以前、長男(11歳)の「注意欠陥・多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder, ADHD)・注意欠如型」疑いについて、小児科にevaluationの申し込みを行いましたが、
長男(11歳)は、いわゆる「座学」が苦手です。 以前、COVID-19で授業がオンラインになっていた時、自主学習の宿題がたくさん出ていたのですが、彼は尽く未提出で、100個くらい提出が滞った事がありました。 帰国後の授業 …
実際診察や検査を受けられるようになるまでには時間がかかり、あと何ヶ月待てばいいのか全くわからない状態です。
その間、彼の生活状況が急に悪くなってきた感があり、しばらく傍観していた夫がついに立ち上がりました。
彼は図書館でADHDの本を借りてきて勉強を始め、その後良さげな本の改訂版を購入、そして毎日のようにYoutubeでADHD関連の動画を見て勉強しています。
そして出た結論。
夫「ゲームは良くないと思う。」
Youtube活動を初めてからゲーム依存症と勉強へのストレスが悪化
長男は、以前からマインクラフトのゲームの内容をYoutubeに投稿し始め、Youtuberとして生計を立てられるようになる事を目標にしていましたが、
長男(10歳)が初めて「将来は YouTuber になりたい」と言い出したのは、今から約1年前のことでした。 自分の好きなマインクラフトのゲームで遊んでいるところを動画にとり、YouTube にアップしたいそうです。 そ …
ある時点から投稿回数が減り、
「ネタ探し」
と言って、動画編集の時間もゲームをするようになりました。
そして動画作りも飽きてきて、Youtubeの動画作成のために当てていた時間の全てを、ゲームをして過ごすようになりました。
それと呼応するように、彼は勉強の時間に全く集中できなくなり、
イライラしたり、理由をつけて部屋を出ていったり、机に突っ伏して問題を見ようとしなくなったりしました。
彼の変化は、私達両親だけでなく、妹弟の目から見ても明らかでした。
……そして当の本人も自覚していました。
私達は長男に、もうYoutuberになる事は諦めたのかと訪ねました。
すると彼の口から出た答えは、
長男「……だってもっと簡単にお金が稼げるかと思ってたんだ。」
とのこと。
Youtuberになる事をやめたのであれば、Youtube制作のために割いていた時間は意味がなくなります。
私達は長男と話し合い、ゲームの時間を元の1時間に戻す事にしました。
ADHD勉強会
なぜ、一時期改善したと思っていた長男の行動や「勉強に対するストレス」が急に強くなったのか、
夫はその原因がゲームにあるのではないかと考えました。
彼はその根拠となる本と動画を私達に紹介し、私達に説明してくれました。
そして、これまで「Youtube活動報告会」に当てていた週末の1時間を、「ADHD勉強会」のために使わないかと提案してきました。
これまでに家族内のADHD勉強会(参加者:夫、私、長男)は数回開催され、ある程度イメージがついてきように思います。
特に、長男の苦手事項や、ちょっとした言動のズレについて、家族でその背景機序などを共有できたことで、コミュニケーションがかなり円滑になってきたように思います。
今の所、長男は学校生活には支障はないようですし、まだADHD evaluationを受けていないので、彼が本当にADHDを持っているかどうか、現時点ではわかりません。
だからといって、正式な診断がつくまでその特徴と向き合わず、彼の考える事や行動背景が理解できなくなるようでは本末転倒です。
実際、下記の本では、「ADHDについての周囲の理解が不足していると、親子関係が悪くなりやすい」と書かれていました。
現時点で彼の1番近くにいるのは私達家族なので、本人を含めて家族全員が知識と理解力をつけ、
彼に当てはまる部分は取り入れ、当てはまらない部分は取り入れない、という感じで、私達なりに対応していこうと思っています。
とゆーことで、家族で共有したADHD脳の行動背景と、困難回避の方法について、少しずつ書き留めておこうと思います。
ADHDの基本概念については、以前こちらの記事にまとめたので、
最近、長男(10歳)が注意欠陥・多動性障害(Attention deficit hyperactivity disorder, ADHD)の要素を持っているんじゃないかと思うようになり、 ADHDについて勉強するため、この本を読みました。
今回は、勉強会を開催するきっかけとなった「ゲーム依存症」についてです。
ADHDとゲーム依存症
「ADHDの子はゲーム依存症になりやすい」という事は、以前から聞いていましたが、
下記の本の記載によると、
- ADHDの子供は、よりゲーム時間が長くなる傾向にある
- ADHDの基質がベースにある子どもで、幼少時のゲーム時間が長いと、ADHD症状の顕在化が早くなる傾向にある
- ADHDの子供がゲームをすると、症状が悪化することがある
などのエビデンスがあり、専門家の間では、ADHDの子供のゲーム時間に制限をかけることを推奨する人が多いようです。
今回はADHDの子供がゲーム依存症になりやすい原因とその対策について、書き留めておこうと思います。
ADHDの特徴の一つ「報酬系の障害」
ADHDでは「報酬系の障害」が起こっていると言われています。
つまるところ、
「将来の大きなメリットより、目の前の小さなメリットを優先する傾向が強い」
という事です。
アリとキリギリスの話ででてくるキリギリスの考え方ですね。
なので、例えば
「受験に合格するためにちゃんと勉強した方がいいことはわかっているけれども、目の前のゲームの誘惑に勝てず、ずっとゲームをしてしまう」
などの行動も、ADHDの行動の特徴の一つと言えます。
周囲から見ると一見、怠けているように見えるような行動……でもこれは、決して怠けているわけではない のです。
なぜADHDでは遠い将来ではなく目の前の報酬系に飛びついてしまうのでしょうか?
