"Nodding syndrome(うなずき症候群)" は、原因不明の疫病で、東アフリカの自給農業をしている地域の子供達に発症している。
Pollanenらは、北ウガンダのアチョリ族で、NSを発症して死亡したの13歳ー18歳の子供達の脳を病理学的に検証した。
新たなタウオパチー?
臨床所見:全ての症例で頭を垂れる動き(nodding)、認知機能障害、てんかん発作、神経発達障害を認め、発症前には神経症状を認めていなかった。全ての患者は抗てんかん薬(カルバマゼピンとバルプロ酸)を投与されていた。また、彼らは全員、北ウガンダの反政府活動の真っただ中で、国内難民キャンプ地に住んでいた。
マクロ所見:全ての症例で、軽度の前頭葉皮質の委縮を認めた。
ミクロ所見:
5症例の脳の全ての部位の組織をリン酸化タウ(AT8)で免疫染色し、いくつか選択された部位(大脳皮質、脳幹、小脳など)をα-シヌクレイン(α-Syn、LB509)やアミロイドβ(Aβ、6F/3D)、リン酸化TDP-43(MBAN14)で免疫染色した。2症例の大脳皮質は3リピートタウ(RD3)と4リピートタウ(RD4)でも免疫染色を行った。
病理学的には、タウ陽性の神経原線維変化(neurofibrillary tangles: NFTs)、その前段階構造物(pretangle)、ニューロピルスレッド(neurophil threds: NTs)、点状所見などを大脳皮質、皮質下核、脳幹に認めた。
それらの所見は、前頭葉や側頭葉の、脳回や皮質の表層に斑状に認め、脳溝には少なかった。血管周囲への偏向はなかった。ゴーストタングル(ghost tangle)は脳表層に多かった。皮質の全層でタングルを認め、特に錐体細胞に広範に認めた。最も所見の多かった部位は前頭葉全部、上前頭回、中前頭回であった。後頭葉は比較的保たれていた。海馬はスペアされており、帯状回、扁桃体、海馬回の所見は極軽度だった。
グロボースタングル(globose tangle)やプレタングル(pre-tangle)、NTsは、皮質下や脳幹に多く認めた。これらの所見は、脳幹上部の被蓋核、特にEdinger-Westphal核、黒質、青斑核、胸核に特に多く、レンズ核線条体、視床、延髄には少なかった。オリーブ核や歯状核にはほとんど(あるいは全く)所見がなかった。3症例では、ベルグマングリオーシスとエンプティ―バスケットを伴った、プルキンエ細胞脱落を認めた。
1症例では白質の粗鬆化を認めた。
グリアの細胞内封入体はどの症例でも明らかでなかったが、1症例では、fussy/granular astrocyteを青斑核に認めた。
NFTsは、3リピートタウ/4リピートタウ両方に陽性だった。
α-Syn、TDP-43、Aβには陰性だった。バルーンニューロンやPick小体、レヴィ小体、老人斑、海綿体状変化などもなかった。亜急性硬化性全脳炎や、その他のウイルス性・自己免疫性脳炎の所見はなかった。
これらの結果から、彼らはnodding syndromeがタウオパチーで、新たな神経変性疾患だと結論付けた。
Nodding syndrome is an epidemic neurologic disorder of unknown cause that affects children in the subsistence-farming communities of East Africa. We report the neuropathologic findings in five fatal cases (13–18 years of age at death) of nodding syndrome from the Acholi people in northern Uganda. Neuropathologic examination revealed tau-immunoreactive neuronal neurofibrillary tangles, pre-tangles, neuropil threads, and dot-like lesions involving the cerebral cortex, subcortical nuclei and brainstem. There was preferential involvement of the frontal and temporal lobes in a patchy distribution, mostly involving the crests of gyri and the superficial cortical lamina. The mesencephalopontine tegmental nuclei, substantia nigra, and locus coeruleus revealed globose neurofibrillary tangles and threads. We conclude that nodding syndrome is a tauopathy and may represent a newly recognized neurodegenerative disease.
My View
Nodding syndrome(うなずき症候群)は不思議な病気のようです。
1960年代に最初に報告され、5歳―15歳の子供に発症し、南スーダン、タンザニア、北ウガンダなどに限局しています。
Nodding syndromeを発症した子供は、成長発達が止まり、認知機能障害がおこります。頭を垂れて頷くような動きの発作が特徴のようで、何かものを食べようとしたり、寒いと感じたりすることがトリガーとなるようです。初めは頷くような頭の動きを素早く繰り返し、強直間代発作などに移行することもあるようです(Wikipediaより)。自分が今まで見たことのない食べ物の時には発作が起こらないようなので、ある特定の回路が選択的に障害されるのかもしれません。
原因は不明で、回旋糸状虫症、神経ウイルス、内戦による心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder: PTSD)、化学兵器等による化学物質、農薬、栄養障害など、いくつかの仮説が提唱されています。
ある特定の地域、特に内戦の激しい地域などに限局しており、発症年齢が子供に限られている事などから考えると、確かに、なんらかの化学物質暴露、感染性や自己免疫性の脳炎、栄養などの可能性が高そうに思います。
今回の報告では、この病気の剖検病理所見で多くのタウ病理を認めたということです。著者らは神経変性疾患の可能性と結論づけていましたが、タウは外傷性などでもたまるので、てんかん発作や外傷による二次的な変化の可能性は否定できないようにも思います。
ただ、てんかん発作の二次変化の場合はAβもたまりますが、これらの症例ではたまっていなかったので、違うかもしれません。
また、慢性外傷によるタウの所見は脳溝部分に多いのに対して、これらの症例は脳回に多いこと、血管周囲の偏向がない事などが相違点だと思います。
著者らは、進行性核上性麻痺や、平野先生が報告したParkinsonism-dementia complexの症例(Hirano et.al., Brain, 1961)との類似点や相違点なども考察していました。
個人的には、α-Syn、TDP-43、Aβも、数ヶ所ずつではなくて全ての部位で確認するべきだと思います。特に扁桃体は外せません。
謎の多い病気で、タウがたまる事は確かのようですが、今はまだ見逃しているだけで、まだ他にも特徴的な所見が隠れているような……そんな気がしました。