンザイムQ10, CoQ10)を生成しますが、これはGPX4がなくてもフェロトーシスを防ぐとの事。
CoQ10は、東大で多系統萎縮症(MSA)に対する治験が行われています(こちら)が、フェロトーシス抑制による効果も期待できるってことでしょうか。
そして、ADにも適応拡大できるかも……
References
- Ashraf et al., Redox Biol. 2020 Mar 5;32:101494. doi: 10.1016/j.redox.2020.101494.
- 細胞死 新しい実行メカニズムの謎に迫り疾患を理解する, 実験医学増刊 Vol.34 No.7
- Ashkenazi A and Salvesen G, Annu Rev Cell Dev Biol. 2014;30:337-56. doi: 10.1146/annurev-cellbio-100913-013226.
- Tsurusaki, S., Tsuchiya, Y., Koumura, T. et al. Hepatic ferroptosis plays an important role as the trigger for initiating inflammation in nonalcoholic steatohepatitis. Cell Death Dis 10, 449 (2019). https://doi.org/10.1038/s41419-019-1678-y
- Müller, T., Dewitz, C., Schmitz, J. et al. Necroptosis and ferroptosis are alternative cell death pathways that operate in acute kidney failure. Cell. Mol. Life Sci. 74, 3631–3645 (2017). https://doi.org/10.1007/s00018-017-2547-4
- Bersuker K et al., Nature. 2019 Nov;575(7784):688-692. doi: 10.1038/s41586-019-1705-2. Epub 2019 Oct 21.