いくつか機序が報告されていますが、ここでは「ドパミン代謝異常」について触れたいと思います。
ドパミンと報酬系
例えば、「ケーキを食べて美味しい!」というシチュエーションがあった場合、
脳内ではドパミンが放出され、その時の嬉しかった体験を記憶し、「またケーキを食べて幸せな気持ちになりたい」と思わせて行動を促します。
これがいわゆる「報酬系」とゆーやつです。
この報酬系は、実際に体験していなくても、その事を想像してモチベーションをあげる事ができます。
例えば、実際の受験はまだ先でも、大学に受かる事を想像して「よし、頑張ろう」と勉強に精を出すときにも、脳内ではドパミンが分泌されます。
このドパミンは、線条体ではドパミントランスポーター(dopamine transporter, DAT)、前頭前野ではノルエピネフリントランスポーター(norepinephrine transporter, NET)などで主に再取り込みされます。
ADHDではドパミン代謝異常により、報酬系の異常が起こりやすくなる
ADHDの脳内では、このドパミンの再取り込みなどに障害があり、神経シナプス間の基礎ドパミン量が安定せず、毎日の生活でモチベーションを維持しにくい と言われています。
これにより、「遠い未来の報酬を想像してモチベーションを維持する」ということが難しいわけです。
長男も、なにかイベントがあっても妹弟ほどには楽しむ事ができず、すぐつまらなくなることが多いです。
なのでよく「もうつまらなくなった。」「もう帰りたい。」など、イベントを企画した側としては気を悪くする言葉をすぐに口に出してしまいます。
刺激的なものに対するドパミンサージが高い
では、彼らの脳内ではいつも神経シナプス間のドパミン量が低いのかというとそうではなくて、
刺激的、快楽的なイベントに対する一時的なドパミン分泌量が通常よりも多い と言われています。
刺激的なイベントの例としては、
- ビデオゲーム
- 衝動買い
- ペットを撫でた時の安心感
- ベッドに飛び込む時の心地よい感じ
- お菓子
- ご褒美シール
- etc...
つまり、普通の人でも快楽を感じるような「目の前の報酬系」に対して ADHD脳では通常よりも強い快楽を感じてしまう ので、結果的に依存状態になりやすくなる、という事です。
ADHD脳におけるゲーム依存症の回避方法
ゲーム依存症については、以前にも記載しましたが、
長男(10歳)は、最近インターネットゲームに夢中です。 ゲームの時間を設定しても、親に内緒でこっそりゲームをしている事が多くなりました。 特に COVID19で学校の授業がオンラインに変わった 日本の塾の授 …
My rating ★★★☆☆ 長男(10歳)は、最近インターネットゲームに夢中です。 ゲームの時間を設定していても、親に内緒でこっそりゲームをしている事が多くなりました。 特に COVID19で学校の授業がオンラインに …
ゲーム依存の場合は、アルコール依存などと違って、
「完全に止める」のではなく、「少しずつ離れてうまく付き合う」
という事が推奨されています。
ゲーム時間に制限をかける
先にも書きましたが、専門家の間で、「ゲーム時間に制限をかける」事に反対する人はほとんどいないようです。
予め時間を設定しておいて、時間が来たら声掛けをしたり、自然とアプリが終了するようにタイマーをかけるなどの対策が良いようです。
ただしここで私が重要だと思うのは、
本人が納得している事。
例えば、本人が了承していないのにゲーム中に勝手に電源が切れてしまったり、ゲームを取り上げてしまったりするのは、絶対にやってはいけないと思います。
必ず本人の意見を尊重し、
- なぜゲーム時間に制限をかけたほうがいいのか
- どのように制限をかけるか
- 制限時間はどれくらいに設定するか
など本人としっかり話し合い、関係者全員が納得した上で制限内容を決定する必要があると思います。
運動・睡眠・栄養
- しっかりと運動し
- 良質で十分な睡眠を確保し
- 栄養のある食事をとる
最初にこの話があがった時、長男は
「そんなの、普通の健康にとって大事ってことじゃん。」
と答えました。
そのとおりで、運動・睡眠・栄養が全ての人たちの健康にとって大切であることは誰でも知っています。
ただ、ここがポイントなのですが、
