nat-immunol-2021

Alzheimer's disease (AD) の 主要病理の一つである アミロイドβ (Amyloid beta, Aβ) プラークですが、その形態によって、いくつかの種類に分かれています [1, 2]。(Glossary参照)

その中でも、孤発性 AD の脳内で多くを占める Aβプラークは、

  • 中心にコアを持つ、典型的老人斑 (cored plaques)
  • 中心にコアを持たない、びまん性老人斑 (diffuse plaques)

です。

今回、アメリカ・Salk 研究所の、Dr. Lemke らの研究グループは、これら Aβ プラーク形成にミクログリアが関与している可能性を報告しました [3]

Nat Immunology 2021

今回、彼らが注目したのは、TAM受容体で、マクロファージなど免疫細胞の機能に関与する、Axl と Mer (Glossary参照)

以前彼らは、Axl と Mel がミクログリアの機能調節に関与することを報告していました [4]

そこで今回は、ミクログリアの重要な仕事の一つである、Aβ の貪食について、Axl と Mel がどのように関与しているのか、調べました。

まず、APP/PS1 マウス(swedish 変異の APP と presenelin 1 変異 を導入したトランスジェニックマウス)の Aβ プラークを観察すると、

すると、Axl と Mer は、プラーク関連ミクログリア (plaque-associated microglia, PAM) 内で、年齢依存的に増加していました。

TAMとプラーク

次に、この Axl と Mel を欠損させると、ミクログリアの Aβ 処理能力がどうなるか調べました。

結果、APP/PS1マウスの Axl と Mel を欠失すると、ミクログリアの機能が喪失し、

dense-core plaques の数が減って、diffuse plaques が増えていました。

ミクログリアのTAM除去

このことから、ミクログリア内でのTAMシステムは、diffuse plaques の一部を貪食して、dense-core plaques 形成に関与する可能性が示唆されました。



diffuse plaque から cored plaque になっていくことはよく言われていましたが、その工程をミクログリアが行っていたとは……

ミクログリアは働き者ですね。

Glossary

老人斑の種類 [1, 2]

プラーク
(老人斑)名

直径
(μm)

dystrophic neurites (神経突起) 特徴
classic/typical plaques
(neuritic plaques, cored plaques)
典型的老人斑
20-100 μm, 50 μm 前後が多い。 中心に高密度の核、周囲にハロー構造を持つ。核とハローの間はしばしば透明な部分で仕切られる。 変性した神経突起やグリアの突起を巻き込んでいる。ハローを構成する。 コンゴーレッド、チオフラビンで強染。周囲に活性化グリア。
primitive/immature plaques
原始老人斑
20-50 μm 中心に核を持たない球状構造。 変性した神経突起が散在。 コンゴーレッド、チオフラビンで強染。健常高齢者脳に多い。
compact/burnout plaques
核化老人斑
20-50 μm 密度の濃い核からのみなる構造。 変性した神経突起はほとんど存在しない。タウ陰性。 コンゴーレッド、チオフラビンで強染。
cotton-wool plqaques
コットンウール班
>200 μm、500 μmくらいのものもある。 低密度。アミロイド繊維なし。巨大な球状の老人斑。主にAβ42で構成。 編成した神経突起が散在するが、多くない。 HE染色でエオジン好性。活性化グリアの集簇なし。PS1変異FAD脳の特徴。
diffuse plaques
びまん性老人斑
~200 μm 円形または不定形構造。アミロイド繊維はほとんど観察されず、高密度の核を持たない。 変性した神経突起はほとんど観察されない。 コンゴーレッド、チオフラビンでほとんど染色されない。活性化グリアの集簇は少ない。健常高齢者脳でよく観察される。
course-grained plaques ~80 µm 多数のコアと、孔をもち、大脳皮質に多い。 リン酸化タウ、APP、PrPc等、神経突起を含む 早期発症型ADに多い。APOE4+/+, CAAと相関あり。グリアの集簇、炎症成分の関与あり。主にAβ40で構成。

TAMレセプター [4, 5]

  • Tyro3
  • Axl
  • Mer

の3つが属し、プロテインS や growth-arrest-specific 6 (Gas 6) を主なリガンドとする、チロシンキナーゼ受容体。

SLEにおける自己免疫性の亢進、血小板血栓の安定化、アテローム効果性病変の進展、癌の進展などとの関係が示唆されている。

今回のターゲット Mer と Axl と免疫系細胞との関連としては、

  • マクロファージやミクログリアのファゴサイトーシスに関与。特に Mer。
  • Axl は Toll-like レセプターや cytokine レセプターシグナルに対してのネガティブ・フィードバックに関与
  • Mer と Axl はミクログリアの機能調節に関与 [4]

etc...

TAM receptors TAM レセプター と そのリガンド [5]

References

  1. Boon BDC, Bulk M, Jonker AJ, Morrema THJ, van den Berg E, Popovic M, Walter J, Kumar S, van der Lee SJ, Holstege H, Zhu X, Van Nostrand WE, Natté R, van der Weerd L, Bouwman FH, van de Berg WDJ, Rozemuller AJM, Hoozemans JJM. The coarse-grained plaque: a divergent Aβ plaque-type in early-onset Alzheimer's disease. Acta Neuropathol. 2020 Dec;140(6):811-830. doi: 10.1007/s00401-020-02198-8. Epub 2020 Sep 14. PMID: 32926214; PMCID: PMC7666300.
  2. アルツハイマー病の謎を解く 岩田修永、西道隆臣著、中外医学社
  3. Huang Y, Happonen KE, Burrola PG, O'Connor C, Hah N, Huang L, Nimmerjahn A, Lemke G. Microglia use TAM receptors to detect and engulf amyloid β plaques. Nat Immunol. 2021 Apr 15. doi: 10.1038/s41590-021-00913-5. Epub ahead of print. PMID: 33859405.
  4. Fourgeaud L, Través PG, Tufail Y, Leal-Bailey H, Lew ED, Burrola PG, Callaway P, Zagórska A, Rothlin CV, Nimmerjahn A, Lemke G. TAM receptors regulate multiple features of microglial physiology. Nature. 2016 Apr 14;532(7598):240-244. doi: 10.1038/nature17630. Epub 2016 Apr 6. PMID: 27049947; PMCID: PMC5358512.
  5. Lemke G, Rothlin CV. Immunobiology of the TAM receptors. Nat Rev Immunol. 2008 May;8(5):327-36. doi: 10.1038/nri2303. PMID: 18421305; PMCID: PMC2856445.
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