farewell-ceremony

先日、Co-PI の Institute of Aging (IOA) ディレクターの離任式がありました。

彼は1991年から約20年間 NIA のディレクターを努めていましたが、今年離任を決めたようです。

 

私達がラボに来る1年前、初めて彼と会って話をしたとき、

「僕もPIももう70歳になるけど、それでもいい?勿論、僕たちは死ぬまで元気に働くつもりだけどね!」

と、高らかに笑いながら話していました。

 

しかしながら、彼は2年ほど前から体調を崩し始め、突然の体調不良や怪我でミーティングを欠席する事が多くなりました。

彼本人から

「このミーティングは絶対出たいから元気になるまで延期させてほしい」

と要請があり、ミーティングが延期になることも多々ありました。

 

 

式はセンターの講堂で開催され、多くの人々が参加していました。

夕方から夜にかけてのスケジュールでしたが、夫が子供たちをみてくれる事になり、私は一人で参加させてもらいました。

真ん中の一番見晴らしの良い席を見つけて座ると、式がスタートしました。

彼と親交の深かった人達が、彼の人柄や業績などを話していきます。

  • 彼の H-index が 250 近くあること、
  • 彼の trainee 達は現在も様々な場所で活躍しており、彼なしではその人達の現在はありえなかったこと、
  • 話し好きで、ミーティングやセミナーではサイエンスの質問よりもプライベートの質問の方が多かったこと etc...

それぞれの人達の話から、彼が優秀な科学者であると同時に、とても親しみやすい人柄で多くの人達を育ててきた優れた指導者・教育者であることが伺えました。

 

 

人々の話を聞きながら、私は、彼と過ごした日々を思い返していました。

 

彼からは、ラボに来てから何かと気にかけていただき、定期的に個人ミーティングを開いてくれたり、いきなり電話がかかってきて夕食に誘ってくれたりしました(子供たちがいるのでその誘いを受ける事はできませんでしたが)。

いきなりラボの全館放送で呼ばれて何事かと駆けつけると、

「この緑茶、すごく美味しかったんだけど、君からもらったんだったっけ?」

という質問で、その後1時間くらいお茶の話になったりしました(ちなみにお茶を贈ったのは私ではありません)。

 

個人ミーティングは、サイエンスを先に進めるというよりは、彼との親睦を深めるような感じの内容になることが多く、「正直もう少し頻度を減らしてもらいたいかも。」と思う事もありました。

けれども彼の方は個人ミーティングを楽しみにしてくれていたようで、あるミーティングの最後には、

「僕は君たちが大好きだ!」

と言って、両手を広げて笑いかけてくれました。

ただその時は、夫の事があったのでその好意を心から喜ぶ事ができず、私は日本人お得意の建前と愛想笑いで返しました。

彼は特に疑うような素振りもなく、嬉しそうに頷いていましたが、今から考えると大変申し訳なかったと思います。

 

 

人々のスピーチが終わり、最後に彼本人からのスピーチの時間になりました。

彼はこの日の前日まで風邪で1週間ラボを休んでおり、おそらく万全ではない体調の中、無理にこのセレモニーに参加してきたように見受けられました。

おぼつかない足取りで演台までたどり着き、話を始めましたが、それはスピーチ好きな彼のイメージとは随分かけ離れたものでした。

私は彼の写真を撮ろうとカメラを向けていたのですが、彼は下に置かれた原稿から目を離さず、なかなかシャッターチャンスが訪れませんでした。

時々同じ行を読んでしまう事もあり、私はかなりハラハラしました。

ようやく彼が原稿から目を話して顔をあげたとき、会場からはいくつものシャッター音が響き渡りました。

彼は最後に何度も「ありがとう」と繰り返し、みんなは立ち上がって永遠と続くかのような拍手を贈りました。

 

本来はこの後レセプションで立食パーティーがあるはずなのですが、COVID-19の為にそれが叶わず、代わりに小さなシャンペンがお土産に配られました。

けれども人々は、帰る間際にも次々に Co-PI の元を訪れ、ずっと彼に話しかけていました。

私はいつもなら遠巻きにみてそのままその場を立ち去っていましたが、

「これが最後のチャンスになるかもしれない。」

と思ったので、少し離れたところで彼と話す機会を待ちました。

すると、彼の方が気づき、私に手招きしました。

 

私が輪の中に入ると、彼は、

「紹介するよ。彼女は僕の今のポスドクなんだ。」

その後、一呼吸おいて、

「そしておそらく最後のポスドクだ。」

と私を紹介しました。

人々は、その2段階の紹介で2度のリアクションをとることになり、ちょっと切ない眼差しで私とCo-PIを眺めました。

 

「ちょっと座ってもいいかな。僕、病み上がりであまり長く立ってられないんだ。」

という彼の言葉を受け、立ち話は終了しましたが、

私は最後に彼と記念写真を撮ってもらいました。

 

会場を後にしながら、

「彼が生きている間に、H-index 250 超えを見せてあげられるよう頑張ろう。」

と思いました。

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