普通の人が運動や睡眠などを気がけても目に見える効果はすぐには得られにくいのに対し、
ADHDの症状は運動や睡眠によって劇的に改善する事がある ようです。
これは、例えばうつ病の症状が運動や睡眠によって目に見えて改善するのと同じようなものだと思います。
脳内の伝達物質代謝に障害がある場合、このような日々の生活習慣によって神経伝達物質のバランスが整いやすくなり、症状改善が顕著に現れる事が多いんじゃないかと思います。
我が家の対策
我が家では、勉強方法などについてもいくつか対策を立てるようになりましたが、ここでは特にゲームとの関係について対策したことをまとめておきます。
ゲームの時間を設定する
先に書いたとおり、ゲーム時間は毎日1時間、決まった時間に設定しました。
これは、長男の
「毎日1時間くらいはゲーム時間がないと、ストレスが溜まると思う。」
という言葉を受けて設定されました。
時間が来たら自動的にアプリとPCが終了するように設定しています。
ゲームを報酬系の一部にする
子育て本などによく書かれていると思いますが、
「子供に対して『テストで100点をとったらお小遣いUP』など、勉強と報酬を結びつけるのは良くない」
と言われています。
これは、
「勉強を頑張る事自体ではなく、お小遣いUPなどの報酬系がモチベーションとなるため、最終的に勉強自体に価値を置かなくなる」
からです。
けれどもADHDの場合は、
「逆にゲームやお菓子などの一時的な報酬をちょこちょこ設定することで勉強などのモチベーションを維持させる」
事が推奨されていました。
うちでは今まで、私達の仕事時間の関係で
「ゲーム時間→勉強時間」
というスケジュールにしてもらっていたのですが、これだと
「ゲームでドパミンサージを起こして、ちょうどドパミンが枯渇した頃に勉強時間がやってくる」
という、長男にとっては最も非効率的なスケジュールになっていたように思います。
なので逆に
「勉強時間→ゲーム時間」
というスケジュールに変更し、
「ここまで勉強を頑張れば、ゲームの時間が待っている」
という様に、ゲームを報酬系としてモチベーション維持を促すようにしました。
睡眠時間の確保
今まで、長男はとても早起きで、毎朝5時前には起きてテレビやYoutubeを見たりしていました。
またYoutuber活動を始めてからは、「ネタ作り」と言ってゲームをするようになり、長男の起床時間はどんどん早くなっていきました(場合によっては4時前に起きることも……)。
このため、長男の睡眠時間は、同年代の平均睡眠時間と比べて明らかに少なくなっていました。
そこで私達は、
「朝早く起きても、テレビやYoutubeなどは見ず、読書の時間にする」
という決まりを作りました。
長男は本が好きなので暇さえあればkindleで本を読んでいますが、この決まりができてからはだんだんと起床時間が遅くなり、妹弟と同じ6時過ぎまで寝るようになりました。
それまで彼は「僕は早く起きちゃう体質なんだ」と話していましたが、やっぱりYoutubeやゲームが彼を早く目覚めさせていたようです。
運動
以前COVID-19による自宅軟禁が続いていた時、朝のジョギングを日課としていましたが、
子供達と朝のジョギングを初めてから、2カ月が過ぎました。 初めは続けられる確信はありませんでしたが、最近は朝走らないと気持ち悪いと感じるようになってきたので、うまい具合に習慣化できてきたんじゃないかと思います。 &nbs …
学校が再開されてから朝忙しくなり、みんなで走らなくなっていました。
なので最近、朝の時間や週末などに時間ができると、夫が長男を誘って家の周りを走ったり、学校や近くの公園まで散歩に行ったりするようにしています。
ゲーム依存緩和対策の効果
ADHD勉強会が始まり、色々と対策を立てるようになってから、長男の生活状況はまた少しずつ改善してきたように思います。
今回、一度は長男のしたいことを思いっきりさせてみて、それによる彼の言動の変化が顕著だったため、
本人も家族も納得して、ゲーム依存症対策に舵を切る事ができました。
そう考えると、Youtuberを目指してゲーム時間が長くなっていた時期も、私達にとっては決して無駄な時間ではなかったように思います。
まだまだ道半ばですが、これからもADHDやゲーム依存などについて学び、私達の日々の生活に取り入れていきたいです。